昨日今日と、2013年度大学入試センター試験が実施されていますが、宮田国語塾としては、やはり国語の問題が一番気になります。今日(2013.01.20)は朝早く起きて昨日の問題に目を通し、ネット上の関連情報も見て回っていますが、大手予備校のサイトを見てもまだ「概観」が出ているだけで、各設問毎の解説は出ていないようです。
ということで、日本一速い(?)宮田国語塾版の2013年度大学入試センター試験国語・各設問解説記事を書いてみたいと思います。ただ、この記事では、時間の都合上、第二問「小説」だけを取り上げることとします。今年の小説問題は客観的に見て少し難しい気がしますし、ネット上でも難しく感じた受験生が多いように見受けますので。
問題・解答は、下記サイトから閲覧またはダウンロードして下さい。まだ受験生でない方、昔取った杵柄でちょっとやってみてやろうかなんて方もどうぞ。
朝日新聞デジタル:2013年度大学入試センター試験 – 教育
2013年 大学入試センター試験特集 – 47NEWS(よんななニュース)
解説内で指摘する行番号などについては、上記からダウンロードできるPDFファイルを元にしています。
第二問の解説に入る前に、センター試験国語において最も注意してもらいたい点を指摘しておきます。それは、「センター試験国語は徹頭徹尾『読む』試験だ」ということです。
二次試験のような記述答案を作成する=「書く」必要がありませんから、当たり前じゃないかとお思いかもしれませんが、徹底的に読むのは「本文」だけではありません。もちろん「本文」も重要ですが、むしろ「選択肢」こそが、「読まれるべき」対象=しつこく徹底的に検討されるべき対象です。
その上で、矛盾点や不自然な部分を有する選択肢を厳密に削り落としてゆき、最後に正解を選び出すというスタイルこそが最も大切です。イメージとしては、化石の発掘者が不要な泥や土を払いのけて、化石本体を手にする感じとでも言いましょうか。センター試験において、消去法は「正義」だといっても過言ではありません。
逆に言えば、記述問題と異なり、解答のイメージが浮かばなくても心配する必要はありません(浮かんで悪いわけではないけれど)。来年の受験生には、とにかく「選択肢を精査する」ことを重視してもらいたいと思います。
そんなわけで、今回の解説も大上段に構えず、受験生観点からの「選択肢の切り方」に重点を置いて、シンプルなものにしておきます。
さて、本文の解説に移りましょう。
今年は珍しく明治時代生まれの作家、牧野信一による小説です。時代背景が現在とは異なるので、戸惑った受験生も多いかもしれません。主人公は36行目にあるように、短篇を書いているわけですから「小説家」だと考えられますが、この時代の「小説家」は社会による認識が現在とはかなり異なります。いわゆる「文士」というやつでして、「小説を書くという雲を掴むようなことをしている prodigal (放蕩・ぜいたく)な人間」というイメージです。少なくとも立派な職業という感じではなく、どことなく道を踏み外した感じがあったわけです。
実際、この文章でも、主人公は(息子がいる年齢にもかかわらず)父親から金銭的援助を受けているようですし(12-13行目)、主人公の母親も「せめて純一がもう少し家のことを……」とこぼしています(88行目)。
そんな息子と夫(この人もかなり放蕩な人だ)に悩まされる母親に少し同情してしまうんですが(笑)、小説問題で主観的に考えてはいけません。あくまでも、作者の分身であろう主人公の純一が、父や母に対してどのような感情を抱いているかに着目しながら、問題を解いていく必要があります。
<問1>
全体的に辞書的な意味で正解を導けるでしょう。語彙的には中学入試で出てもおかしくないレベルです。ただ、文脈に適合しているかのチェックは怠らないで下さいね。
(ア)「愛想を尽かしていた」
