Twitterをまとめたニュースを読んでいて、「小学4年生がブログを始めた」という記事を見つけました。ふむふむ面白そうじゃないですか。早速見てみましょう。
読まれた方、どう思われました?「小学生4年生なのにすごいな!」「今どきの小学生は進んでるな!」という感じでしょうか。
断言します。これは大人の書いた文章です。そして大人の作ったブログサイトです。どのような趣旨で子どものふりをしているのかは分かりませんが……。
私は仕事柄、小学生の書いた文章に触れる機会が多いんですが、小学生の書く文章には特質があります(指導の上でいつも留意しているポイントです)。小学生のふりをするなら、もっとそこを勉強しないと。
何なら私が小学生の書いた風文章を書いてあげるんですけどね。年齢層・性別・教養レベル・シチュエーションの指定をしてくれれば、ほとんどの人は気付かないレベルの「贋文章」を作る自信があります。あ、こういう仕事のギャラはすごく高いですけどね(笑)。
さて、見破るポイントをいくつか紹介しましょう。
まず、リンク先の文章には「構成」がありますね。
- 「自己紹介」
- 「ブログをはじめた理由」
- 「ブログを始めた目的」
- 「ホントに小学生?」
- 「最後に」
大変合理的な構成です。筆者の紹介から入って、ブログ開始の理由→ブログ開始の目的→予想される反論への前もっての対応→結び。
難関中学に入る直前の小学6年生ですら、ここまで構成の整った文章はまず書けません。これを書いたのは9歳の小学4年生(という設定)らしいんですが、無理がありすぎ(笑)。
いいですか、理由と目的をしっかり判別して文章を書ける人は、それだけで結構わかりやすい文章を書ける人です。高校生でもそう多くはいないはず。
ほとんどの小学生には、この「理由」と「目的」を峻別することが非常に難しいんですよね。読み取ることですらかなり難しいわけで、書くことなんてとてもとても。かてて加えて9歳児(という設定)……。
文章の方も見ていきましょう。
自己紹介にこのような記述があります。
小学4年生の9歳です。もうすこしで10歳になっちゃいますけど。
僕はごくありふれた小学生で、
(中略)
ただ、他の人と少しだけ違うのは好奇心と行動力の大きさでしょうか。
この好奇心と行動力が僕にブログを書かせています。
細かく見ていきましょう。
「なっちゃいますけど。」
少し含羞をおびた言葉遣いですね。この含羞という感覚、小学生にはまずない感覚です。読者を意識して書いているからこそ、こうした表現が出てくるんですが、この「読者への意識」をもって文章を書ける9歳児はまずいないでしょう。いれば逆に不自然です。
普通の小学生ならこう書くはず。
「僕は小学4年生の9歳です。もうすこしで10歳になります。」
「僕はごくありふれた小学生で」
これは自分と他者を客観視した物言いですね。他の一般的な小学生の性質を考え、その上で自分を客観視して比較するという視点です。
普通、小学4年生はそんなことを考えはしません。彼・彼女らにとって、自分が普通の小学生であるのは当たり前のことです。というか、自分が特殊な存在であるのか、ありふれた存在であるのかなんて、頭をよぎることもない。
「この好奇心と行動力が僕にブログを書かせています。」
抽象的な名詞(好奇心・行動力)が主語となり人(僕)を使役するという構文、小学生はまず書きません。こうした日本語がよく現れるのは、そう、ご存知ですね。英語の教科書です。いわゆる「物主構文」というやつです。
小学生の習う英語は、会話中心でして(これがまたほとんど役立たないんですが)、こうした「無生物主語構文」への理解は、ほとんど持ち得ません。日本語に関する知識の乏しい、普通の英語話者が小学生に教えているようなところでは、そもそも教える側すらそうした観点を持ち得ていない気も……。
いずれにせよ、上記のような趣旨を小学4年生が書くなら、こんな感じになります。
「僕は好奇心がいっぱいです。だから僕はブログを書いています。」
この表現の方が素直な日本語だと言えるでしょう。
このブログの筆者は、少なくとも高校の英語教育課程を経た人だと推察します。
なんか一つ目のパートだけで、ずいぶん根拠が上がってきてしまいました。時間がないので、あとはさらっと。
ブログの文章にはこんな言葉・表現が出てきます。
端的に言えば
ハロー効果
アフィリエイト
情報商材
クラウドソーシング
投資
起業
ネットの発達によって情報のサーチコストもだいぶ下がり
未来永劫に渡ってネット上でスベり続たく(ママ)
フォトジェニック
意識高い系の大学生ですか?
大人なら普通に理解できる語句ですが、小学生には理解の及びにくい言葉ですよね。そもそも投資や起業や情報商材に興味のある小学4年生なんてちょっとね……(笑)。
仮にこうした語句を理解しているとして、小学4年生には遠い世界の抽象的な話です。小学生がこうした「高尚な」語を利用すると、絶対といっていいほど、文章の流れが不自然になります。実感として理解できていないんですから当然ですよね。
この「小学生ブログ」の文章を読む限り、上記のような表現を用いる流れに一切不自然なところがありません。すごい小学4年生だなー(棒読み)。
あと、「ホントに小学生?」というパートを作って、予期される反論に先手を打っていますが、こんなところも全く小学生らしからぬところです。というか、ネット上で情報をやりとりするのに長けている人物像が浮かんできます。「ホント」なんてカタカナ表記にするあたり、結構年配の方のムードすら感じるんですけどね。
私、このパートを読んで、「小学生のふりして書くからさ、みんなネタとして遊んでくれよな!」という解釈をしたんですよね。もし、このブログ筆者が本気で世人を騙そうとしてたなら、ゴメン。
そうそう、HTMLソース(ウェブページとして表示される元になる部分)も読んでみました。あれれ、modified time が平日の学校のある時間になってますね。学校が休みだったのかな?(再び棒読み)。
ということで、国語塾文章探偵団がお送りしました。またの日をお楽しみに。