GW連休も終了ですね。連休初日・二日目はそれなりにゆっくりと過ごすことが出来たんですが、それ以降は怒濤のような忙しさ。家に帰ることもままならないような日々を過ごしておりました。連休最終日になってようやく平穏な生活に戻った次第。またこの顛末はブログに書くかもしれません。
さてさて、連休最終日は映画に行ってきました。突然行くことになったので、何にしようかなと映画館のサイトをウロウロ。そうだ、これにしようと決めたのは、『レディ・プレイヤー1 (Ready Player One)』。スピルバーグの大型エンターテインメント映画です。
映画『レディ・プレイヤー1』日本版予告
あらすじはこんな感じ。
舞台は2045年の荒廃した世界。多くの人間が現実逃避すべく「オアシス」と呼ばれる仮想現実の世界に朝から晩まで入り浸っている。主人公は薄汚いスラム街に住まう、さえないティーンエイジャー。彼もまた仮想現実に入り浸る一人。
「オアシス」を開発した天才的プログラマーが仮想現実内に隠した「イースターエッグ(ソフトウェア内の隠し機能)」を探そうと、多くのオアシス参加者が必死になっている。というのも、イースターエッグを発見した者には、オアシスの所有権と開発者の遺した数十兆円が与えられるからである……。
映画は仮想現実(以降Virtual Reality=VR)と、リアルの世界を行き来します。莫大な金銭がかかっているため、VR内のみならず、現実世界の方でも邪悪な組織がうごめくんですが、主人公達の機知と結束、それからオタク的な知識によって、VR内でも現実世界でも勝利を得る、といったストーリー。
ご都合主義的な話ではありますが、ハリウッド映画にそんな文句をつけても意味はありません。面白ければOK。実際、私は楽しめました。
ちょっとWikipediaから引用します。
原作と同様、本作には1980年代の大衆文化に対するオマージュが数多く盛り込まれている。また、他作品からのクロスオーバーとして、劇中に1980年代から90年代の映画・アニメ・ビデオゲーム作品が数多く登場する。スピルバーグとプロデューサー陣は、クロスオーバーのための著作権交渉に数年を費やした。スピルバーグによると、製作に必要とされた著作権の80%を獲得している。
上記から分かるように、この『レディ・プレイヤー1 』、とにかく他の映画作品・キャラクターへの言及が多いんですよね。アニメ・ビデオゲームについては、私の興味範囲外なのでほとんど分かりませんでしたが(ゴジラやガンダムなど日本の映画・アニメキャラも多数登場します)、映画の方はある程度分かりました。
この車、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の「デロリアン」だなとか、レースシーンは『マッドマックス』と『キンゴコング』へのオマージュなんだなとか。
特にヒロインが乗るバイクは『AKIRA』で金田が乗っているバイクなんですよね。「ピーキーすぎてお前にゃ無理だよ」ってセリフが有名なヤツです。
エンジン特性が全域フラットなバイクもいいんですが、ピーキーな、つまり、特定のエンジン回転帯域でのみ強力なパワーを発生するバイクも面白いんですよね。誰が考えたセリフなのか知りませんが、「ピーキーすぎて云々」というのは、バイク好きに「おおっ、乗ってみたい!!!」と思わせる名文句だと思います。
あと、スタンリー・キューブリック監督の『シャイニング』が謎を解くための大きな役目を果たす映画として出てきます。原作者のスティーヴン・キングがこの映画にとても批判的だったというエピソードも実は鍵になっています。
で、ここからが本題。映画やゲームへのオマージュはかなりの部分が解明されていますが(くわしくはWikipediaをどうぞ)、音楽の説明はあまりなさそうなので、私の方が担当しようかと。気になった挿入曲とその解釈をいくつかご紹介。
まずオープニングで流れるのは、ヴァン・ヘイレン “Jump”。
Van Halen – Jump
