夏休み(塾の繁忙期です)も終わってちょっと一段落、と思っていたんですが、突発的な用事があれこれと発生。なかなかブログに向かう時間が取れません。まぁ、ボチボチとやっていきましょう。今日はお気に入りの雑誌の話。
新潮社から「考える人」という雑誌が季刊で発行されています。一つのテーマを取り上げ、深く掘り下げるというスタイルの雑誌で、記事も編集も趣味のよい雑誌だと思います。
私が初めて買った号は2007年夏号。「続・クラシック音楽と本さえあれば」という特集でした。チェリスト Anner Bylsma (アンナー・ビルスマ) が大きく取り上げられているのを書店で見かけて、即座に購入しました。表紙や巻頭グラフにビルスマの写真。バッハ無伴奏チェロ組曲に関するロングインタビューが大変に面白く、舐めるように読みました(これに関しては別記事にする予定)。
しばらくこの雑誌のことを失念していたんですが、ちょっと前、書店で見かけて久々に購入しました。2009年春号、特集は「ピアノの時間」です。
また音楽関連ですが、矢野顕子のロングインタビューが面白い。彼女は紛れもない天才の一人だと思いますが、幼少期の話がいいんですよ。父君はお医者さんなんですが、毎晩のようにジャズ喫茶に娘を連れて行く。で、「この子をよろしく」と自分は帰ってしまう。中学に入ったばかりの矢野顕子は、コーラを飲みながら一人でジョン・コルトレーンに耳を傾けている。夜の11時頃になると父がまた迎えに来る……。何という大胆な家庭教育!こうして天才が一人世に出たのですから、教育として決して間違ってはいないのでしょう。父君にも敬服します。
ちょっと脱線してしまいましたが、今季の2009年夏号も紹介しておきましょう。特集は「日本の科学者100人100冊」。私はどちらかというと文系人間なので、自然科学の専門書に親しむ機会があまりありません。今季号はそうした人間向きなんでしょうか、数々の科学者が残した一般向けの著作を100冊紹介するという趣向です。
名前や業績は知っているが詳しいことまでは知らない、といった科学者の横顔を眺めるのは楽しいものです。ましてや、一般人向きの書籍ガイドまで兼ねているとなればなおのこと。優れた科学者は往々にして、一般人向きに優れた文章を残していますが(湯川秀樹を想起して下さい)、今号はそうした一般人向け理系的書籍のガイドブックとしても秀逸かと思います。
国語塾の立場から言わせてもらうと、ここに挙げられている書籍は、中学~大学入試の題材としても最適でしょう。灘中のように、理系的な文章を好む中学なんかは、ここに紹介されている書から出題してくることが十分にありえます。少し背伸びになるかもしれませんが、小学生と保護者様とで一緒に読書されるのも面白いかもしれません。
しかし、道を究めていく人達の顔っていうのは、本当にいいですよね。今号の表紙は朝永振一郎のアップ(雑誌サイトトップで見られます)。知性が、ゆるぎない意志が、一枚の写真から伝わってきます。ちなみに、朝永振一郎はノーベル賞受賞の物理学者。京都府立京都一中・第三高等学校・京都帝国大学理学部・理化学研究所と学校・職場に至るまで湯川秀樹と同期生。ノーベル物理学賞を二人とも受賞するわけですから、何ともすごい「同級生」です。
あと、岡潔(数学者)の写真にも、つくづく見入ってしまいました。ノーネクタイのスーツ姿、70代と思しき彼が砂利道の上でピョンと飛び跳ねている(!)ところです。傍には白い犬。「数学をやるのには童心の世界でしなければならない」という彼の言葉にまさにぴったりなのです。記事を読むと、文化勲章を受けた際、昭和天皇からのご下問に彼はこう述べたそうです。
「数学は生命の燃焼によって作るのです。」
数学者、恐るべし。