2020年 大学入試センター試験 国語 問題解説 (漢文編)

最後のセンター試験

今年もセンター試験が終わりました。というか、センター試験そのものが今年で終了しました。指導している側からすると、愛憎の入り交じった感を覚える試験ではあるんですが(笑)、廃止されるとなると、少し寂しい気もします。

まあ、来年2021年から実施される「大学入学共通テスト」が(記述式問題の出題が見送られたということもあって)、センター試験と全く異なる試験になるというわけでもないので、これからも似たような感じでの付き合いは続きそうですけどね。

来年以降も受験生のお役に立てるかもしれないということで、今年もセンター試験国語問題を解説してみようと思うんですが、全問解説する時間はないので、今年2020年は漢文の問題を取り上げます。

いつも生徒さん達に言うんですが、難関大学を受けようとする人は漢文満点=50点を目指して欲しいんですよね。

というのも、古文は年度によって難易度がかなり振れますし(これ何とかして欲しい)、現代文、特に小説は人によっては感覚がなかなか掴めないことがありえます(合理的にトレーニングすれば必ず得点は上がるんですが)。

しかし、漢文はきちんとトレーニングすれば必ず高得点が期待できる科目です。しかもトレーニングに必要な時間はごく僅かでよいとあってみれば、得点源にしない手はなかろうと思うんですよね。

そうした観点から今年の漢文問題を見ると、「渡りに船」のような問題だったと評せるのではないかと思います。各新聞や予備校の評を見ていると、「平年並」もしくは「やや難化」とされているんですが、いやいや、そんなことはないと思います。受験生の立場に立ってみても、「易化」と評してよいのではないか。

もちろん、「きちんと合理的なトレーニングを積んできた受験生」にとっての「易化」「渡りに船」ですけれどね。

本番での所要時間について考えてみても、漢文を10分程度で解けた受験生はそれなりにいるのではないかと思います。センター試験国語の試験時間は80分。その80分で評論/小説/古文/漢文を解くわけですから、単純計算して一分野あたりの解答時間は20分。

そこを10分で切り抜けられれば、他の分野にかなりの時間を割くことができるわけで、得点率の向上に大いに資するでしょう。

というわけで、今回は細部にこだわらず、受験生視点・スピード重視での解法をお伝えしたいと思います。

おっと、勘違いして欲しくないんですが、「受験生視点・スピード重視」イコール「小手先の解法テクで切り抜けろ」というわけでは決してありません。そんなのは宮田国語塾では鼻で笑って無視しています。むしろ、ちゃんとした漢文・古文・現代文の知識に基づく読解による選択肢の削除・選定こそが、正答を導き出すための王道です。そして、それによってのみ高得点・満点が期待できるんですよね。

前置きが長くなりました。そろそろ解説に入りましょう。

問題はこちらをどうぞ。

2020年 大学入試センター試験 国語・漢文

はじめに

まず大学入試の漢文問題全体に言えることですが、とにかく「注」や「リード文」の量が多いんですよね。やはり古い時代の異国の文章ですから、それは当然のことです。この性質を利用しない手はありません。つまり、「注」や「リード文」は「理解して問題を解くのに必要だから書いてある・付けてある」と考えて、フル活用して欲しいんです。

今回のリード文にはこう書かれています。

「名門貴族の出身でありながら、都で志を果たせなかった彼は、疲れた心身を癒やすために故郷に帰り、自分が暮らす住居を建てた。これはその住居の様子を詠んだ詩である。」

かつてネットでは「まだ東京で消耗してるの?」なんていう言葉がバズったことがありますが、まあそんな感じかなと思いながら読みましょうか(笑)。

問1

これは両問ともに、一発で解答して欲しいところです。漢文も英語や古文と同じく「語学」です。基本単語はしっかり頭に入れておかないとなりません。ただ、漢文の場合、暗記すべき数は英語より遥かに少なくて済みます。せいぜい200語ぐらいでしょうか。このレベルもおろそかにしている人は「漢文なめんじゃねえ」ということで、反省しましょう。

(ア) 「倶」の読み方

5「ともに」が正解です。

勉強のために、他の選択肢の漢字も重要なものだけ記しておきますね。

1「たまたま」偶・遇・適
2「つぶさに」具・備・曲・委
3「すでに」已・既
4「そぞろに」漫
5「ともに」共・偕・与

(イ) 「寡」の読み方

5「すくなくして」が正解です。

当塾では小学生にも教えている字です。「寡占(かせん)」の「寡(か)」という字は見慣れない字かもしれないけど、「すくない」っていう訓読みもあるんだよ、だから「『すくない』企業だけで産業を『占める(支配する)』様子」という意味になるんだよ、という感じですね。ということで、大学受験生には必ず正解して欲しい問題。

