小説問題が苦手で点が取れないという悩みについて

中学入試国語の小説問題についての話です。

塾生や保護者さんから色々な相談を受けるんですが、その中でも比較的多いのが、「小説問題を苦手としていてなかなか点が取れない」という話。

国語全体がダメというわけではなく、「説明文」や「論説文」といった論理的な文章にはそれなりに対処できるけれど、「小説」になるとどうも点数が取れないというパターンです。色々なケースがあるので、一概には言えないんですが、今回はいくつかの例を考えてみましょう。

小説に関する設問は、「感情読み取り問題」が多いことはご存じかと思います。つまり、

1. 登場人物の感情を読み取った上で
2. 記号を選択する or 記述する

というパターンが多いわけです。

登場人物の感情の動きを追体験することが、小説を読む楽しみの一つ(それもかなり大きな一つ)である以上、「感情読み取り問題」が主たる出題となることには、何の不思議もありません。

ただ、これを教える事はなかなかの難事業なんですよね……。今回は、上記2「記号を選択する or 記述する」の方ではなく、上記1「登場人物の感情を読み取る」方に話を絞ります。


小説の文章内で、登場人物の感情が現れる部分はある程度特定できます(この件は話が長くなるので気が向けば別記事にします)。その一つとして挙げられるのが「登場人物の行動や表情」です。つまり「登場人物が表に出している非言語的なサイン」です。

これは、下記の二つに分類できます。

1. 登場人物が意識的に出しているサイン
2. 登場人物が無意識に出しているサイン

1の例。何度言っても言うことを聞かない部下を上司がにらみつける。「怒り・いらだち」という感情が読み取れますよね。パワハラかもしれないけれど(笑)。

2の例。好きな女の子の前に立つと顔が赤くなってしまう。本人としてはむしろ隠したい感情でしょうが、「恥ずかしさ・照れ」という感情が読み取れますね。

受験生の場合(教える側と違って)、この二つを区別する必要はありません。ただ、それらのサインを取りこぼさず総合的に読み取って、どんな感情が登場人物の心に生まれているのかをつかまえる必要があります。

小説で失点してしまう一つのケースとして、これらの感情表出サインを見逃してしまうケースがあげられます。「見逃し」の場合は、色々な入試問題を解いて(模試はおすすめしません)、取りこぼし・見逃しをなくすトレーニングをすると良いでしょう。


問題は、そもそも感情表出サインが「読み取れない」場合です。つまり何らかの感情を表す登場人物の行動や表情が書かれているのに、それが何の感情を表しているかが理解できない場合です。

この中にも色々な場合がありますが、場合分けをどこまでも広げると話の趣旨が分かりにくくなるので、いくつか代表的なケースをあげてみます。

まず日常生活の中でも他者の感情を読み取ることを苦手としている場合。ただ単に「他者の気持ちに対して鈍感なタイプ」であるという場合もありますが、ある種の発達障害をお持ちの場合も、こうしたパターンに当てはまることが多いような気がします。

ややデリケートな話になりますので、あまり深入りはしませんが、以前アスペルガー症候群の方が大学入試の頃を思い出して書いていらっしゃった文章を読んだことがあります。筆者の知性が窺える面白い文章でしたが、確か難関大学入試を突破して理系学部に進学されていたはず。

筆者曰く、大学入試の勉強の際に、もっとも困ったのが国語。共通一次試験だったか、センター試験だったかは失念しましたが、とにかく小説問題で大きく失点してしまう。登場人物が持っていると思う感情を素直にマルしてゆくと、全問不正解……。設問の解説を読んでも全く納得ができない。

センター試験の場合、小説で全問落とすと200点中50点を失いますから、難関大学や難関学部の合格が遠のいてしまいます。

そこで筆者の取ったのは、「一番正解から『かけ離れている』と思う選択肢を選ぶ」という方策。何とこの方策で、高得点をたたき出されたという話。

半分笑い話として書いていらっしゃったんですが、国語を教えることを生業としている私にとっては、とても示唆に富んだエピソードだったんですよね。私としては、そうした障害をお持ちの方にどの様な指導が最適なのか、いまだ分かりません。ただ、何か大切な事柄が含まれているということは事実だと思います。

(上記の話からもおわかりいただけると思いますが、決して「発達障害=知的に劣っている」ということを意味しているわけではありません。念のため。)


次に、日常生活では特に「他者の感情を読み取って行動する」ことに大きな問題がない人の場合。対社会的な軋轢がない、つまり、友人との関係も良好で、学校の先生方との関係も特にトラブルなしという場合です。

小説が苦手だというご相談を受けた場合は、学校での友人関係や先生方との関係がどんな感じなのかを保護者様に伺うことがあるんですが、これは上記のことを考慮しているわけです。

こういう生徒さんの場合、感情表出サインを「読み取れない」のは、次のいずれかに起因します。

1. 他者との交流経験が乏しい・精神年齢が低い
2. 小説独特の感情表出サインを知らない

1の場合、「国語を教える」のとはちょっと違う方策が必要なのはおわかりいただけるかと思います。教室内で文章に取り組むよりも、教室の外で色々な考えの友人や大人と付き合う方が効果的でしょう。即効性のある対策は特にありません。逆に言えば、普通に友人と遊び、親世代・祖父祖母世代の人と色々な話をしていれば、おおむね大丈夫。受験学年になるまで健全に過ごしていればよいわけです。

2の場合。この場合にこそ、国語の勉強が活きてきます。「感情表出サインと感情の対応」を身に付けてゆくと、確実に読解力が向上します。

そんなわけで、当塾としても一生懸命指導している部分なんですが、感情表出サインを網羅的に入試問題から吸収してもらうのは難しいところがあって、いつも頭を悩ませていたんですよね。

で、実は最近になって、ある方法に基づいて指導資料を作成するめどがつきまして、鋭意作業をしているところです。

ちょっと長くなってしまいましたが、この話、もう少し続けたいと思います。

<続きの記事>

中学入試国語小説 – 感情読み取り問題についてのヒント