このブログに書きたいことは数あれど、なかなか時間が取れません。と言いつつ、どうでもいいことばかり書いているんですが、今回は是非このブログで取り上げねばと考えている話題。
私がずっと関心を持ち続けている「読解力」「AI」「社会的格差」に関する話です。概要だけ書いておこうと思います。
当塾を開いてもう15年以上が経過しているんですが、実際に小学生・中学生の生徒たちに触れて強く思い続けてきたことがあります。それは、子供たちの読解力が本当に低いこと。最初は、(大げさに言えば)日本の危機的状況だと思っていたんですが、もう今は慣れっこになってしまっていて、「小学生・中学生の読解力は、本来こういうものなのだ、そこからスタートしないと何も始まらない」という気持ちになっています。
で、小学生の「読解力」については、当ブログにあれこれと記してみたり、当塾の門を叩いてくれた生徒の指導を一生懸命行ったりしてきました。ブログの方はともかく、実際の指導は経験的なノウハウ・(口幅ったいですが)熱意や直感によって、一定以上の効果は挙げられているかと思います。
ただ、上述のように、当塾は小規模な教室ですから、それらを社会に還元することは難しいところがあります。言い換えれば、客観的データとして、現在の学生が有する読解力の問題点を提示することは難しい(もちろん、超大規模な塾でもそれを客観化することは、技術的理由やビジネス的理由から、かなり難しいでしょうが……)。
しかも、有償の塾を利用しようとお考えになる保護者様方は、子弟に対する教育を最重要視していらっしゃる方が多いわけで、当塾に集まる保護者様・生徒さんの質にもかなり偏りがあるはず。語弊があるかもしれませんが、お通いくださる方々は、「日本社会の平均レベルよりもかなり教育リテラシーの高い人々」ということになるわけです。ましてや、当塾のような小さな塾を探し出してくださるわけですから、かなりの「通」と言ってよいかも(笑)。
そうした環境下ではあるものの、肌で感じてきた小学生・中学生の読解力のレベル、経験と直感で捉えてきた読解力の問題点。これらを何とか広くご理解いただくことはできないものか、などと偉そうに考えていたんですが、私のキャパシティを大きく超える話でもあり、あきらめが入っていたんですよね。当塾は「塾生ファースト」、塾生の学力・読解力の向上に邁進することこそが本義ですから。
そんな時、思わぬところから面白い論考が出てきました。AI研究の分野です。具体的には、「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクト(東ロボプロジェクト)を率いた数学者、新井紀子氏が色々なところに発表された「日本の読解力の危機」をテーマとする発言や記事です。
私がそれらを最初に認知したのは、雑誌『考える人最終号』。2017年の春ごろの話です。
新井氏によると、現時点では「AI(人工知能)」は物事や文章の「意味」が分からず、「意味が分かっているフリをする」か「意味が分かっていることにする」ことしかできないそうなんですが、そうだとすれば、人間の存在意義は「意味が分かる」ところにあることになりますよね。意味さえ分かれば、人間はAIや機械に負けない。
「それでは、現在の中高生はどれだけ文章が『読めて』いるのだろうか、学校の教科書の『文章』(not内容)をどれだけ理解できているのだろうか」という風に新井氏は思いを致されるんですが、なんと戦後教育が70年にもなるのに、教科書の「文章」が読めているかの調査は皆無だったらしい。しかもそれは日本だけではなく、世界的に見ても同様だったとのこと。
この問題意識が、大規模な読解力テスト(リーディング・スキル・テスト(RST))へとつながります。今までに4万人分のデータを集めたそうで、これは間違いなく客観的データと言えるでしょう。
そして、そこで示される結果や考えは、私が生徒を見てきて直感的に思ってきたことと驚くほど類似性が高かった、というか、ほとんど同じだったんですよね。おそらく、私だけではなく、一定以上の真剣味を持って小学生〜中高生の指導の現場に立っている人ならば、同じ感想を持たれると思います。