「愛想」は人に好感を持たれるような言葉や態度ですから、「人に好感を持たなくなる」というのがこの語の辞書的意味です。それが分かっていれば、正解は1ですね。2は「理解」が、3は「体裁を取り繕う」が、5は「戸惑っていた」が語義から大きく離れています。4は迷うかもしれませんが、26行目に注目。母は「笑いを浮かべたまま黙って」取り合っていません(ここだけでも正解1と言える)。「いらだちを抑えられないでいた」なら文句の一つも言うはずですね。
(イ)「間が悪かった」
「間」とは、もともと「間隔・空間」のことですが、転じて「その場の雰囲気」という意味も持ちます。そこから「間が悪い」というのは、「きまりが悪い・恥ずかしい」という感じになります。そのイメージがよく出ている5が正解。2は「煩わしかった」が、3は「理解できなかった」が、4は「考える余裕」が、語義から離れすぎです。1は迷うかもしれませんが、67行目に注目。傍線直前に「そんな気はしなかったが」とハッキリ書かれているので、気持ちが揺らぐという表現とは合いにくいですね。
(ウ)「気概」
語義から一発で正解4を導き出したいところです。1・2・3・5いずれも語義から大きく離れています。「いやそんな言葉知らなかったよ」という人のために説明を加えておくと、89行目、傍線の直前部を見て下さい。「親父でも何でも遣り込めるぐらいな気概」とありますね。「遣り込める」という迫力に必要なものを考えたとき、2or4あたりには絞り込めると思います。ただ、やっぱり、これぐらいの語義は押さえておきたいところです。
<問2>
傍線部Aまでの流れを押さえておきましょう。
金銭的援助などしないと父が言っていたことを聞く(12行目)
↓
ドキッとし自分の無能を感じる(14行目)
↓
「勝手にするがいいさ」と捨て台詞(17行目)
↓
いかにも自信ありげだがそれはうわべだけ。内実は全然伴っていない(19-21行目)
パパにお金の援助をしてもらえなくなるかも。ガクガクブルブル。でもかっこ悪いし、言葉だけはカッコイイこと言っとこう。てな感じですね。
この流れをつかんでおくと、選択肢3・4・5は切れそうです。4・5の「父が家に戻る」ということ、3の「父を懲らしめる」ということはここでは問題になっていないからです。
1の「父の高圧的な態度をあえて意に介さない」、2の「父の支えなど必要としないかのように強がって」というのはどちらもありえますね。
選択肢後半を考えるために、もう少し本文をたどってみましょう。中学受験レベルの話ですが、傍線部の後の指示語はとても大切です。「こんなものの云い方やこんな態度は、(中略)母に対する一種のコケトリイだった。」(18-19行目)という部分をもう少し単純にすると、
私の自信ありげな振る舞い=母への媚を含んだ振る舞い
ということですね。「コケトリイ」という語に注釈が付いていますが、これは最大限有効活用すべきです。「媚(こび)」という語を考えれば、選択肢後半部分はあっさり二つに絞れます。2「母の言葉に調子を合わせたかった」3「母の機嫌を取って」の二つです。
上記二つの考えを合わせれば正解は2となります。
<問3>
ここまでの流れを整理しておきましょう。
母との会話で「地球儀」が話題にのぼる(34-35行目)
↓
私は胸を突かれる思いがする(35行目)
↓
書きかけの短篇小説を思い出す(37行目)
↓
小説内小説「地球儀」の紹介(38-75行目)
小説内小説とはなかなか凝った造りですが、読んでみると「地球儀」を介した家族のふれあいや、主人公の父への思い・愛情が描かれています。74行目にあるように、主人公はアメリカにいる父を思いながら地球儀を回しつつ「早く帰れ早く帰れ」と言っていますね。
そんな父への愛情を感傷的に(38行目)小説に書いておきながら、その一方で、母の前では父のことを「勝手にするがいいさ」などと言って突き放している振りをしているわけです。そんな矛盾した態度、普通の人ならちょっと小っ恥ずかしく感じますよね。
この流れは、もう一度84-85行目で確認されます。私は「(父など)帰るな、帰るなだ。」と口走りますが、同時に先程の地球儀に関する「お伽噺(ここでは子ども向け物語の意)」を思い出して、小っ恥ずかしくなりホニャホニャ〜となっているわけです(笑)。
選択肢の検討に移りましょう。
1はそもそも「お伽噺」(小説内小説)のことに触れていないからダメ。