こちらも前問と同じく、他の選択肢の漢字を重要なものだけ記しておきます。

1「いつはりて」詐・偽・詭・譎
2「つのりて」募
3「すくなくして」少・尠・鮮
4「がへんじて」肯
5「あづけて」預

問2

白文を書き下し文にする問題。

時々、真剣に白文をにらんでウンウン唸っている受験生がいますが、センター試験ではそんな必要は全くありません。あくまでも選択肢から正解を選べばよい問題であって、おかしな選択肢を削り落としてゆくだけです。

本問であれば、まず3,4,5の選択肢を切り落としたいところです。いずれの選択肢も主語が「由来」になっているのはいいんですが、「事は同じうせず」という部分がダメです。

漢文の基本ですが、目的語(ここでは厳密な意味で使っていませんのであまり突っ込まないで欲しい)は、動詞の後に来ます。

書を読むのは「書読」ではなく、「読書」ですよね。
火を消すのは「火消」ではなく、「消火」ですよね。

とすれば、「事情は(を)・同じにしない」という構文なら、「不同→事」という順序で漢字が並んでいないとおかしいですよね。でも白文は「事→不同」の順です。

とすれば、選択肢1,2のように、「事情は・同じでない」と「主語・述語」として理解するのが正しいということになりますね。

じゃあ、あとは選択肢1,2を比較するだけです。選択肢1は、後半が意味不明です。

樵(木こり)と隠者がともに山にこもる。理由・事情は同じではない。「一つの事を良くないとするのを同じにしない。」はい、イミフ(笑)。

選択肢2を見てみましょう。

樵(木こり)と隠者がともに山にこもる。理由・事情は同じではない。「同じでないのは一つの事に限らない。(異なる理由・事情がいくつもある。)」

そうですよね、林業従事者と隠者では立場が全然違うんですから、山にこもる理由もいろんな点で異なるでしょう。自然な文章ですね。ハイ、正解2と。

問3

文章内容をビジュアル化する問題。

出題者としては、文章内容を頭の中で映像化することを求めているんだと思いますが、これ、難関中学の入試によく出るパターンなんですよね。灘中学だと、文章から家屋の配置なんかを簡単に図示させる問題が出たりします。個人的にはいい問題だと思っています……って、センター試験の話でした。

でも、ある意味ラクな問題ですよね。心情関係を読み取るといった高度なことが要求されているわけではありませんから。位置関係だけに絞って読んでいきましょう。

卜室倚北阜 (室を卜して北の阜に倚り)
啓扉面南江 (扉を啓きて南の江に面す)
激澗代汲井 (澗を激めて井に汲むに代へ)
挿槿当列墉 (槿を挿えて墉に列るに当つ)

はあ、漢文を入力するのしんどいっす(笑)。もうちょっと頑張って、現代日本語にしておきます。

土地の吉凶を占って住居を北側の岡によりかかるような場所にした。
扉は開いて南側の川に面している。
谷川をせき止めて井戸を汲む代わりにしてある。
ムクゲを植えて垣根にあてている。

問題を解く際、細かい訳はどうでもいいんです。押さえたいのは先にも言ったように「位置関係」だけです。

A.住居の北側には岡がある
B.扉は南側の川に面している
C.谷川をせき止めて井戸代わりにしている
D.ムクゲが垣根になっている

下図を見てください。

A〜Dを全て充たしているのは選択肢2だけです。Dを考えるまでもなく、A〜Cの検討だけで解けてしまいますね。

これを「選択式問題」ではなく「描画式問題」にしたら面白いかも……。「記述式問題」であれだけ揉めたんだから、いらんことを言うなって?スミマセン。でも、AIが採点するなら、「記述式問題」より「描画式問題」の方が適切な採点ができるでしょうね。おっと、AI採点の話はまた別の記事にしましょう。

問4

漢詩の知識問題。

本来、漢詩には極めて複雑な規則があります。正直、私も漢文学者ではないので、細かい規則はよくわかりません。ただ、高校生の学ぶべき内容はごくわずか。10分もあれば整理できる知識です。実際、当塾の授業で漢詩を取り上げる時も、知識は10分前後で総ざらえしています。

詳細は各自の教科書・参考書で確認してもらうとして、本問題に必要な知識だけ説明しておきましょう。

「五言詩は偶数句で脚韻を踏む」

簡単に言うと、二句目の最後の文字(五文字目)、四句目の最後の文字、六句目の最後の文字……それぞれの音をそろえるよ、ということです。

最初の方はやや押韻が崩れていると思われるので、六句目から見てみましょう。

八句目の最後の文字:江(コウ)
十句目の最後の文字:墉(ヨウ)
十二句目の最後の文字:?
十四句目の最後の文字:峰(ホウ)
十六句目の最後の文字:功(コウ)
十八句目の最後の文字:蹤(ショウ)
二十句目の最後の文字:同(ドウ)

