激しい学力低下
今回のコロナ禍による図らざる長期学校休校。当然のことながら、多くの小学生・中学生・高校生の学力の低下を招いているはずです。それも生半可なレベルではありません。私が思うに「猛烈なレベル」で、です。かつて「ゆとり教育」という話がありましたが、そんなのが可愛く思えるレベルです。
まず、一般的な公立小中学校の多人数授業を想定した場合、教師の話をちゃんと聞いて理解し、指示された演習作業をこなし、その内容を身につけるという一連の流れが、特に手助け無くできる子は一握りです。私の経験上、10人に1人か2人ぐらいでしょう。
それ以外の子達は、教師の手助けを得たり、周りの子供のやっていることを見たり真似たりしながら、なんとかやっていく。もちろん、一度に指導される生徒が多人数であればあるほど、教師の手助けの機会は少なくなってゆきます。
だからこそ、そうした子達の学力向上のためには、生徒を少人数にすることが決定的に重要です(もちろん、自分でスラスラやっていける子にさらに高いレベルの指導をする場合も同様)。
そうした意味で、当塾の場合は「少人数制」というスタンスを崩していないんですが、学校教育の場では、(特に日本の場合)割り振られる予算の都合上、なかなか実現の難しい話です。
「現場性」が重要・オンライン指導が効果を上げるシチュエーションは限定的
その分をカバーして下さっているのが現場の先生方です。彼・彼女らの現場での奮闘によって、辛うじて、本当に辛うじて保たれているのが、一般的な学校・教室という場でしょう。先生方の鋭い観察や、その観察に基づく臨機応変の指導によって、子供達の指導が何とか成立しているわけです(もちろん成立していない場合も大いにある)。
とすれば、少人数指導の場とは異なり、多人数指導の場には、「現場性」つまり「指導者がつぶさに生徒を観察し即座に反応できるような環境」が強く求められるということも、明らかな話です。
そこから、「現場性」を持たせにくい「オンライン指導」には、大きな限界があることもまた自明です。受講者がごく少人数であるとか、受講生の理解レベル・集中力レベルが高いとか、そういう場合以外は、指導に大きな困難が伴います。
マスコミやネットを見ていると、「オンラインで指導を受ければ教室授業がなくても同一の学力を身に付けられる」「教師の工夫次第でいくらでも指導効果は上がる」なんて意見を見かけますが、学校の現場からすると、机上の空論どころか、空理空論アンポンタン!と怨嗟の声を上げたくなる意見でしょう。
ここは大事なので朱書しておきますが、オンライン指導が成立し効果を上げるのは、限られたシチュエーション下においてだけです。実際、私どもが今般スタートさせたオンライン指導は、指導効果を上げられる範囲内でのみお受けしています。
電脳空間特有の制約
上記のような「原理的制約」に加えて、下記のような「電脳空間特有の制約」もあります。
各家庭のネット通信環境のレベル
→最速の光ファイバー回線を備える家庭もあれば、携帯電話の脆弱な回線のみに頼る家庭もある
コンピュータやモバイル機器所有のレベル
→子供専用のパソコンやタブレットが複数ある家庭もあれば、保護者のスマホのみという家庭もある
ICTリテラシーの程度
→各種アプリケーションやPC・周辺機器を使いこなせるスキルのある家庭もあれば、デジタル関係はよく分からないという家庭もある
日々進化しアップデートされるアプリケーションやシステムを追いかけ学習する熱意や時間の有無
一言に「オンライン授業」と言っても、かなり高いハードルが聳え立っているのはご理解いただけるのではないでしょうか。
話は少しそれますが、東大や京大に何人も合格者を出すようなレベルの難関校でも、意欲的な学校はずいぶん前から電子教材(タブレット教材など)を実験的に導入しています。ただ、上手くいっているという話はあまり聞きません。
実際にそうした学校に通っている元塾生に聞いてみると、「全く使えない教材で困っています。普通の教材の方がずっと効果が上がるのに。無理やり使わされる僕達はモルモットですよ〜。」なんて笑いながら言う。
そうしたレベルの子達はまだいいんです。新しいスタイルの教材や指導の「使えない点」を見抜き、自分の力でリカバーできますから。しかし、そのレベルの学校・教師・中高生においてすら、活用には困難を極めている電子教材で、一般的な小学生が、(単なる遊びの域を超えて)確実に学力を身に付けるということは、やはり期待できません。
現実主義に立たなければ
以前にも書きましたが、すいぶん前から私達も秘かに「オンライン指導」について調査を続けてきました。ですから、多くの優れた技術が世に生まれ出てきていることはよく承知しています。しかし、今まで本格的な導入に踏み切れなかったのは、上記のような理由がありました(多忙ゆえの時間的制約も大きいですが)。
理想も大事だと思いますが、理想はリアルな現実に立脚しないと無意味です。私、自分では結構ロマンティストな方だと思いますが(笑)、厳しい現実主義者でもあります。
オンライン「指導」ですら学力向上が非常に難しいとすれば、ましてや、「オンラインで教材を渡しておくので、それを読んで自分で学習しておきなさい」なんてのは、極々少数の子を除き、まず絶対に成立しません。そもそも、タブレットやプリントアウトするためのプリンタがあるかどうかも危うい。
文科省はそれで指導完了としてよいとの通達を出したようですが、これは子供たちにとって、大きな機会と利益の喪失になっています。文科省が立場上そうせざるを得ないことは理解しますが、「君たちが生きていく上で絶対に必要になる力を与えられないけど、ゴメンネ、我慢してね」なんて言うのは、やっぱり大人の敗北です。自分たちが貰ってきたものを次の世代に与えられないわけですから。
といって、当塾に何ができるわけでもありません。大局的なイシューは、政治や行政システムに期待するしかない。私達は目の前にいる塾生さんの学力を向上させるために頑張るだけです。
ではどうすれば?
長期間にわたる休校で、子供たちの学力のみならず、規則正しい生活習慣や社会生活が失われているのは明らかです。いつまでこうした生活が続くのかは私もわかりませんが、政治や行政システムが即座に解決してくれるわけではありません。それは、上記の話からもお分かりいただける通り、原理的にも、電脳空間特有の制約からも困難なことです。
そうであれば、子供たち自身が頑張ること・保護者が頑張ることを基本に置かざるを得ない。塾という立場を離れて、高校生を抱える一人の父親としても強くそう思います。
そうした各家庭の努力と、各学校や民間企業(当塾もその1つです)の努力とをいい形でリンクさせてゆくというのが、現実的な解ではないかと思う次第。
脅すわけではありませんが、比較的マイルドだった格差社会はもう終わりを告げるんじゃないでしょうか。気を抜くといとも簡単に取り残される時代、格差がさらに広がる社会。決して良い社会だとは思いませんが、新型コロナウイルスのもたらす時代だと理解して、覚悟を決めるしかないでしょうね。
役に立ったTwitterまとめ
いつまで続く子の放置…休校中の学校・教委の対応は? – Togetter
2020年4月末の日本各地の状況が集まっています。オンライン授業ができている地方はほとんどなさそう。かなりカオス。
小2の息子のオンライン授業、先生の説明だけでは理解できない子は、周りの子たちを見て真似することもできないのでカオスに – Togetter
海外の話ですが、オンライン授業をしているところはしているところで、やっぱりカオティック。