少し前、大学入学共通テスト記述式問題についての分析記事を書いたんですが、今日はその続き。
どうして当塾はこの試験の動向に注目しているのか
それは簡単なことでして、大学入試の頃にあわてて国語力・読解力・記述力を身につけようとしても、既に手遅れになっていることが多いからです。つまり、大学入試の段階で求められる国語力・読解力・記述力は、小中学生の頃から培っておかなければならない。
もちろん、小中学生に大学入試を教え込もうというわけではありません。大学入試の際に、そして、社会に出た際に、「国語」もっと言えば「(外国語を含めた)言葉」で困って欲しくない、身につけた高い言語操作能力で世の中を渡っていって欲しいという願いが当塾にはあります。そうした言語操作能力は、幼い頃から意識してトレーニングしないとなかなか身につかない。
藤原正彦という著名な数学者がその著書『祖国とは国語』の中で、小学生に対する教育について、「一に国語、二に国語、三四がなくて五に算数。あとは十以下」というふうにおっしゃっています。数学者なのに何を言っているんだとお思いかもしれませんが、真面目な数学者だからこそのお言葉だと私などは思います。
言語というものは、論理的思考・情緒的思考、すべての思考の基礎になるもの。そうであるなら、幼い頃からその力を育んでやるのが正しい。それに最も適した勉強は「母語の十全な習得」である。とすれば、「国語」という教科が最重要視されるべきである。藤原正彦氏はそうお考えなんだろうと思うんですが、当塾としても全く同感です。
難関大学の英語の問題を見ると、「これってほとんど国語力のテストだな」とよく思うんですよね。数学は極度に抽象化を進めた人工言語ですし、理科も社会も言葉で記述される。とすれば、幼い間は「国語」に関する力を出来る限り育てよう。そう考えるのは当然でしょう。
当塾では、原則として、中学受験を目指している受験生(宮田国語塾)と、小学1年〜小学6年までの小学生(完全少人数制宮田塾)をお預かりしています。もちろん塾ですから、目先の成績を上げて欲しいと思っていますし、志望校合格も第一目標です。ただ、そうした指導の根底には、(大げさかもしれませんが)子ども達が最終的に求められる「国語力」に関する考察とでもというべきものが必要なのではないか。遠くにあるゴール地点を見すえておくことで、日常の指導がより充実したものになるのではないか。そんな思いから、日々あれこれと考えているわけです。
中学校の先生方も、おそらくは同じような思いでいらっしゃるはずで、上記のような考えに基づいて指導する方が、結局は志望校合格につながりやすいんじゃないか。異常なほどテクニカルな指導や、細密すぎる出題パターンの分析・分類は、逆に生徒を合格から遠ざけているんじゃないか。そんな気持ちでいます。
求められる能力=テクストを精査する力
前回の記事で、冗長になるとは分かりつつも、全問に付しておいたのが【解答させる内容と資質・能力の関係】。平たく言えば、このテストで求められる能力ですね。ちゃんと意味があるので、今回は第1問だけではなく、第2問の方も含めてピックアップしておきます。
【解答させる内容と資質・能力の関係】
- 第1問-問1 テクストの全体の把握,精査・解釈
- 第1問-問2 テクストの精査・解釈に基づく考えの形成
- 第1問-問3 テクストの精査・解釈に基づく考えの形成
- 第1問-問4 テクストの精査・解釈に基づく考えの形成
- 第2問-問1 テクストの精査・解釈に基づく考えの形成
- 第2問-問2 テクストの精査・解釈に基づく考えの形成
- 第2問-問3 テクストの精査・解釈に基づく考えの形成
お分かり頂けましたでしょうか。全部同じなんです。判で押したように。とにかく「テキストの精査・解釈」こそが大事だと考えていることが一目瞭然ですよね。
これについては私も全く同意見です。読解というものは、とにかく文章を精査することがスタートでありゴールでもあるんですよね。しっかり読む・聞くことの重要性は、下記の記事にも書きましたが、どれだけ強調してもしすぎることはないと思います。
「精査!精査!精査!そいやさ!そいやさ!そいやさ!」と、フンドシ一丁でかけ声を掛けながら指導する毎日ですが(ウソです)、テキスト精査の重要性は、小学生を指導する際にもさりげなく伝えるようにしています。
小学低学年の生徒が「この問題が分からない」と言ってきても、私達はすぐに答えを与えることはしません。「ここらへんをよく読んでみた?」「このあたりをもう一度よく読んでみて」「この段落にはどんなことが書いてたかな?」「じ〜っと読んでみよう」といった感じで、できるだけ自分で答えを導くように仕向けています。サッサと答えとその求め方を教えた方が、生徒も私達も楽なんですけれど、そこはじっと我慢。
即座に答えを与えられるのに慣れてしまうと、「勉強=プリントを埋めること」という考えになってしまいがちなんですよね。何も考えずに鉛筆を動かしているだけの「作業」をいくら繰り返しても、ほとんど意味はありません。私達が、「自分でよく読んでみよう!」とニコニコとしながら生徒を突き放す(ように見える)のは、文章精読・テキスト精査に関する指導の一環です。
話が長くなりましたが、国語力を上げたかったら、「テキストの精査=文章をよく読むこと」が、とにかく重要。幼い頃からそうした癖を付けておけば、大学入学共通テストの記述式問題も恐るるに足らず。そうした意味で、この記述問題は「処しやすい」と言っているわけです。逆に、テキストを精読する癖の付いていない人は、かなり苦戦するでしょう。
以前の予想記事との比較
次は、私が2016年8月に書いた制限字数に関する予想記事との比較。
こんな風に書いていますね。
記述の制限字数は60字〜100字程度になる
