「河合隼雄のカウンセリング教室」という本があります。先日大型書店に行った際、たまたま手に取ったんですが、無類に面白い。買って帰ったその日、布団の中で読み終えてしまいました。
河合先生の著書は今までにも数冊読んだことがありますが、大学者でいらっしゃるにもかかわらず語り口はおだやか、いずれも素人の立場に立って話しかけるような文章になっています。それでいて内容が深いのですから凄い。難しいことを素人に分かるほどやさしく説くのは本当に困難なことで、これができる学者はかなりの実力者。河合先生の文章が、入試国語の題材としてよく取り上げられるのは必然かもしれません。
詳しい経歴は、ウィキペディアをご覧頂くとして、ここでは、高名な心理学者とだけ紹介しておきます。
河合隼雄 – Wikipedia
さて、前述の本は、カウンセリングを学ぼうとする人に向けて行った講演記録。もちろん私はカウンセラーではありませんし、心理学についても素人です。しかし、塾を運営し生徒を指導するというのは、人との接点が多くある立場です。そうした意味で、大変興味深い話が述べられています。
第1章「カウンセリングと時間」P21より引用
人間が人間にまったくベタベタに依存して立ち直るということはない、ということなんですね。もちろん、依存しないと立ち直れない。みんな苦しいわけですから、ある程度われわれに依存してこられるけれど、最後はその人の足で立ち上がってもらわないと困りますね。これは非常に大事なことで、どなたかが私に依存してこられたとしても、最後のところは自分の足で立って「ありがとうございました。私は自分の人生を生きますから」とならないと、カウンセリングは成功したことにならない。
そうすると厳しいようだけれども、やはりそこには何らかの制限と言いますか、限界というものがなかったら、この仕事はできないということです。他人のために自分の全エネルギーを使おうと決心するには制限がなかったらできないという、ここが不思議なところです。つまり、時間と場所が決まっているからこそ、その時間のあいだ本当に全エネルギーを使うことができる、というわけですね。
この話、勉強・授業にもそのままあてはまる気がします。国語でも数学でもよいですが、何とかして成績を上げたい生徒がいるとします。もちろん、私としても、自分がやってみて上手くいったケースや、他人に指導して上手くいったケースを総動員しながら、できる限りのことを考え、教え、アドバイスするわけです。
しかし、最後は本人の問題なんです。本当に成績を上げたいのか。本当に受かりたいのか。勉強や受験を自分の問題として捉えているか。河合先生の言葉を借りるならば、「『どうも助かりました。おかげで自分一人で合格点が取れるようになりました』とならないと、指導は成功したことにならない。」といった感じでしょうか。
そして、指導にできる限りのエネルギーを注ごうとすると、時間に制限がないとできません。それは教える側にとっても、教わる側にとっても同様だと思います。限られた時間で指導するからこそ効果が上がるというのは不思議なことですが、事実だと思います。
「5分間だけ全力で走れ」と言われる場合と、「24時間ぐらい全力で走れ」と言われる場合を考えていただくとよいかもしれません(ちょっと違うか?)
滋味溢れる河合先生の著書、お薦めです。