昨年末に発売された雑誌『考える人』の冬号、紀行文学の特集でなかなか読み応えがありました。池澤夏樹などが中心になって、様々な紀行文を紹介してくれるんですが、興味深いものが多い。梨木香歩の書き下ろし紀行文も秀逸で、久々に隅から隅までこの雑誌を読み通しました。
宮本常一の文章なんかは、もっと中学入試の題材として取り上げられてもよいのではないか、という気がします。私も宮本常一の著作は数えるほどしか読んでいませんが、地に足を付けて現場からしっかりとものを見すえる視座は、「教育性」も高いんじゃないだろうか。
さて、今回ブログ記事にしようと思ったのは、巻頭と巻末にあるユニクロの宣伝記事です。この雑誌、毎号巻頭と巻末にはユニクロの広告が掲載されているんですが、普通の広告とはひと味違ったものになっています。
具体的には、フリースジャケット○○円、といった商品そのものは取り上げず、ユニクロという企業の中枢部や現場で働いている人へのインタビューを記事にしています。商品の優位性ではなく、ユニクロの企業理念を伝えようとする、一種の「ユニクロ広報誌」のような趣になっているわけです。
かなりのロングインタビューが掲載されていることが多く、今号で言えば総計10ページ(写真ページも含む)。かなり細かい文字で記事が組まれていますので、本好き・活字好きな人でなければ、まず読まない記事だと思います(笑)。ただ、『考える人』の読者層(=読書がかなり好きな層)を考えた場合、強くアピールできている気はします。
今回取り上げられているのは、藤本壮介氏(建築家)、戸恒浩人氏(照明デザイナー)、佐藤可士和氏(クリエイティブディレクター)、三氏のインタビュー。昨年10月にオープンした「ユニクロ心斎橋店」に、建築・照明の面からスポットライトをあてるという趣旨のインタビューです。
いずれのインタビューも、建築家やデザイナーとしての(良い意味での)こだわりが表れていて、とても興味深く読みました。
ご存知の方も多いとは思いますが、「ユニクロ心斎橋店」は、日本初のグローバル旗艦店。心斎橋は当塾からそれほど遠くないので(地下鉄で10分弱、自転車で15分程度)、時々出かける街ですが、この「ユニクロ心斎橋店」の建物、一気に心斎橋のランドマークに躍り出た観があります。かつての「ソニータワー」(黒川紀章の設計)、今の「ZARA」の場所にあれば、なお面白い気がしますが、いまの少し引っ込んだ場所でも十分な存在感を発揮しています。
以下、雑誌をデジカメで撮ったものです。
ダウンジャケットのような壁面の素材は、日本で初めて建築に使われたもので、空気圧を調整してふくらみを持たせているとか。壁面照明もプログラムで制御されていて、これから様々な照明表現が見られるらしい。
豆知識はそれぐらいにして、インタビューの話に戻りましょう。
戸恒浩人氏の下記の言葉に深く共感を覚えます。
ちょっと見は非常にシンプルに見えるけれども、裏には凄い知恵が凝縮されていて、それが結果として人をビックリさせるというレベルを狙いたいと思いました。
ユニクロも最後に商品として出てくるものはシンプルな装いかもしれないけれど、その裏では、品質や原価を徹底的に突き詰めてゆくような、大変な地味な作業をやっていると思います。それと同じことを照明でもやってのけて、出てきたものは一見なんてことないように思えるのだけれども、他の人には実はどうしてできたか分からない、真似したくても容易にはできない、というレベルまで持っていきたいと考えました。
(雑誌『考える人』第35号より引用)
これ、まさに宮田塾・宮田国語塾が常々考えていることなんです。塾の場合、ビックリさせる必要はないと思いますが、「出てくるものはシンプル、しかし、その裏には深い考え・作業がある」というのは、塾としての理念・目標であります。
塾の話に着地したところで擱筆。
<追記>
ちょうどよい映像を見つけたので追加しておきます。
新建築2010年11月号 WEB連動企画 ユニクロ 心斎橋店