ご無沙汰して申し訳ございません。たまにはブログも書かなければ。
突然ですが、皆様、「舞う」という語と「踊る」という語の違いをご存知でしょうか?古文をよく読むような人なら、常識的な知識かもしれませんが、ご説明しておきましょう。
いつものごとく、日本国語大辞典(精選版)のお知恵を拝借。
まず「舞う」(旧仮名遣いでは「まふ」)ですが、このように定義されています。煩雑になるので自動詞の方だけをご紹介。私の方で部分的に赤文字にしてあります。
①ぐるぐる回る。めぐる。
②(音楽に合わせて)手足を動かし、ゆっくり回りながら、リズムに合った動作をする。
③鳥などが、空を飛び回る。あちらこちら飛びめぐる。また、落葉、紙片などが、ひらひら飛ぶ。
④(眩) 目がくらくらして、まわりのものが回るように感ずる。目が回る。目まいがする。
⑤あちこち走り回る。また、急いで行く。
⑥世の中や人々の間を動き回って、身を処していく。
⑦畑の作物が枯れる。特に、茄子についていう。
いかがでしょうか。この「舞う」という語には、「回る」イメージが色濃く存在することが分かりますね。
一方の「踊る」(旧仮名遣いでは「をどる」)は次の通り。私の方で部分的に赤文字にしてあります。
①はねあがる。とびはねる。跳躍する。
②激しく揺れ動く。また、すばやく動く。
③(音楽に合わせて)手足、からだを動かし、身ぶり、手ぶりをしながら、リズムに合った動作をする。舞踊をする。特に、俳諧では、盆踊りについて用いられる。
④喜び、驚き、期待、緊張などで胸がどきどきする。動悸がはげしくなる。また、心や感情が高揚する。
⑤借金の利息が二重となる。おどり歩となる。
⑥重なり加わる。二重になる。倍になる。
⑦自分の意志からではなく、他人にあやつられて行動する。他人にのせられて動く。
⑧(文字などが)乱れている。
こちらの方のイメージも掴めそうですね。激しい上下運動のイメージです。身体の動きだけではありません。金銭に用いれば、ガンガン上がっていく感じ、文字に用いれば、落ち着きなく乱雑に文字が跳ねている感じ。
「舞い」の語誌にこんな記述があります。
元来、「おどり」が跳躍運動であるのに対し、「まい」は旋回運動をさすものである。近世以降、上方においては、江戸長唄などを地とするもの、盆踊などのように手振りの種類が多く動きが派手なものを「おどり」と呼び、手振りの種類が少なく動きが静かなものを「まい」と呼ぶ。
とてもわかりやすいですね。
「まう」→旋回運動
「おどる」→跳躍運動
という関係性が成り立つわけです。英単語に置き直せば、
「まう」→ aroundとかround のイメージ
「おどる」→ jumpとかdance のイメージ
といったところでしょうね。
上方の座敷を中心に発達した文化に「上方舞」「京舞」というものがありますが、この語なんかは本当にイメージ通りです。お座敷でドスンドスンと跳ね回るわけにもゆかず、控えめな動作でしっとりと「回転する」のがこれらの舞の流儀。実はこのブログ記事、四世・井上八千代の京舞を見ながら書いております。
次に、「盆踊り」なんかは、大局的に見れば回転運動かもしれませんが(櫓の周りを皆で回りますよね)、個人個人の動きを見れば、激しい上下運動をしているわけで、やっぱり「おどり」という語の方が合います。
昔の唱歌『浦島太郎』(祖母によく歌ってもらいました)は、こんな歌詞。
昔昔、浦島は
助けた亀に連れられて
龍宮城へ来て見れば
絵にもかけない美しさ乙姫様の御馳走に
鯛や比目魚(ひらめ)の舞踊(まいおどり)
ただ珍しくおもしろく
月日のたつのも夢の中
この歌詞、タイやヒラメのきらびやかな動きが出ていて秀逸だと思うんですよね。くるくる魚達が回っているだけではなく、上下に激しく運動している魚達もいるわけですから。目にも綾な光景。そりゃ、太郎君も時が経つのを忘れるというものです。まして、美しい乙姫様が歓待してくれるとあっては……。
いや、それはどうでもいいんですが(笑)、「舞い」と「踊り」の違いをご理解いただければ幸いです。