そうですね、ローマ字にすると、音末が「ou」になる漢字が並んでいることがわかりますね。墉(ヨウ)は分かりにくいかもしれませんが、分からぬ時はパーツ読みです。庸(ヨウ)は受験生なら知っておきたい漢字です。凡庸(ぼんよう)とか中庸(ちゅうよう)とか。蹤(ショウ)は読めなくてもOKでしょう。他が分かれば、問題を解くに不足はありません。

この時点で、選択肢は1の「窓(ソウ)」と3の「虹(コウ)」に絞られます。そこで、次のルール。

「漢詩には対句表現が多い」

これはかなり大ざっぱな言い方。本来なら律詩の対句構造なども理解しておくべきですが、細かい事は言いますまい。問題を解くのに必要なのは「対句の見分け方」です。

対句というのは、まず「意味的に対応する表現」になっていないとなりません。

例えば、「男は度胸、女は愛嬌」というように。例えば、「カレーはココイチ、お寿司はくら寿司」のように(安い店ばっかり行ってます)。

で、忘れがちなのが、対句は「文法構造も共通する」という点。主語述語の関係であったり修飾語被修飾語の関係であったりしますが、文型が同じになるわけです。

とすれば漢文の場合、原則として返り点の打ち方が共通するはずですね。返り点は文法構造に即して打たれているわけですから。

ここはとても大切なポイントです。だって、意味がわからなくとも、レ点や一二点の付き方が同じであるかどうかさえ見ればいいんですから(もちろん、例外はありますけれど)。

今回の問題で見ると、

七句目と八句目:レ点と一二点の付き方が全く同じ
九句目と十句目:レ点の付き方が全く同じ
十一句目と十二句目:レ点の付き方が全く同じ
十三句目と十四句目:一二点の付き方が全く同じ

意味を考えてみても、やっぱり対句になっていますね。とすれば、問題になっている文字(十二句目の最後の文字)は、十一句目の最後の文字「戸」に対応するはず。

「窓(ソウ)」と「虹(コウ)」なら、対応度が高いのは、「戸」と同じく家屋の一部である「窓(ソウ)」。よって、答は選択肢1。

問5

時間がなくなってきたので少し手短に。本当は消去法で検討していって欲しいと思いますが、本問は明らかに適切でないところを見つければ勝ちです。選択肢1〜4は正しいと確信できないかもしれませんが、かといって積極的にダメだとも言いがたいですよね。

で、選択肢5を見てもらいたいんですが、「田畑を耕作する世俗のいとなみが、作者にとって(中略)遠いものとなったことが強調されている」という部分に違和感があります。

何故というに、リード文には「都で志を果たせなかった彼は、疲れた心身を癒やすために故郷に帰り、自分が暮らす住居を建てた」とありましたよね。

筆者は、田舎に引きこもって「大都会なんて大嫌いさ、おれは晴耕雨読のライフスタイルで行くぜ」という詩人であるわけです。そんな「まだ都会で消耗してんの?」的な人が、田畑の耕作を疎んじるはずがありません。

よって、正解は選択肢5。

これ、漢文が全く読めなくても、リード文と選択肢だけで正解に至れる問題じゃないでしょうか。

問6

こちらも問5と同じスタンスで行きましょう。冒頭部分で述べた「注」や「リード文」の徹底活用です。

もちろん、「冀」や「能」という重要な語句の意味も分かっていて欲しいんですが、正直に言えば、そんな基本的知識がなくても解けてしまう問題です。

「注11」「注12」を見てください。

蔣生:漢の蔣詡のこと。自宅の庭に小道を作って友人たちを招いた。
求羊:求仲と羊仲のこと。二人は蔣詡の親友であった。

この注からだけでも、正解は選択肢4ですよね。「親友達よ、わが家にカモ〜ン」という話であるはずですから。それ以外の選択肢は、「親友が家にやって来る」という話から大きくずれています。

もう少し厳密に考えると、傍線Eの前には、「蔣生にならって小道を開いて、(その親友だった)求仲と羊仲の足跡・訪問を思い続けるのだ」とあります。なおのこと、選択肢4が正解ということになりますね。

ただ、問5と同じく、漢文の詳しい意味が分からずとも、注と選択肢だけで正解に至れる問題です(良いか悪いかは別として)。まあそのあたりも、今まで培ってきた「読解力」によるものですから、決して「ズル」ではありません。

ふう、手短に書いても解説を書くのはなかなか骨が折れますね。

来年以降の漢文の勉強方針

最後になりましたが、来年度以降も、漢文の最低限の知識をしっかり身につけて、センター試験過去問を研究しておくという方向性は変えないでいいだろうと思います。

受験生の皆さん、頑張ってくださいね。