少し前の記事の続きです。
「小説問題が苦手でなかなか得点が上がらない」という場合、原因は色々とありえます。今回はその中でもよく見られる、「登場人物の感情表出サインが読み取れない場合」について少し説明してみたいと思います。
ここで私が「感情表出サイン」と称しているのは、何らかの感情を表す「登場人物の行動や表情」つまり「登場人物が表に出している非言語的なサイン」だとお考え下さい。
下に掲げた写真を見てください。先日、梅田の某書店で見つけた表示です。
どう思われますか?
そうですね。「向かって左側に行くと男性用トイレと女性用トイレがある」という風に思いますよね。それも、ほとんど瞬時に。無意識的に。
でも考えてみてください。どうして「く」が左側に(尖ったほうに)進めという意味になるのか。決して必然とは言えないですよね。生まれてこの方、「矢印やそれに似た記号があったら、その尖ったほうに進むものだ」と生活の中で学んできたから、そう思っているに過ぎない。
また、○と|と△で表した図形が男女を示すということも、決して自明ではありません。この約束を知らなければ、「こんにゃくとちくわと団子が二本の串に刺さっている図かな?そうか!おでん屋さんがあるんだ!」と思うかもしれない(笑)。やっぱりこちらも、経験の中で「男女を表す図」だと学んできたわけです。
そもそも、「男女を表す図」が示されているからといって、どうしてそれが「男性用女性用のトイレ」を示すと言えるのか。文化が異なる国の人であれば、「男女の図があるぞ?男女が出会う場があるのか?それとも社交ダンスの練習場だろうか?」なんて解釈をするかもしれない。
やはりここでも、知らず知らずのうちに蓄積してきた経験・学習があるわけです。
(個人的には、この表示、「Toilet」の文字ぐらいは付けておいたほうがいいと思うんですけどね……。)
「登場人物の感情表出サインが読み取れない」という小学生の場合も、上記のケースと同じなんですよね。小説を読むという経験がまだ乏しいため、「小説独特の感情表出サインを知らない」だけなんです。
例えばこんな状況を考えてみて下さい。
Aが一生懸命に自分の考えを述べている。Bは「険しい表情で」「腕組みをしながら」その話を聞いている。Aの話が一区切りついたところで、Bは「無言で」「首を横に振り」「部屋を出てゆく」。
どうでしょう。BはAに対して明らかに「不賛同」であり、「反感」を覚えていますよね。大人であれば、明らかすぎて説明の必要すらないでしょう。
ただ、小学生の場合は違います。「腕組みをしている」のは、暖かく話を聞いてあげているのかな?「首を振る」のはAに賛成したのかな?なんて考えることがざらにあります。
でもそれは責めるべきことではありません。中学受験生の場合、11歳12歳の少年少女です。彼・彼女らは、今までの生活体験や読書経験の中で、そうしたケース・表現に出会ってこなかっただけの話なんです。逆に言えば、上記のような「サイン」と「感情」の典型的なつながりを習得すればよいだけです。
保護者様からすると、どうしてこんな常識的な表現が読み取れないのかとガッカリされるかもしれませんが、それは「大人の観点」です。大人は経験や読書の中で、こうした図式を何度も見てきているので、瞬時に・無意識的に分かるだけ。
中学受験生は、いくら受験勉強をしているといっても、まだ年端のゆかぬ小学生。そこはやはり「小学生の観点」に立ってあげる必要があります。
「首を横に振る」のは「否定・反感」のサインなんだよ、「首を縦に振る」のは「肯定・同感」のサインなんだよ。一度自分で首をタテとヨコに振ってみたら、そんな感じしない?
そんなふうに、サインと感情の組み合わせを教えていく・学んでいくしかありません。逆に言えば、それらを学べば小説問題は何とかなります。
実は「サインと感情の組み合わせ」を幅広く指導・学習できる教材を小学6年生向きに作成しているんですが、忙しくてなかなか作業が進みません。何とか今月中には完成させたいと思っているんですが……。