2021年GWの読書メモ

ゴールデンウィークとは言っても、時々雨が降る緊急事態宣言下の一日。ということで、昨日は一日家から一歩も出ず。雑務を少々こなしたものの、あとは全くの自由時間。

布団のなかでゴロゴロしながら、音楽を聴き本を読む。それもまた楽し。

ここ数日で読んだ本。

森絵都 / 風に舞いあがるビニールシート

風呂に浸かりながら読みました。短編集なので一入浴につき一編を読む。読了してから直木賞受賞作だったということを知りました。どれも良かったんですが、個人的な好みは「ジェネレーションX」ですね。若い営業マンと中堅社員の交流は思わぬところに着地して……。楽しくない人生は人生ではないとでも言いたげな作品。

今、アマゾンのページを見て思いだしましたが、家族による塾経営を題材にした『みかづき』も森絵都 でした。『みかづき』は作品が印象に残りすぎて、筆者が誰だったかということを忘れてしまっていました。『みかづき』についてはこちら

村松友視 / トニー谷、ざんす

ちょっと前に「ブクブク・マンボ」の事をこのブログに書きまして、それ以来、トニー谷のことが妙に気にかかりだしたんですよね。よく考えると、彼の残したコミックソングこそよく聴いていたものの(大滝詠一が監修した追悼盤があるのです)、彼自身のことはほとんど知りませんでした。年齢的に全盛期(昭和 20年代)と全く重なっていないので当然なんですが。

個人的には「とても頭の回るセンスのよい芸人」という印象を持っていたんですが、当時の世評は全く逆で、「とにかくいかがわしく鼻持ちならぬ男」と見られていたらしい。ところが、筆者の祖父、村松梢風が彼を可愛がっており、「トニー谷の芸には品があった」と述懐していたのを、孫である筆者が覚えており、ずっと不思議に思っていたというのが執筆の背景。

村松梢風の意見と私の直感が重なっているところもあって、とても楽しく読めました。

「ステージ上では無礼な態度を取っていたが、一旦ステージを離れると極めて温厚な人だった」なんて芸能人の話はよく聞きますが、トニー谷の場合は一貫して「ステージ上では無礼な態度、ステージを離れても他人に対し極めて無礼な人だった」らしい(笑)。

しかし、そこには深い事情があって……。とにかく「強い人」だと思いました。トニー谷の話はまたいずれ。

村山由佳 / 天翔る

生徒さんが読んでいたのを見かけ、Amazonの欲しい書籍リストに入れていたのを思いだして購入。中学入試問題として取り上げられていた部分が面白く、興味を持っていたんですよね。

簡単に言えば、大切な家族を失った不登校の少女が、乗馬競技や関係者との触れ合いの中で自分を取り戻し、大人になってゆくという「成長物語」。

馬という生き物は何か心惹かれるところがあり、最近馬に関する話も読んでいたんですが(自然放牧されている馬の話・神事に使われる馬の話・食肉とされる馬の話など)、この小説でも少女と馬との交流がとても自然に描かれていて、印象的なのでした。

一度馬に乗ったことがあります。1〜2時間の騎乗だったのに、次の日、太ももが超筋肉痛に。彼女の挑むエンデュランスレースは丸一日の騎乗。完走したライダーは真のライダーとして大いに尊敬を受けるんですが、むべなるかな。

個人的には馬はバイクに似ているように思います。バイクを「鉄馬」なんて言う人もいますが、最近のスポーティなバイクはアルミフレームやカーボンパーツ満載だしな……ってあんまり関係ないですね(笑)。

「そうかと思えばな、後ろ肢を治療してた若い獣医が、痛がる馬にいきなり蹴り飛ばされた上にコンクリの壁に頭をぶつけて、寝たきりになったこともある。この俺だって、馬で死にかけたことは何度かあったさ。――わかるか、まりも。馬ってのはな、おとなしい時はそりゃあ懐っこくてめんこいけど、ただめんこいだけの生きものじゃないってことだ。犬や猫みたいなペットとはわけが違う。命の危険はいつだってそこにある。そのことをきっちり忘れないようにして付き合ってかない限り、馬と人間のどっちにとっても不幸なことになる」
わかるか、ともう一度訊くと、少女は青白い顔でうなずいた。
「だけどな」と志渡は続けた。「俺はまりもに、必要以上に馬を怖がってほしくはないんだ。こっちが怖がってると、馬にはそれが伝わる。そうすると馬のほうも不安になってびくびくする。お互いがそんな状態じゃ、いい関係なんて生まれっこないべ?だから、まりもにはどうか、馬が危険な生きものにもなり得るってことをしっかり頭に叩き込んだ上で、それでも怖がらないでいてほしい。どんな時もこっちがどーんと落ち着いて構えてることで、馬たちを安心させてやってほしいんだ。もしかすると俺は、すごく難しい注文をしてるのかもしれない。したけど、まりもだったらって思うから言うんだ」

村山由佳『天翔る』より引用

指導者の志渡が少女まりもに、馬とのつきあい方について話しているシーン。これはバイク、もっと言えば危険になりうる物・生物とのつきあい全般に通じるなと思います。

子どもを危険から遠ざけることはある意味簡単です。しかし、危険は世の中に遍在しているのであり、保護者がいつまでもすべての危険から子どもを遠ざけ続けることは不可能です。それなら、危険は危険としてしっかり向き合わせて、その対処の方法を学ばせてやる方がよほどよいのではないか。過保護はいつの日か、子どもたちをさらに大きな危険にさらしてしまうことになりかねない。いつもそう考えている私にとって、志渡の意見は至極真っ当に聞こえます。

最後の最後、感動的なシーンがあるんですが、視点の転換が素晴らしい。自由な馬との交流を通じて、人間も自由な魂を享受する、とでも言っておきましょうか。

ともあれ、ゆっくり本を読める時間があるのは本当にいいですね。