2024年1月13日、関西では中学入試本番がスタート。大学入試共通テストも初日を迎えました。
当塾もご希望の方々には1月12日まで全力で授業をして参りまして、後は今まで頑張ってきてくれた生徒さん達の成功を心より祈るばかり。頑張れ!
共通テスト漢文について
さて、先程2024年度共通テストの国語問題が公表されましたので、日本最速で解説記事を書きたいと思います。時間があれば全問題を解説したいところですが、毎日目の回るような忙しさで、なかなかそこまで手は回りません。
ということで、今回は第4問「漢文」を取り上げようと思います。
問題全体は下記をご覧ください。
国語 第4問|2024年度 大学入学共通テスト:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/edu/kyotsu-exam/shiken2024/mondai_day1_jmq2ytbaxq/kokugo_04.html
全体的に見て、漢文を真面目に学習してきた受験生ならば対処しやすい問題だったのではないかと思います。難関大学や医学部を目指す人はできれば満点(50点)、悪くとも40点台を取って欲しい問題です。
受験生を不安に陥れようとしているわけではありません。評論・小説・古文・漢文の中で、最も努力を得点に繋げやすいのが漢文。国語的センスといったあやふやなものに頼らずとも、着実な学習を得点に繋げられる分野です。ここで点を取らないようでは、共通テスト国語での高得点は望めません。漢文で点を取らねばどこで取るという気持ちでいて欲しいところ。
来年以降の受験生には、「現場で考えねばならない問題については、その場で全力で考えられるだけの読解力を身に付けておくこと」「知識でカバーできる問題については、前もってしっかり知識を身に付けておくこと」をお薦めします。といっても、前者はかなり困難なことですから、共通テスト国語で点が取れない人は、まず後者の方を優先する方がよいかもしれません。
出題漢文
玄宗皇帝と楊貴妃の話は常識的
さて、今回の漢文問題、玄宗皇帝と楊貴妃のエピソードが中心になっています。出題文は漢詩が1つ、資料文が4つ。
まず、玄宗皇帝と楊貴妃の来歴を知っているかなんですが、これは(国語・漢文で高得点を目指す受験生なら)さすがに知っておくべき常識だと思います。玄宗皇帝が絶世の美女である楊貴妃にベタ惚れして入れ揚げる。もう僕は君のとりこさ、何でもしてあげるからねっ!キュンキュンっ!いきおい政務は放ったらかしになって世の中が乱れる。そのうち叛乱が起き(安禄山の乱)、その結果、玄宗は楊貴妃の殺害を命じざるを得なくなるという話。
白居易の「長恨歌」にこのエピソードが悲恋物語として取り上げられているんですが、「長恨歌」を取り上げていない漢文教科書はないでしょう。ということで、この二人の話は受験生として要求されても文句の言えない「常識」だと私は思います。
個人的には何か微妙な「純愛物語」だなと思うんですが(玄宗も一緒に死んでやれよと思う)、それは置いておきまして。
出題文の日本語訳は、また詳しい問題解説が出版されるでしょうから、そちらに任せるとして、当記事では問題を中心に解説していきましょう。
第1問
漢詩の形式と押韻について。
漢詩の形式と押韻は常識中の常識です。大学受験生に求められる漢詩の知識はごくわずか。知識だけなら15分も授業時間があれば説明が終わるレベルです。ここは絶対に押さえていなければなりません。
一行が5文字:五言
一行が7文字:七言
詩の行数が4行:絶句
詩の行数が8行:律詩
だから出題されている詩は「七言絶句」ですね。
次に、漢詩の押韻は脚韻。つまり行の最後で韻を踏みます。
五言なら偶数句の末尾。
七言なら一句目の末尾と偶数句の末尾。
今回の漢詩は「七言絶句」ですから、一句目の末尾と偶数句の末尾で韻を踏んでいます。
確認してみると、「堆(タイ)」「開(カイ)」「来(ライ)」、ちゃんと「ai」の音で揃っていますね。
ということで、答は5。
このあたりのルール、文章にすると難しい感じがしますが、図にすれば一目瞭然ですので、各自確認されたし。
第2問
「百姓」
これは常識問題・超重要単語。漢文では「ひゃくせい」と読んで、「人民、民衆」を意味します。即答すべし。答は1。(民衆)
「膾炙人口」
これも常識だと思って欲しいところです。「人口(じんこう)に膾炙(かいしゃ)する」と読みますが、漢検1級では書取問題として出てくるレベル。さすがに大学受験生は漢字を書く必要までありませんが、意味は超重要。
「膾」は「なます」。生肉や生魚のあえもの。「炙」は訓読みがないように思いますが、意味は「あぶり肉」。「膾炙」は刺し身&焼き肉みたいな感じでしょうか。つまりどっちも美味なるものです。「人の口にとって美味なるものだ」というところから、「詩文などが人々の口にもてはやされる」という意味になります。
ということで、答は4。(広く知れわたっている)
このブログでも、この表現たまに使ってなかったかなと思って調べてみたら、やっぱり使っていますね。
ある意見をTwitterで見かけました。曰く、最近ヘッドフォンの音質、特に低音部の再生品質が著しく向上したため、日本でもラップミュージックが理解されやすくなり、結果、人口に膾炙したのではないか、と。