ジャーナリストの江川紹子氏が、上述の話をとても分かりやすくまとめてくれています。「読解力」のありかた、現在の児童や学生の読解力の現状、「理解力」の育て方、AIに仕事を奪われない戦略、社会的格差などにご興味を持ちの方は、是非一度お読みいただければと思います。
本当にお勧めです。ここまで当記事を辛抱強くお読みくださった方には、絶対に得るものがあると存じます。
大事なのは「読む」力だ!~4万人の読解力テストで判明した問題を新井紀子・国立情報学研究所教授に聞く(江川紹子) – 個人 – Yahoo!ニュース
https://news.yahoo.co.jp/byline/egawashoko/20180211-00081509/
強く共感を覚える点を、上記記事からいくつか引用しておきたいと思います。
読解力の低い子は、AI的な読み方をしているという話。
「教科書が読めてない子がたくさんいる、ということです。文章を読んでいるようで、実はちゃんと読んでいない。キーワードをポンポンぽんと拾っているんです。○○と○○と○○という言葉が出てきたら、こんなもんだろう、というような。『……のうち』とか『……の時』『……以外』といった機能語が正確に読めていない。実は、それはAIの読み方に近いんです。」
読解能力値が中の上くらいまでの人は、極めて単純な文章の意味理解さえできていない、というデータを示した後で、なぜそうなるのかが指摘されます。
「プリント学習がそうですよね。穴埋め型の学習が多い。蛍光ペン型学習とかもそう。これを一生懸命やっていると、いくつかのキーワードと数字で『たぶんこれだろう』となる。まさにAIみたいな解き方だな、と。ただ人間は、暗記量と計算量はAIに比べて非常に低いですから、これではAIには勝てない」
読解力と受験の相関関係については、下記のごとし。
また、RST(注:読解能力テスト)の能力値と、偏差値の高い高校や大学への進学率を分析すると、高い相関関係があることも分かった。
「基本の読みとか論理的推論ができない子は、いくら知識を教えても、それを整合的に使えるようにならないんです。学力の差が、知識量とかやる気の問題であれば、勉強したくなった時にやればいい、とも言えますが、そうではなくて、『読める』かどうか、が大きい。読めている人は、それほど痛痒なく受験勉強をやって、入試を突破する」
読解力と収入格差については、次の通り。
「AIには、経験や人間としての倫理観や正義感に基づいて、あるいは所属している組織のブランド毀損にならないよう、その場で瞬時に、どれが重要かを判断したり、何らかの例外が起きた時の処理は難しい。そうした能力がある人は、AIが導入されても重宝されて、賃金も上がる。(AI導入で)職場を変わることになっても勉強して資格を得れば、その分生涯収入は高くなります。
けれども、例外処理が苦手で定型的なことしかできないとか、他の部署や別の職種に移った時に柔軟に対応できない人は、低賃金となり、新たな賃金格差が生まれます」
小学生の英語教育やプログラミング教育の無意味さ。そして、初等教育が社会資本を形成する場であることの指摘。
「小学生に英語教育とか、プログラミング教育とか言っている場合じゃありません。プログラマーになろうと思ったら、情報は豊富にあって、ほとんどオープンソースで公開されています。なりたければ、読む聞く書くができれば、勉強してなることができます。でも、読む書くができなければ、プログラマーになることは無理です。
学校の問題というと、いじめとか不適格教員のことばかりにフォーカスがあたりがちですが、日本の社会資本としての人材を育てて下さっているのは学校、特に義務教育を担っている小中学校です。その学校で、子供たちが教科書も読めない状況で先生方は困っているという現実は、みんなが共有する必要があります。」
単なる「勉強」「受験」にとどまる話ではなく、「社会的格差」「貧困問題」という国全体に関わる話なんですよね、読解能力の有無って。
この話題は、これからも追いかけて行きたいと思っていますが、とりあえずは上述記事中に紹介されている新井紀子著『AI VS. 教科書が読めない子どもたち』を近々読む予定です。