一心寺のお骨佛

お骨佛ってご存知でしょうか?

集めた遺骨を特殊な技術で固めて造った阿弥陀仏像をそう呼ぶんですが、大阪に住んでいる方には、結構ポピュラーなんじゃないかと思います。

具体的には、大阪市天王寺区にある一心寺(いっしんじ)というお寺が納骨を受け付け、10年に一度阿弥陀仏を造立するというシステムになっています。先程報道で読んだんですが、今年の5月、第14体目が公開されるとの由。

明治時代から続いている点、平成の世においてもますます隆盛を極めている点(この10年間で納められた遺骨は過去最多の22万以上とのこと)において、注目すべきひとつの信仰文化だと思います。

どんな人であれ「死」は避けられないもの。自分の死後を完全にコントロールすることはできなくても、ある程度はどのように処置して貰いたいかという望みがあるはず。死後も何らかの形で遺族や社会(現世)とつながることを求めるのは自然なことだと思いますが、その一方で、残された人々に経済的・時間的・心理的な負担を掛けたくはない。

その微妙なバランスのもとに、この「お骨佛」というシステムが成立していると私は思います。ここに納骨してもらえば、遺族にお墓管理のコストを負担させなくてすみますし、毎日多くの参拝者が手を合わせてくれ、お寺もきちんと供養・管理してくれる。時には遺族もやってきて、自分のことを思い出してくれる。

消えゆく自分という存在と遺族とのつながりだけでなく、社会とのつながりも保たれるシステム。死にゆく人と、残された人々の心を慰撫するための素晴らしい仕組みだと思います。

塾ブログなので、宗教的な話は避けていますが、宗派を問わずに納骨を受け付けている点において、宗教というより「死」をどうとらえるかという(大げさに言えば)哲学的・民俗学的な話だと思われるので、取り上げた次第。

私もこの一心寺のお骨佛を何度か拝見したことがありますが、なかなかいいんですよね。自分が社会の中でどうあったかという個としての問題意識ではなく、自分という存在が再び不可分な「人間全体」という大きな河の流れに戻っていくという感覚。お骨佛はそんな感覚の象徴に思えるんですよね。


一心寺の話をもう少し。

このお寺は歴史も古く、昔から大いに繁栄しているお寺ですが、先代の住職さん(現在は長老さん)高口恭行氏は変わったプロフィールの持ち主でいらっしゃいます。もとはアカデミック畑の方でして、京都大学工学部建築学科で学んだ後(西山卯三のお弟子さん)、京大に助手採用され、奈良女子大学で教授を務めていらっしゃったらしい。

そこからどうして一心寺の住職に転身されたのか。何でも、京大生時代にアルバイトとして家庭教師をなさっていたそうなんですが、その生徒さんが一心寺の娘さんだったとの由。二人は恋仲になられたんですが、結婚の条件として住職の資格を取ることが婚家(一心寺)から課せられたらしい。そんなこんなで、建築家兼一心寺住職が誕生した……。

何なんですか、この少女漫画みたいな展開(笑)。いや、私は少女漫画が大好きですので、褒めるというか憧れるというか、冗談抜きにいい話だと思うんですけどね。

実際、一心寺に行ってみると高口恭行氏が建築家であることがよく理解されます。特に、仁王門(山門)はお寺とは思えないムードのシャープな現代建築です(もちろん高口恭行氏の設計)。仁王様も大迫力の西欧彫刻風。息子と行くと、いつも「ほええぇ〜〜」と言いながら見上げてしまいます。自分で撮った写真をアップしたかったんですが、なかなか見つかりません。ご興味をお持ちの方は「一心寺 山門」と画像検索してみて下さいね。

そうそう、ウィキペディアを読んで思い出しました。長男さんが現在の住職をなさっているんですが、この方は元獣医さん。次男さんは早稲田大学の教授で、三男さんは俳優さん。ご子息方も多彩な方面に進んでいらっしゃるのがとてもいいですね。このあたりも何か少女漫画の設定みたい。もちろん、褒め言葉です。

なお、次男の高口洋人さんは、私と同じく大阪府立高津高校卒。面識は有りませんが、年齢も一つしか違わないので、高校内ですれ違っていただろうと思います。

一心寺は当塾と同じく天王寺区に所在します。ご興味を持たれた方はぜひ一度。