The White Stripes とか The Blue Stones とか Royal Blood について書いた音楽記事だったんですけどね。なんて役立つブログだろう。自画自賛でございます(笑)。
「因」
これは訓読みが分かれば簡単ですね。「因る(よる)」と読めればそれで終了です。または「原因」の「因」だから「原因」を表す漢字なんだろうな、という類推でもいいでしょう。
答は1。(そのために)
文章も筋が通りますよね。「新曲にまだ名前がついていなかった。その時たまたま南海郡が茘枝を献上したので、『そのために』曲は茘枝香と名付けられた。」というわけですから。
第3問
これは資料1の文意を先に理解しておくと良かったでしょうね。楊貴妃を喜ばせるために玄宗が人馬を酷使して、茘枝(いわゆる果物のライチです)を運ばせた。その結果、多くのものが苦しみ死んだ、という話。
資料2もそれとパラレルな話ですが、玄宗が楊貴妃という美女に入れあげて目茶苦茶をしたということを知っていればさらに簡単です。大企業の社長にのぼりつめたおっさんが好みの若い女の子を秘書か何かにして「も〜○○ちゃん、かわいいんだからぁ〜!何でもしてあげるからねっ!」と鼻の下をのばしているのを、社員一同冷たい目で見ているというシーンを想像されたし。
要するに、「人命が絶えても顧みなかった」という文意を先に理解しておけば、もう書き下し文は「人力を窮め人命を断つも、顧みざる所有りと。」しかあり得ません。白文に返り点をどう付けるべきかなんて、考えるだけ時間の無駄です。問題選択肢の上段を見る必要は皆無。答は4。
一応他の選択肢も検討しておくと、1は動詞と目的語の配置が変、というか人力の人命とは何ぞや?2と3は「絶人」の意味が分からない。5に至っては全く意味不明な文章です。
第4問
ここまで漢文を読みながら解いてくると、「ええ年したおっさんが若い女の子に入れ揚げて何してんねん、あほか」と思ってきましたね。そういう人はこの漢文が読めています。いや、関西弁じゃなくてもいいんですけどね(笑)。
で、漢詩に戻って考えてみますと、玄宗が「楊貴妃ちゃんのために茘枝(ライチ)を持ってこんかい!」と命令→その命を受けた家来が砂煙を巻き上げて猛スピードで宮殿に帰還する、というシーンが「山頂千門次第開」「一騎紅塵」に見えてきます。
ということで、答は4。玄宗の命令で楊貴妃の好物の茘枝を運ぶ早馬が砂煙を上げ疾走して来る。それを見て楊貴妃は笑う。
他の選択肢も検討しましょう。
1 「玄宗のため楊貴妃が手配した」が逆。
2 「早馬が砂煙のなか産地へと走りゆく」だと宮殿の門が次々開かれたことに合致しない。
3「門の直前で倒れて砂煙を上げる」は4に比べて落ちる。なぜ馬が倒れたら楊貴妃が笑うのかが説明しにくい。
5「玄宗に取り入りたい役人」が意味不明。
第5問
まず資料3ですが、玄宗一行の滞在時期と茘枝が熟す時期の「不一致」を表しています。「玄宗一行は10月に驪山到着→春に宮殿帰還、だから6月には驪山にいなかったよ、一方茘枝は盛夏に熟す果物だから『時期的におかしいよね』」という文章ですからね。
したがって答は3または4または5。
資料4を読むと、「玄宗は楊貴妃の誕生日、6月に驪山に来たよ。曲を演奏させたけどまだその新曲には名前が付いていなかったよ。その時たまたま南海郡が茘枝を献上したので、そのために曲は茘枝香と名付けられたよ。」この文章を素直に表しているのは、選択肢5。
選択肢3は献上されたのが「茘枝」ではなく「茘枝香」になっているのが変だし、選択肢4は茘枝を賞味した場所が南海郡というところが意味不明。「南海郡が」献上しているだけです。
やはり答は5。
第6問
ここまで来ると、もう消去法で容易に2が選べたのではないかと思います。
他の選択肢のおかしいところを検討しましょう。
1「謎めいた描写」
特に謎めいてはいません。
「事実無根の逸話」
事実無根ではなく資料4でそれなりの根拠が上げられています。
3「驪山の山容や宮殿の門の配置を詳しく描き」
そこまでは詳しくないですね。
「茘枝についても写実的に描写している」
ただ「茘枝」と一言あるだけなのでダメ。
4「茘枝の希少性」
これも3と同じく、ただ「茘枝」と一言あるだけなのでダメ。
5「二人が永遠の愛を誓ったことを賛美している」
この詩では楊貴妃と早馬がクローズアップされているのであって、玄宗の姿が見えませんから不適。
もちろん、他のおかしいところから選択肢を落としてもらっても全然構いませんが、答は2。(驪山の遠景から華清宮の門、駆け抜ける早馬へと焦点が絞られ、視点は楊貴妃の笑みに転じる。笑みをもたらしたのは不適切な手段で運ばれる茘枝であった。事実かどうか不明な部分があるものの、玄宗と楊貴妃の逸話を巧みに用い、玄宗が為政者の道を踏み外して楊貴妃に対する情愛に溺れたことを慨嘆している。)
ふぅ、急いで解説を書いてみましたがお役に立てましたでしょうか。
宮田国語塾は中学受験生、つまり小学生を中心に指導を行っておりまして、ここしばらくは高校生・浪人生を指導する時間的余裕がありません。ただ、中学受験指導をするにも大学入試を見すえた高いレベルで行いたいと常々考えておりまして、今回のような記事はその一環とお考えいただければ幸いです。今年も頑張ります!