元法相およびその妻が選挙買収を行うという何とも恥ずかしい事件がありましたが、これに関して政権与党の幹事長が、「党としても『他山の石』としてしっかり対応していかなくてはならない」と述べたのは記憶に新しいところです。
和歌山県選出のこのベテラン議員は、いつも「斬新な」言葉の使い方をしてくれるので、私としては目が離せないんですが(笑)、上記の「他山の石」発言は、落ち着きの悪い表現だと思った方々が多かったんでしょう。結構色々なところで批判されていたようです。
こういう言葉は、入試問題を作成していらっしゃる中学校の先生方も注目しているはずで、来年の入学試験で問われることも十分にあり得ると思います。大人もちょっと勘違いしがちな表現ですので、一度取り上げてみましょう。
「他山の石」という表現は、もともと「詩経」の「他山之石可以攻玉」から来ています。「他山の石、以(もっ)て玉を攻(おさ)むべし」と読みますが、これは「よその山から出た粗悪な石でも自分の玉を磨くのに利用できる」という意味です。
つまり、「よその山から採れた安物のしょーもない石でも、自分のダイヤモンドを磨くのには役立つんだよ」といったイメージですね。ちゃんと辞書的な表現にすると、「他人のつまらぬ言行であっても、自分の修養の役に立つものだ・自分の人格を育てる助けになるものだ」ということになります。
理解が難しい語だとは思いませんが、使用上の誤解を生みやすい表現ではありますよね。他人の言行を「劣ったもの・質の悪いもの」とみなしているわけですから。
当塾の中学受験生には、「他人の言葉や行動を下に見た偉そうな言い方になるから、絶対に他人に対して使ってはいけない表現だよ」とも教えております。
先般購入した『デジタル大辞泉』に挙げられている例文は、そのあたりをクリアしていてとてもいい感じ。
「他社の不祥事を他山の石として会計の透明化をはかる」
この辞書には、その他にも有用な情報が掲載されていました。
文化庁が発表した平成25年度「国語に関する世論調査」では、本来の意味とされる「他人の誤った言行も自分の行いの参考となる」で使う人が30.8パーセント、本来の意味ではない「他人の良い言行は自分の行いの手本となる」で使う人が22.6パーセントという結果が出ている。
そうですね、よくある勘違いは「他山の石」を「他人の良い言行」と解釈してしまうパターンですね。整理しましょう。
正 「他人の」「誤った言行は」「自分の行いの参考となる」
誤 「他人の」「正しい言行は」「自分の行いの参考となる」
したがって、「偉人のすばらしい生き方を『他山の石』としたい」という表現は間違いということになります(令和3年の段階では)。
で、ここで政権与党の幹事長の発言を検討してみましょう。
「党としても『他山の石』としてしっかり対応していかなくてはならない」
これは「他山の石」を、
「身内の」「誤った言行は」「自分の行いの参考となる」
と解釈していることになりますよね。買収事件を起こしたのは「身内の」政権与党議員でしたし、選挙買収は明らかに「誤った言行」ですから。
う〜ん、これはとても斬新な使用法(笑)。現時点では、入試はおろか、日常生活でも使うのは避けた方がよい使用法だと思いますです、ハイ。
報道によると、上記の幹事長、先日(2021.04.26)の記者会見で、選挙買収事件を「他山の石」と表現した話をほじくり返され「いまも他山の石とお考えか」と尋ねられたようなんですが、反論して曰く、「それは表現じゃないですか。それぐらいの表現は許されてしかるべきだ」と。
これもすごい表現だと思います。おそらくは「しょーもない字面にとらわれてんじゃねーよ!俺の言いたいことをわかれよ!」ということなんでしょうけれど、なかなかフリーダムな言語観です。
あまり政治の話には踏み込みませんが、このあたりは、今の政権与党がいかに「忖度」を当然視してきたかを図らずも物語っていると思います。
下記記事で取り上げた幹事長も同一人物。国語的に目が離せねぇ!
「忖度(そんたく)」についてはこちらをどうぞ。