2は「お伽噺」(小説内小説)の内容に触れていません。「お伽噺」(小説内小説)の内容、つまり「父への愛情・思い」こそが重要なはずなのでダメ。
3は「母を支えていくと宣言した」とありますが、それは言い過ぎです。母に同意すること=母を(経済的に)支えることではありません。
4.5はいずれも「お伽噺」(小説内小説)の内容に触れていますが、5はその内容の捉え方に問題があります。「大人に褒められたいとばかり考えていた幼い自分」に対応する表現は小説内小説に見当たりません。「不在の父を思う暖かな家族の姿」とする4が正解です。
選択肢4の後半部分は「感情に流されやすく態度の定まらない自分を恥ずかしく感じた」とありますが、ここもバッチリですね。先述したように、偉そうにいいながら、「パパ大好き」なんて小説を書いていたわけですから。いずれにせよ、正解は4。
<問4>
問4は難問でしょう。ここまでの流れを整理しておきましょう。
叔父と母の会話。二人に悪気はなさそうだが、私のことを小馬鹿にしているように聞こえる(88-97行目)
↓
法要の席で親族一同に挨拶をするがしどろもどろ。心の中であれこれ思っていたり、ペコペコお辞儀をしてごまかしたり、汗まみれになったりで、グダグダ状態(98-104行目)
↓
叔父との会話。父の洋行について尋ねてみる(109行目)
↓
叔父にお前は二代目だと言われる=お前も親と衝突している点では父親と同じだと言われる(113行目)
↓
叔父に合わせて愛想笑い(114行目・傍線部)
選択肢の検討に移りましょう。
1は、父が「外国に行っていた理由を本心から知りたかった」という点がまずい。本文109行目には「今更尋ねる程の事もなかったのに」とあるからです。また、「母にも落胆している」という部分もおかしいですね。傍線部は叔父との対話の中で生じた感情を表しているからです。
2が正解なので解説は後回しにして、選択肢3について。私は父をかばっている訳ではありません。98行目の「私は父の代わりとして末席に坐らせられた」という受動的な表現からもそれは窺えます。また、選択肢3には、法要の進行を務めたことを評価してほしかったとありますが、ここも不自然です。それなら叔父にその旨をもっとアピールするはずですから。
次に選択肢5。「父に代わって本家の務めを果たそうとする努力を認めてくれない」とありますが、ここは選択肢3で述べたとおり、不自然ですね。
で、多くの受験生は選択肢2と4で迷ったのではなかろうかと思うんですが、4の方は「祖父の悲しみを思えば」というところが引っかかります。祖父は死んでいるわけですし、今更その感情に配慮する必要もないはず。あと、「揶揄」という表現。おかしいとまでは言いにくいんですが、2の「嘲笑」のほうがより適切な感じがあります。113行目で叔父は「ハッハッハッ……」と「笑って」いますし、96行目で母も笑っているからです。
そんなわけで、選択肢2を読んでゆくと、矛盾点が少なそうです。父の不在を受け入れがたいというのは、109行目の「外国などへ」という表現に合致します。「など」という表現は「なんか」と同じで、「軽く見ている・わざわざそんなことしなくてもいいのにと感じている」ことを表しており、平たく言えば「外国へ行かなくてもいいのに行っちゃった」という趣旨になるわけです。
「嘲笑」は先述したとおりですが、「あいまいな返事」というのも本文114行目が「……」や「———」を使って表現しているのにピッタリですね。自己反省している点・自己嫌悪している点も矛盾はありません。
というわけで、正解は2。
<問5>
流れを確認します。
再び母が地球儀を邪魔にする場面(116-120行目)
↓
ここで初めて私の息子「英一」が登場(122行目)
↓
地球儀を題材とした「お伽噺」(小説内小説)を思い出す
=「父への愛情・思い」を思い出す(122行目)
傍線部Dは「擽(くすぐ)るような思い」ですから、心情説明としては、こそばゆい感じの表現がほしいところ。
選択肢の検討に移りましょう。なお、各選択肢の1行目前半部分はすべて同じであることに気がつけば(センター試験ではよくあることです)、そこは読み飛ばせますね。
