「神社」に対応する英単語は「shrine」。
「寺院」に対応する英単語は「temple」。
そう習ってきましたが、次のニュースを読むと、事はそう簡単ではないらしい。
伊勢神宮:英訳は「Shinto Temple」に?- 毎日jp(毎日新聞)
20年に1度の式年遷宮を来秋に控え、三重県伊勢市の伊勢神宮の事務をつかさどる神宮司庁(同市)が、「Shrine」などと従来訳してきた神宮の英語名称を「Shinto Temple」に変更する検討を始めたことが分かった。
(上記毎日新聞記事より引用)
非ネイティブの私からすると、「神宮なのに temple?」と、かなり違和感を覚える訳語です。もちろん、神宮司庁が訳語を変えようとするからには、それなりの根拠があるはず。ネイティブの感覚からすると、伊勢神宮のような場所は「temple」と言う方が落ち着きがいいんだろうか……、と思って記事を読み進めると、ネイティブの間でも意見が分かれています。
◇適切なイメージ
国学院大学神道文化学部のノルマン・ヘイブンズ准教授(日本宗教史)の話 神道は日本固有の文化で、一つの訳語にオールマイティーな役割をさせるのは無理。しかし、人が入れない小さな建物に何かが祭られているというような意味のshrineに対して、templeには人が入って拝むイメージがあり、適切なのではないか。◇不可解な変更
タレントのデーブ・スペクターさんの話 神道イコールshrineというイメージは海外でも定着しており、変えるのは不可解だし無意味。templeとされている仏教にも迷惑がかかるのではないか。shrineで神道を浸透させればいい。
(上記毎日新聞記事より引用)
どっちの意見を取ればいいんでしょうか。英単語も言葉である以上、定義やニュアンスには「揺れ」があるはずですが、ネイティブ話者同士でも意見が相違するということは、「揺れ」の範囲内の話なのかもしれません。
記事内にもありますが、日本の神道が、欧米諸国のような一神教ではないことも、余計に話をややこしくしている感じがあります。
こんな時は英英辞書の出番。いくつかの英英辞書を引いてみましたが、似たり寄ったりの定義・例文です。英語学習者向きの英英辞典の一つ、OALD (Oxford Advanced Learner’s Dictionary) 8th から「shrine」の説明を引用してみましょう。
1 a place where people come to worship because it is connected with a holy person or event
a shrine to the Virgin Mary
to visit the shrine of Mecca2 a place that people visit because it is connected with sb/sth that is important to them
Wimbledon is a shrine for all lovers of tennis.
The singer’s grave in Paris has become a shrine.
1の例文を見ると、メッカが挙げられています。メッカって行ったことはないんですが、写真を見る限り、一定以上の広さを持った聖域ですよね。伊勢神宮も同じように考えてはいけないんでしょうか。
(ちなみに2の「パリにあるその歌手の墓は(ファンにとっての)聖地となった」という例文は、ドアーズのジム・モリソンを意識しているんだと思います。OALDの編集者は多分ロック好き(笑)。)
宗教関係の言葉は奥深くデリケートなので、私の手には負いかねますが、伊勢神宮に行く機会があれば、看板の英訳などをよく読んでみたいと思います。
ついでといっては何ですが、別の宗教施設の英訳の話です。
先日、国道176号線を走っているとき、次のような看板を見つけました。
(さすがに走行中に写真は撮れないので、Google のストリートビューから引用させてもらいました。)
「Nakayamadera Temple」 って、「中山寺寺」じゃなかろうか。「馬から落ちて落馬した」っぽい感じがします(笑)。「Nakayama Temple」ではいけない理由があったのかな……。