春の柳生

日曜日早朝。快晴。息子との約束時間まで少し余裕があったので、こっそり出かけました(息子に見つかるとあれこれうるさいのです)。バイクで何となく向かう先は奈良。

平日、下道を利用して奈良に向かうのはなかなか骨の折れる仕事です。大阪市から東に向かう、つまり、生駒・奈良方面へ向かう道は、どこも狭隘なのに交通量が多いため、いつも渋滞気味。

阪奈道路(大東市から生駒山を越えて奈良市に至る幹線道路)にたどり着きさえすれば、そこからはスムーズなんですが、そこに至るまでが大変。家からだと阪奈道路に取り付くまでに1時間近く掛かってしまいます。奈良県自体は面白い道だらけなんですが、そこに至るまでの道のりを考えるとどうも気が進まない。

もちろん、高速道路を利用すれば早いんですよ。自宅から奈良市役所まで30分掛からないぐらい。ただ、阪神高速+第2阪奈道路で片道1300円ぐらいでしたでしょうか。自動車に乗って家族で出かけるというなら納得の料金なんですが、バイクに一人でとなると少し勿体ない気がする料金なんですよね(せこいけど)。だいたい、バイクと軽四輪の利用料金が一緒というのが解せない。道路への侵襲度も占有面積もまったく異なるのに。

それはさておき、日曜日なら下道でもそんなに時間は掛かりません。阪奈道路を走っている間にどこに向かおうか思案します。そうだ、柳生に行こう。

奈良県庁や興福寺の前を通って、転害門→般若寺というルートで369号線を辿ることも多いんですが、日曜日は観光バスだらけなので、木津方面を回って369号線に出て大柳生の方へ向かいます。

369号線はコーナーが連続する楽しい道ですが、今月も大柳生のあたりでバイクが事故を起こして私と同世代の運転手が死亡しています。どんな運転をしていたのかは存じませんが、安全運転で行かないとね。

さて、柳生の辺りって、なんかのんびりしていていいんですよね。特に春なんかは最高です。お亡くなりになった車谷長吉さんも奈良盆地を癒しの場として強く推薦されていましたが、こののんびり感を好まれていたんだと思います。

川沿いの桜も満開。しばし桜を見て休憩。

柳生藩と言えば、数々の剣士を生み出した地。行ってみると分かりますが、何か一つのことに集中しやすそうなムードのある場所なんですよね。喧噪の地から適度に離れているけれど、陸の孤島というようなレベルではない。地味豊かで、山並みも気候も穏やか。こんな場所だと、人心が落ち着いたものになるのは必然です。剣の道に邁進する人が多く現れても不思議はありません。

柳生石舟斎、柳生宗矩(徳川将軍家の兵法指南役)、柳生十兵衛などが思い浮かびますが、私にとって柳生家と言えば、柳生兵庫助(柳生利厳)。

少し小高くなった場所から柳生の地を望む。石舟斎や兵庫助もこの風景を見ただろうと思います。そんな時、領地や領民が愛おしくてならなかったんじゃないだろうか。

ちょっと迷い込んだ道。写真左側は清らかな渓流。落石や木屑だらけで、道路中央は苔むしているところ多数。なんでこんなとこを案内するかな、Googleマップ(笑)。オフロード車なら楽しいんですけどね。軽トラとすれ違うのも一苦労でした。

津本陽の『柳生兵庫助』という作品があるんですが、これが素晴らしかったんですよね。兵庫助という男がとにかく格好いい。剣の道を極めた男の中の男。爽やかで聡明。民衆にも部下にも家族にも厚い情をもって接し誰からも愛される。夫婦仲もこの上なく睦まじい。そんな人は現実世界にはなかなかいませんし、歴史上の兵庫助もそうではなかったとの説がありますが、大変説得力をもって胸に迫ってくる作品だったんですよね。

文庫本で8冊というボリュームですが、もっと読みたい気にさせられるこの小説、生前の父から譲り受けたものでした。またそろそろ再読しようかなという気になってきています。

以前は亡父から譲り受けた小説を読むと、寂しくて仕方が無かったんですよね。父のことを思い出して。やっぱり今も寂しいことには変わりはないんですが、そろそろ大丈夫かなと。

私は息子にどんな小説を勧めればいいんでしょうね。結構難しいなあ。おっと、時計を見ると息子との約束の時間が迫っています。仕方ない、帰りは勿体ないけれど高速道路で帰ろう。と、慌てて帰宅すると息子はなんとまだ夢の中。起きろ〜〜〜!(笑)