2は、父として息子の人生を支えるべく「過剰に気負い立つ」というところに矛盾を感じます。こんなに強い感情なら、それに対応する表現があるはずですが、それがない上に、傍線部Dでは言葉を呑み込んでいるぐらいです。よってバツ。
3は「地球儀を彼(息子)に引き継ぎたい」というところがダメ。選択肢2と同様の理由です。
5は「自分の目指すべき世界を指し示し続けるもの」「自負」という表現がダメです。こうした積極的・肯定的な評価を下すには、本文の表現が弱すぎます。先程から言っているように、私は「言葉を呑み込んで」いるわけで、消極的な態度が表れていますよね。
ということで、迷うのは1と4でしょう。
1と4を読み比べてみると、1は「お伽噺」に表される「私の父に対する愛情」と「息子の私に対する愛情」とがリンクされていますが、4の方はそうしたリンクがありません。この時点で、おそらく1が答であろうと感じるわけですが、もう少し検討してみましょう。
4の「過剰な感傷」「自分を照れくさく思う」という部分に大きな問題はありませんが、「家庭的に恵まれなかった」という部分には違和感を覚えます。この文章の場合、「死去や離婚という理由で父がいない」のではなく「(仕事や事業で)外国にいるため父が家にいない」だけですね。本文中に父親が子どもに辛く当たったという事柄も見つかりません。
そこで選択肢1を読んでみると、特に矛盾点はありません。「私は父が好きだった」「生まれたばかりの息子も私を好きになってくれるかも。テヘッ。」まぁ、「身勝手」な話です(笑)。「気恥ずかしさ」を感じても無理はありません。
ということで、正解は1。
<問6>
解答は二つあります。間違って一つだけマークして次に移らないように。最悪の場合、マークずれで古文・漢文全滅なんてこともありえますので。いきなり選択肢の検討に移ります。
選択肢1
短編小説内でも「一人称を使って語られる」という部分がダメ。短編小説内では「彼」という三人称が用いられています。あと、祖父への思いや感情が詳細に描かれているとまでは言えません。よってバツ。
選択肢2
会話部分が非常に多いのは間違いありません。「です・ます」はいくらでも見つかりますが、「そうでない言い方」も2行目に見つかります。( )の挿入も99行目以降にありますね。選択肢後半は迷いますが、ちょっと保留してつぎの選択肢へ。
選択肢3
会話文では「……」が用いられているとありますが、問題にもなっていた114行目を見ると、「……」とともに「———」も用いられています。この「———」も明らかに「余韻や間を表すために」用いられていますね。よってバツ。
選択肢4
短編小説(小説内小説・お伽噺)は、少年の父への思いを介して、私の心を描いていると考えてよいでしょう。文章を全体として見ると、過去と現在、愛情と反感を描いているわけですから、「人物を重層的に描き出す」という表現もおかしくはありません。
選択肢5
1行目から3行目の「隔たりを」という部分までは特に矛盾はないように思われます。しかし、3行目の「比喩的」という部分が致命的です。比喩とは、物事の状態や様子を他の物事でたとえる表現ですが、簡単に言えば「まるで〜みたいだ」という表現に置き換えられるような表現です。ここはそういう表現ではないですよね。よってバツ。仮に「象徴的」なら答になり得る選択肢ですが。
選択肢6
最後の部分、「祖父の法要で前後三日間と挿入された短篇中の時間との区別を曖昧にしている」という点が明らかにおかしいですね。ほとんどの受験生はこの二つの部分をはっきりと別部分だと感じ取れたと思うんですが、そうであってみれば区別が曖昧だとは言えませんよね。よってバツ。
そんなわけで、正解は2と4です。
ずいぶん長い記事になってしまいました。授業ではもう少し突っ込んで説明もしているんですが、今日はこれぐらいで。できれば論説・古文・漢文についても書きたいんですが、そこまでは時間がなさそうです。
来年または再来年にセンター試験を受験しようとしている人は、早めに対策をしておいて下さいね。