安倍晋三元首相の暗殺事件について思うこと

昨日(2022.07.08)は驚愕の事件が起きた一日でした。安倍晋三元首相の暗殺事件です。元首相のご冥福を祈るとともに、ご遺族、特にご母堂のご無念を思いやりつつ、思うところを。

昨日は昼ごろ帰宅して、妻から事件の一報を聞きました。事件発生20分後の段階です。凶行の舞台は奈良だとの由。早速ネットで情報を見ると、「大和西大寺駅前」での事件だとされています。

私は大阪府民ですが、奈良には比較的よく出かける方です。バイクで走ることも多いですし、車で東大阪にある妻の実家に立寄った際、少し足を伸ばすなんてこともしばしば。

先々週も妻と一緒に実家に出かけ、そこから「秋篠寺」という古刹に行ったんですが、その際事件のあった「大和西大寺駅」前を通ったばかり。2週間後に日本を揺るがす大事件が起こるとは夢にも思いませんでした。

息子の通っている奈良の高校からは、「大和西大寺駅で安倍元首相が銃撃されたことから、下校時間でありますが、学校で一時待機させています」とのメールを受け取りました。驚天動地のありえない話で、報道を見ていなければ、いたずらメールとして真に受けなかったでしょう。

報道やTwitterの話を総合するに、安倍元首相は狙撃された大和西大寺駅前から平城宮跡歴史公園へと搬送され、そこからドクターヘリによって奈良県立医科大付属病院まで緊急輸送された模様。

大和西大寺駅前にドクターヘリが着陸するスペースはありませんから、1kmほど先の平城宮跡歴史公園に搬送されたのは納得がいきます。平城宮跡歴史公園は歴史公園ですが、世界遺産に認定されて以来、整備が急ピッチで行われており、昔とは見違えるような立派な公園になっています。私たち夫婦も時々ぶらぶらしている平和な公園なんですが、瀕死の元首相がドクターヘリに乗せられる現場になるとは、言葉もありません。

緊急搬送先の奈良県立医科大も、当塾の元生徒さんが数名在籍していたり、お世話になっている先生のご出身校であったりして、個人的に何となく親しみを感じている大学なんですが、ここが元首相の終焉の地になろうとは。昨日までご本人を初めとして誰一人として考えなかったことですよね……。


この件に関して誰もが言うことでしょうが、テロリズムによる民主主義への攻撃は断じて許されないことです。私も心から同意します。

そもそも議会制民主主義というのは、とても面倒な政体だと思うんです。仮に全知全能の統治者がいるなら、独裁的統治がもっともコストがかからず合理的でしょう。でも、そんな統治者はいやしません。

神ならざる普通の人間が、利益の侵害を最小限にしつつ、合理的な政治的判断を下していこうとするなら、互いに話しあって徹底的に議論するというプロセスを経ざるを得ない。これは近代以降の人間が到達した一種の叡知だと思います(諦念だといってもいいかもしれませんが)。

話し合い・議論というものは、著しく時間がかかるうえに根気を必要とする作業です。短絡的に暴力や金の力に頼ることなく、あくまで言葉を用いてコンセンサスを築いてゆくには、高度な知的能力、とりわけ国語力・コミュニケーション能力が必要になるはず。

そうしたプロセスを経ずに、銃弾で解決するという方法を是認するなら、私たちは野蛮人だった時代に逆戻りです。それは民主主義のために闘った先人への冒涜ですらありうるでしょう。

そうした意味で、今回のテロ事件が日本社会に与える影響は大きなものがあるのではないかと思います。もちろん、悪い意味で、です。「権力者に虐げられたのなら、銃弾をもってお返しすればいい、失うものは何もないのだから。」

こうした考えが蔓延する虞は十分すぎるほどにあります。そして、それは要路にある者を震撼せしめるだけでなく、最終的に一般人の首をも絞めてゆくはず。

アカデミー作品賞にノミネートされた『ジョーカー』という映画があります(名作だ)。あの映画が描いた世界、つまり「持たざる者」が「持てる者」に牙を剥き、その行為に社会全体が共鳴し、さらなるテロ行為を呼び起こすという世界に、今私たちは飛び込んでいこうとしているのかもしれません。

言葉をつかって問題に向き合う。冷静に丁寧に言葉をつかう知性を持つ。ありきたりですが、こうした姿勢を持つ・育てることが強く求められている時代だと考えています。願わくは、今後、模倣犯・類例が発生しないことを。