テレビ出演の依頼・関西の敬語表現

確か先月の事だったと思うんですが、テレビ番組からの出演依頼がありました。今までにも何度か出演依頼があったんですが、一度も出演したことはありません。だって、面倒くさそうじゃないですか。

そりゃ、出演した方が塾経営の観点からはいいのかもしれませんが、変なお客さんに来られても、結局困るのは私たちや塾生たち。地道かつ高度な授業を提供し続けるに如くはなし、という判断です。

このあたりは、以前も記事にしたことがあります。

テレビ局からのお話:国語塾・宮田塾のブログ

テレビ出演依頼 #1:国語塾・宮田塾のブログ

テレビ出演の依頼:国語塾・宮田塾のブログ

さて、今回の出演依頼は「秘密のケンミンSHOW」という番組。見たことがないのでよく知らないんですが、調べてみると、ちょっとネタ風の番組っぽいですね。

制作会社の方(ひょっとしたらTV局の方だったかも、失念ゴメン)曰く、「しっかり敬語表現を教えても、入試の際に『何々しはった』という感じの関西弁で解答してしまうような生徒さんはいらっしゃるでしょうか?そういう生徒さんについての話をしてもらいたいのですが。」

いね〜よ、そんな生徒(笑)。

少々柄悪いですね。すみません。でも、少なくとも当塾でお預かりしているような生徒には皆無です。いわゆる難関中学に受かっていくような生徒は、的確に口語表現と文章表現を使い分けますし、逆に言えば、そのレベルの言語操作ができないようでは中学受験自体が危ういでしょう。

当塾では、一人一人の答案・解答を丁寧に検討していますが、口語にしか用い得ない表現が紛れていれば、必ず直してもらうことにしています。答案内の口語表現はとても幼稚に見えますからね。


さてさて、折角TV制作者がお電話を下さったので、関西の敬語について少々お話しをさせていただきました。もちろん、押しつけレクチャーをしたわけではありません。先方が情報を求めていらっしゃったのでご協力した次第。

1.関西には「〜はる」という、尊敬を表す補助動詞があること。

2.この補助動詞は、大抵の動詞に付属して簡単に尊敬語を作りうるため、極めて利用範囲が広いこと。

3.一般動詞に対応する特別な尊敬動詞が用意されている場合ですら、この補助動詞を使うことが多いこと。
(例:「言う」の尊敬動詞は「おっしゃる」だが、「言わはる」を利用することが多い。)

関西弁の補助動詞「はる」は、共通語で言えば「なさる」に対応する語ですが、利用範囲は「なさる」の比ではないでしょう。関西人の実感として、「言わはる」という表現には何の違和感も抱きませんが、「言いなさる」はやや不自然さを感じます(おそらく関東の方もそうでしょう)。共通語的には、「おっしゃる」という語に置換されるはずです。


さてさて、このブログをご覧の方には、もう少し進んだ話をば。京都人の使う補助動詞「〜はる」についてです。

関西と一言に言っても、関西各地で使用される方言的表現はかなり異なります。大阪弁、京都弁、神戸弁、河内弁などなど、語彙やニュアンスにおいて、かなりの差がある方言が群雄割拠しています。とても豊かな言語環境だと言って良いでしょう。

私は生まれてこの方大阪育ちですが、母が京都出身ということもあり、京都の言語文化もそれなりに理解しているつもりです。そうした者から見て、特に驚くほどの差があるのが、先述の補助動詞「〜はる」です。

大阪人にとって、補助動詞「〜はる」は、それなりの敬意を表すときにしか使わない動詞です。「先生が言うてはる」「社長さんが笑(わろ)てはる」「お嬢さんが泣いてはる」という感じですね。

しかし、京都人(特に女性)は驚くべき使い方をします。例えばこんな感じ。私が実際に四条河原町かどこかの交差点で信号待ちをしていて耳に挟んだ会話です。

女子高生B「ちょっとAちゃん、今日学校で同級生のXちゃんが、Aちゃんの悪口を言うてはったえ。」

女子高生C「そうそう、私も聞いたわ。Aちゃんのこと、えらい悪う言うてはったし。」

女子高生A「うそ〜、まじ〜?もう、Xちゃん、なんでそんなこと言わはるん?Xちゃん、前も私につらく当たらはったことあるし、私もXちゃん大嫌いやし。また悪口言うてはるようやったら、教えてちょうだいな。」

この会話から分かるように、京都の女性は、嫌悪・軽蔑する相手にすら補助動詞「〜はる」を使います。ここに至っては、補助動詞「〜はる」は、言語的にほとんど何の意味も持っていません(笑)。強いて言えば、動詞に対応する主語が自分ではなく他人だということを示すぐらいの役割でしょう。

今時の大阪の女子高生だと全然違う表現になるはず。

女子高生A「うそ〜、まじ〜? X、なんでそんなこと言いいよるねん? X、前も私につらく当たりよったし、私もX大嫌いじゃ。また悪口言いよったら教えてな!一回いてもうたるし!」

柄悪い?いやいや、とても正直な物言いだと考えて上げて下さい(笑)。それに比して、京都の女性の使う補助動詞「〜はる」は、恐るべき表現だと思います。心の底では憎んでいても、表現形式的には敬語の形を取るわけですから、表現読解力がないと、一気にコミュニケーション不全に陥るおそれがあります。

特に関西以外の男性諸氏に注意を促しておきたいんですが、京都の女性が、自分に「〜はる」という表現を使い、敬意を表してくれているように見える場合も要注意です。にこやかな笑顔の下には敵意や嫌悪感が潜んでいることがいくらでもあります。恐るべし、京女!

なお、当塾では、関西各地の女性との交際方法についても指南しておりますので、お気軽にお問い合わせ下さいませ(ウソです)。