20字程度だと記述問題と騒ぎ立てるほどのものではなく、導入の意義に乏しいでしょう。かと言って、150字を超えると大量の答案を平等に採点することが難しくなってくるように思います。
ということで、一般的な大学の入試に見られる字数制限と大きく変わらない字数制限になるのではないか。具体的には100字ぐらいが限界でしょうか。私の予想としては、当たるも八卦当たらぬも八卦ですが、「60字から100字程度」としておきます。
このモデル問題では、一番制限字数の多い問題で「80字〜120字」となっていましたので、まあ、悪くない予想だったんじゃないかと思います。それぐらいの字数に止まるのは、試験に関する状況を考えてみると必然でしょう。大学入試は言うに及ばず、中学入試にもよく見られるような、200字以上の記述問題は出しにくいはず。
モニター調査実施結果から見えるもの
この大学入試センターによる発表には、「モニター調査実施結果の概要について」という報告書も付いていました。詳しくは実際の資料に当たっていただくとして、このブログでは、気になったポイントを幾つか指摘したいと思います。
試験時間について
まず試験時間についてですが、下記のように記されています。
記述式の問題数と時間のバランスについて、例えば、80~120字程度1問程度、40字程度2問程度、計3問程度を出題し、解答時間に必要な時間としては約20分程度を想定し、試験時間全体では100分程度に設定することなどが適当と考えられる。
現行のセンター試験国語は80分の試験時間ですが、新試験では記述問題の20分をプラスして、合計100分にするという寸法ですね。結構余裕を持たせたという気がします。記述問題の方で時間を浮かして、記号選択問題の方に時間を回すというのも一つの手になるでしょう。
解答内容と出題文章について
次に、解答内容と出題文章について。
解答に当たっての条件として、受験者が思考・判断・表現を求められる具体的な場面を適切に設定することにより、解答のパターンがある程度限定され、短期間での客観性・公平性を確保した採点が見込めることがわかった。
そうでしょうね。モデル問題は、出題文章をかなり実生活に即したものにする、言い換えれば単純なレベルの出題文章にすることによって、「解答のパターンがある程度限定され、短期間での客観性・公平性を確保した採点」を可能としています。
これは逆に言えば、「解答のパターンが限定され、客観的かつ公平に採点できる」種類の文章しか出題されない、ということにもなるでしょう。初年度2020年の受験生は、このことを念頭において勉強すべきだと思います。
質問紙調査の結果について
次に、モニタ受験生(幅広い学力層からなる大学1年生)に対する質問紙調査の結果。
<問題の難易度についての受験生の感想>
まずは問題の難易度。
(5段階評価/「5=難」「1=易」)
<第1問>
もっとも多かった解答 「3」 41.0%
次に多い解答 「4」37.8%
ほぼ80%の受験生が「普通〜やや難しい」という風に感じたことが分かります。
<第2問>
もっとも多かった解答 「3」 39.8%
次に多い解答 「4」26.6%
ほぼ70%の受験生が「普通〜やや難しい」という風に感じたことが分かります。
多くの受験生からすると、「超難問ではないけれど、簡単というわけでもない」という感じだったんでしょうね。詳しくは正答率と照合した方がいいでしょうが、それは実際のデータをご覧頂くとしましょう。
<現行センター試験との類似度についての受験生の感想>
私が注目したいのは、現行センター試験との類似度。
(5段階評価/「5=似ている」「1=異なる」)
<第1問>
もっとも多かった解答 「2」 32.4%
次に多い解答 「1」20.1%
ほぼ50%の受験生が「現行センター試験と大きく異なる」という風に感じたことが分かります。
<第2問>
もっとも多かった解答 「1」 86.3%
次に多い解答 「2」8.4%
こちらに至っては、90%以上の受験生が「現行センター試験と大きく異なる」という風に感じています。
契約書という法的な文書を題材とした第2問に顕著ですが、受験生には、現行試験とかなり違うように見えたようです。
<解答時間についての受験生の感想>
もう一つ、私が注目したいのは解答時間です。
(5段階評価/「5=足りなかった」「1=余った」)
<第1問>
もっとも多かった解答 「4」 26.3%
次に多い解答 「5」24.1%
ほぼ50%の受験生が「時間が足りない・苦しい」という風に感じたことが分かります。ただ、この質問については、解答の比率がばらついておりまして、適切な時間だと感じた受験生も多いことが読み取れます。
<第2問>
もっとも多かった解答 「2」 34.1%
次に多い解答 「1」28.0%
こちらは上記と異なり、ほぼ60%の受験生が「時間の余裕があった」という風に感じたことが分かります。
時間の余裕については、出題文章によってかなり異なってくることが読み取れますね。
対策・今後の勉強方針について
大学入学共通テスト記述式問題の出題内容はまだ流動的ですが、今回のモデル問題が大きな参考になることは間違いないでしょう。
当塾からのアドバイス。とことん文章を精読する癖の付いていない人は、早めにその癖を付けておくこと。一朝一夕には身に付かないので、普段から意識しておくこと。脅すわけではないんですが、精読癖の付いていない人は、出願大学のランクを下げることにもなりかねません。多読よりも精読に重点を置いて勉強をしてもらえればと思います(多読して悪いわけではありませんが)。
なお、普段から精読する習慣のある人は、新共通テストの記述問題をそれほど意識しなくても済むんじゃないかと考えています。
この大学入試新共通テストについては、また何か気がつくことがあれば書いてみたいと思っています。