森谷明子・小川洋子・勝谷誠彦

たまには文学関係の話。

先日、生徒保護者様から小説読解問題の件でご相談を受けたんですが、その際にお教え頂いたのが森谷明子(もりやあきこ)さんという小説家。不勉強で存じ上げなかったんですが、彼女の『春や春』という作品が、模試問題に出題されたとの由。

気になったので、早速Amazonで注文しました。到着したのが先の水曜日。とりあえずはパラパラめくるだけにしておこうと思ったんですが、あまりに面白くてグイグイ引き込まれました。風呂場にも持って入ってその日のうちに読了。あ〜面白かった!いわゆる、趣味と実益を兼ねて、というやつですね。

春や春
森谷明子

春や春 (光文社文庫)

この『春や春』、女子高校生達が俳句を通じて言葉のセンスを研ぎ澄まし、精神的にも成長してゆくという、いわゆるビルドゥングスロマン。俳句という難しい短詩(本当に難しい詩型だと思う)を通じて日本語のセンスを磨き、精神的にも成長してゆく高校生達。

これ、中学入試国語問題に出題される小説の王道パターンです。この小説を選ぶ模試作成者はなかなかの慧眼の持ち主だと拝察します。

個人的には、もう少し一人一人のキャラクターを掘り下げた話を読みたいという気もしたんですが、俳句研究会に所属する6名の女子高生だけでなく、顧問や指導者、国語教師、俳句甲子園に出場する他校の生徒達、研究会員の家族までもが登場するとあっては、まさに望蜀の嘆(多くを望みすぎ)。

到着が待ちきれず、読前にちらちらとAmazonのレビューを読んでいると、俳句の価値を主張する主人公(後に俳句研究会を設立することになる女子高生)と、国語教師が対立するという筋立てらしい。

ひょっとして、国語教師は「第二芸術論」あたりを繰り出してくるんじゃないだろうかと思いつつ読んでみると、案の定この論考を持ち出して、かよわき女子高生をタコ殴りします(笑)。そりゃ長年国語を指導してきたベテラン女性と論争すれば、女子高生はあきらかに分が悪い。

でも、小説としてはすごくいい展開ですよね。なんの挫折もなくすらすら俳句を詠む女子高生なんてちょっと気持ち悪いですからね(いや、いてもいいんですが)。

思うに、この『春や春』、筆者は俳句・文学に明るくない中高生への俳句啓蒙的な要素も盛り込んでくれているのではないかと。個人的にはそれはとても素晴らしいことだと考えます。現代人が俳句をやるなら、「第二芸術論」を知っておく必要はあるわけで、うまい導入になっていると思います。

ちなみに、「第二芸術 —現代俳句について—」というのは、超大物仏文学者(文化勲章受章の京大名誉教授)である桑原武夫による論文。俳句という文学形式をボロクソにこき下ろしているので有名な論文なのです。

桑原先生には恨みはございませんが、仏文学者って結構日本文学・芸能に辛辣な人が多い気がします。辰野隆(たつのゆたか、東大仏文学教授)なんかも、浄瑠璃・義太夫をこき下ろしていたはず。


それはさておき、森谷明子さんについて調べていると、こんなfacebookの記事が見つかりました。

早稲田大学第一文学部の同級生3人がなぜか小説家になりました向かって左が小川洋子先生右が森谷明子先生西宮市の六甲山麓の拙宅詳細は勝谷誠彦のな日々

おお、森谷明子さん、小川洋子さん、勝谷誠彦さんのお三方、早稲田大文学部の同級生だったんだ!小川洋子さんの友人だったら、間違いないわ!と思うぐらいに、私は小川洋子さんの作家活動を素晴らしいと思っているんですが、勝谷誠彦氏も同級生だったとは。

と、驚いていたそのちょうど翌日に勝谷誠彦氏の訃報を聞くという不思議。報道を読むに、過度のアルコールが彼の寿命を縮めたようで。勝谷氏と同じ灘中灘高のOBに、中島らもという鬼才がいましたが、彼もそのめちゃくちゃな私生活が大きく人生を縮めてしまった方。

一般人からすると、もう少し節制してくれていたならなどと思うんですが、彼らとしては案外生ききって満足な一生だったのかも。まあ、自分の人生は自分で決めるしかありません。