羽海野チカ『3月のライオン』マンガ大賞受賞

羽海野チカのコミック『3月のライオン』が、2011年度のマンガ大賞を受賞しました。マンガ大賞はまだまだ若い賞ですが、これに選ばれるマンガは、本当に素晴らしい作品です。旧年度の受賞作、『岳』も『テルマエ・ロマエ』も、マンガという表現方法がいかに優れているか、いかに日本文化にマッチしているかを存分に証明しています(どちらの作品も全巻読んでいます)。

さて、今年の羽海野チカ『3月のライオン』。私も副代表も、羽海野チカの大ファンでして、『3月のライオン』最新刊が出ると、即座に購入し、奪い合うようにして読んでいます。

ネット上でこの漫画を試し読みしたのが、そもそものきっかけ。グイッと引き込まれるものを感じた私は、その場でアマゾンに発注しました。

私が思うに、力のある作品は冒頭から違います。これは文学作品でもマンガでも同じ。例えば、源氏物語の冒頭部。ご存知の通り、「いづれの御時にか、女御、更衣あまたさぶらひたまひけるなかに、いとやむごとなき際にはあらぬが、すぐれて時めきたまふありけり。」という文章です。「ほうほう、大した身分でもないこのお姉さんはどうなるのさ?」と、あっと言う間に物語世界に引き込まれますよね。

さて、この『3月のライオン』ですが、17歳のプロ棋士、桐山零が主人公です。複雑な家庭環境にある彼は、家を飛び出し、とてつもなく厳しい世界である(と素人にも思われる)将棋の世界で孤独に闘っています。しかし、ストーリーの主眼は将棋そのものではありません。描写の重点は、むしろ、彼を取り巻く棋士仲間や、下町に住む三姉妹との心のふれあいに置かれています。コミック裏表紙には、「様々な人間が、何かを取り戻していく優しい物語」と紹介されていますが、正にその通りです。
(なお、プロの先崎学氏が将棋監修なので、将棋の面でもしっかりした内容のはず。)

あまりに過酷な環境にある主人公が、何かを取り戻してゆく、そしてその過程で成長してゆく。私の好きなビルドゥングスマンガの一つだと考えてよいかもしれません。

が、羽海野チカのマンガは、それに止まりません。作品全体に詩情が満ち溢れています。私にとって「詩情に溢れる」というのは、最大の賛辞なんですが、このマンガにはその賛辞がぴったり当てはまります。

Wikipediaによると、『3月のライオン』というタイトルには次のような由来があるようです。

“March comes in like a lion”は、”March comes in like a lion and goes out like a lamb. “(『三月は獅子のようにやって来て、羊のように去っていく(3月は荒々しい気候とともに始まり、穏やかな気候で終わる)』)というイギリスのことわざの一部より取られている。

一読者としては、主人公桐山零の人生が、「穏やかな」ものになることを願わずにはいられないんですが、上記の由来を考える限り、そうなってくれそうな気がします。今後の展開が楽しみで仕方がありません。


実は、あまりに『3月のライオン』が良かったので、『ハチミツとクローバー』全10巻も一気に購入して読破したんですよね。私、こう見えても、小さな頃から少女漫画を結構読んでおります。

この『ハチクロ』も、『3月のライオン』に優るとも劣らない詩情を湛えた作品でして、私も副代表も大ファンであります。美術的才能ゼロの私のような人間ですら、「あぁ、俺も美大に行けばよかったかも」という馬鹿な感想を持つほど。大体、入学試験自体受かりようがないんですが……(笑)。

また気が向けば、『ハチクロ』の話も書きたいと思います。竹本君が電車の中ではぐちゃんのお弁当を食べるシーンは、思い出しただけでも胸が熱くなる、ってちょっとマニア過ぎますかね?

『3月のライオン』の試し読みはこちらでどうぞ。
白泉社コミックス試し読み

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