宣伝広告かくあるべし – フェンダー・ストラトキャスター

いや、本当に宣伝広告とはかくあるべしと思うんですよね。

性能の高さとか、品質の良さとか、ましてやコスパとか、そんなのどーでもええねん。とにかくパッと見たら最高ってわかるだろ。ガタガタ能書きを垂れている暇があったら、とっとと買え。

そうしたメッセージが何の押しつけがましさもなく、スッと心にはいってくるようなコマーシャル。大げさに言えば、製品を超えてそのモノやサービスを使う人の生き方にダイレクトに響くようなメッセージ。

何のことだか分かりませんね。百聞は一見に如かず、下記のCMをご覧頂ければと思います。有名なギターメーカーのフェンダーが作ったプロモーションビデオです。

Voodoo Child (Slight Return): Forever Ahead of Its Time | The Year of the Strat | Fender

フェンダーには製品ラインが幾つもありますが、その中でもとりわけ有名でユーザーも多いのが「ストラトキャスター」。使用するミュージシャンがあまりに多すぎて、誰を代表者として挙げたらいいか分からないんですが、不世出の天才ギタリストであるジミ・ヘンドリクスを、その一人として挙げることに異論のある人はまずいないでしょう。

その彼の有名曲 “Voodoo Child (Slight Return)” は、私も子供の頃から半ば子守歌のようにずっと聞き続けている曲ですが、この曲をストラトの名手達がストラトキャスター70周年を記念して、バリバリ弾きまくるんですよね。もうね、涙が出るほどカッコいい。

楽器がからっきし弾けないせいか、楽器を巧みに弾きこなす人を見ると、心から尊敬の眼で見つめてしまうんですが、その極致みたいな人が代わる代わるジミとストラトキャスターに敬意を表し演奏しているのを見ていると、胸が熱くなってきます。

そのうち俺も本物のストラト一本買おうかな……。
ただの置物になること確定なんですけどね(笑)。

そんな気にさせるのは優れた曲、優れた音楽家、優れた楽器、優れた映像制作の成せる技でしょう。宣伝広告かくあるべし。

ついでなんで、内容にも少し触れておきましょう。

冒頭を飾るのは、ナイル・ロジャース。もうね、もうね……(感涙)。この人のギターをどれだけ聴いてきたか分かりません。私が小学生の頃からハマりまくっていた “CHIC” のリーダー・ギタリストにして超敏腕プロデューサー。この人の音の「軽み」って、芭蕉の俳諧なんかにも通じる気がするんですが、そんなマニアックな話をしても誰も共感を覚えてくれません。

トム・モレロ(SOULPOWERと書かれた黒のストラト、黒のキャップの人です)は、絶対に独創的な演奏しかしないと心に決めているような人でして、ここでもかなり独特な音色でソロを取っています。実は彼、ハーヴァード大を優秀な成績で卒業しているインテリでして、大学卒業後は上院議員の秘書を務めていたんですよね。もちろん、そんな所に収まるようなタイプの人ではありませんから、議員と喧嘩別れをして政治的・音楽的に激しいバンドを組むのは事の道理だっただろうと思います。個人的にとても好きなミュージシャンの一人。

タッシュ・サルタナ(サーモンピンク色のストラトを演奏している小柄な女性です)も久々に見ましたが、音楽才人だなと思います。この人もトムに負けず劣らず独創的なんですが、やっぱりカッコいい。ジミー・ヴォーンも日本から参加したReiもストラトの似合うカッコいいミュージシャンです。天国にいるスティーヴィー・レイ・ヴォーンも出演させてあげたかったな。

あと、このビデオ、一人一人の音楽家が演奏した本当の音をしっかりと記録してるんですよね。ナイルの音、トムの音、タッシュの音、全部その個性を損なうことなく忠実に録音するという丁寧な仕事をしています(耳で聴いて判断していますが多分間違いないと思う)。細かい映像処理だけでなく、音への繊細な気遣いがなされているのもこのフェンダーというメーカーへの信頼を厚からしめます。

この記事を書くにあたって、久しぶりにこのビデオを何度か見返したんですが、太陽は画面左から画面右へと徐々に移動し、天候も晴れたり曇ったりしています。晴れの日も雨の日も、朝も昼も夜も、ストラトキャスターはあなたのそばにある。そんなメッセージが込められているんでしょうね。細かい編集に大変な時間がかかったはずのこの映像作品、フェンダー社のストラトキャスターに掛ける思いを余すことなく伝えてきます。脱帽。

あと、このステージ、ジミ・ヘンドリクスの1970年マウイ島公演をイメージしてるんじゃないかなと思います。芸が細かいっ!