先日、中学入試国語の問題を教えていた時の話。
問題文に「ひばりの子」が登場したんですが、ふと思います。「そういえば『ぴーちくぱーちく、ひばりの子』という歌詞があったなあ、あれは何の歌だったかしらん。」
授業が終わってから検索してみると、ああそうだ、熊本民謡『おてもやん』なのでした。オリジナル版は赤坂小梅のものらしい(1935年発売)。
赤坂小梅/オテモヤン
上記ビデオには歌詞が示されています。1番2番はバリバリの熊本弁でかっこいいんですが、3番はなぜか標準語風なんですね。しかも説教じみた文句になっていて、1番2番の自由闊達な女性像が消えてしまっています。おそらくですが、お座敷芸として歌われていた1番2番に、レコード化するため歌詞を後付けしたとかじゃなかろうか。
それはさておき、私が気になるのは「ぴーちくぱーちく」という表現です。この言葉、小鳥、もっと言えば、ヒバリかスズメの鳴き声ぐらいにしか使えない、極めて適用範囲の狭い擬音語じゃないかと思うんですよね。
早速、語彙探偵団(といっても私一人ですが)、調査開始です。
いくつかの国語辞典を調べてみましたが、掲載されていませんね。小型国語辞典はもちろん、大辞林や広辞苑などの中型国語辞典にも掲載はありません。日本国語大辞典精選版にも掲載なし。思っていた以上にマイナーな言葉のようです。
一定以上の年齢の方なら、ほとんど知っている言葉だと思うんだけどなあ……。
そこで、最後の砦、日本国語大辞典先生のお出ましです。ありました!こう記されています。
ぴいちくぱあちく(副)
小鳥などのさえずり、人のかん高い話し声など連続してにぎやかに鳴りひびく音を表わす語。
なるほど、そう言えば人間の話し声にも使えますね(やや侮蔑的な意味を持った比喩的表現とは思いますが)。
実際、梅崎春生の小説から使用例が引用されています。
ボロ家の春秋(1954)<梅崎春生>「その大切な時間にピーチクパーチク騒がれては何も出来はしない」
(どうでもいいんですが、右隣は獅子文六、左隣は寂聴先生じゃないですか。日本国語大辞典の守備範囲の広さよ。)
この擬音語が入学試験に出てくるとは思いませんが、この語って、小学生にも理解しやすい気がするんですがどうでしょうか。語感的に考えて、「ピヨピヨ」や「チュンチュン」と同根の語でしょうから。
実は今回、色々な辞書で調べてみて「ぴーちくぱーちく」というワードにひっかかったのは、意外や意外、和英辞典だったんです。
大修館書店ジーニアス和英辞典
「ぴーちく」
小鳥がぴーちくさえずっている
Birds are chirping.
研究社新和英大辞典
「ピーチク・パーチク」
ピーチク・パーチクとさえずる
chirp; cheep; twitter
「ぴーちくぱーちく」の「ち」と「chirp / cheep」の「ch」は同じ感覚でしょう。となると、英語話者にも「peechik parchik」という表現は十分理解可能なものなのかもしれませんね。
雑談ついでに、別の「おてもやん」も。
ラテンミュージックに仕立て上げられているんですが、すごくセンスがいいアレンジだと思います。江利チエミの躍動的な歌唱が、この歌詞に合っていて最高。やっぱり、1番2番だけが歌われています。
江利チエミ-おてもやん-映画動画