えらいベタな選曲だなと思いながら映像を見ていると、主人公がスラム街にある建物の上階から下へとどんどん降りてきます(縦長の住居棟に住んでいる)。なるほど、VR内とは異なり、下がってゆくばかりの乾燥した生活に対する皮肉なんですね。
次にティアーズ・フォー・フィアーズ “Everybody Wants To Rule The World”。
Tears For Fears – Everybody Wants To Rule The World
そうですね、世界の誰もが世界を支配したい。特にイースターエッグを探しあてれば全世界を所有できるこのVR世界では。ぴったりの選曲。
ちなみにこの曲について、この間息子と話をしていたばっかりなんですよね。everybodyを主語にすると、動詞の三人称単数処理をしない中学生が多いという話です。つまり、wantsじゃなくて、wantにしてしまう人が多いけど、この曲を何度か口ずさんでおけば絶対に間違わないよという話。というか、「every=毎」というように英語と漢字の対応を押さえておけばいいだけなんですけどね。
他にもコメントしたい曲はありましたが(テンプテーションズ”Just My Imagination” 、トゥイステッド・シスター”We’re Not Gonna Take It”、バグルス”Video Killed The Radio Star” への言及とかね)、一番興味を持った曲に移ります。
主人公とヒロインがVR内のダンスフロアで初めてのデートをするシーンがあるんですが、二人がフロアに足を踏み入れた際にかかっているのが、ニュー・オーダー”Blue Monday”。
New Order – Blue Monday
1983年発表の曲ですが、私が初めて耳にしたのは数年後、高校生の頃だったかと思います。なんとも陳腐なエレクトロ・ポップに聞こえて大嫌いでした、はい(笑)。
というのも、このニュー・オーダーの前身バンド「ジョイ・ディビジョン (Joy Division)」が大好きだったんですよね。あまりの落差にガッカリしたというか。このジョイ・ディビジョン、ポスト・パンク、つまりニュー・ウェイブ的な立ち位置にあったバンドと言えますが、そのなかでも異彩を放っていました。
陰鬱な曲調、ヴォーカルのイアン・カーティスが書く内省的な歌詞、両者が相まって、どことなく文学的なんです。何かフランツ・カフカを想起させるような。かなり好き嫌いのある音楽ですけれど。
Joy Division – 06 – She’s Lost Control
“Joy Division” というバンド名が、イェヒエル・デ・ヌール(ユダヤ人作家)の小説『ダニエラの日記』の一節から採られていて、ナチス・ドイツの強制収容所内に設けられた慰安所を意味すると知ったのは、ずいぶん後のことでしたが。
このバンドの悲劇をWikipediaから引用します。
バンドが順調に成功への階段を上る一方で、過密したスケジュールは次第にイアン・カーティスの心身を蝕んでいった。持病のてんかんとうつ病、さらに女性関係の問題も抱え精神的に不安定な状態になったイアンは、ツアーの最中の4月7日にフェノバルビタールを服用して自殺を図る。この時は一命を取り留めたものの、一部のライヴをキャンセルした後にツアーが続行されたため、イアンの健康状態は悪化した。
1980年5月18日、全米ツアーへの出発を前日に控えた月曜日の早朝にイアンは自宅で首を吊り自殺。彼の遺体は同日の昼に帰宅した妻デボラにより発見された。突然の悲劇によりヴォーカリストを失ったジョイ・ディヴィジョンは活動を停止し、全米ツアーもキャンセルされた。
残されたメンバーが結成したのが、先の”New Order”。そして、件の”Blue Monday”は、イアン・カーティスの自殺を知ったときのメンバーの心境を曲にしたものです。
結局、ジョイ・ディビジョンが遺したアルバムは2枚のみ。イアン生前の『アンノウン・プレジャーズ』(1979年)と、イアン死後の『クローサー』(1980年)ということになります。
で、映画『レディ・プレイヤー1 』に話を戻しますが、このダンスフロアのシーンの後で、主人公・ヒロインの二人が現実世界で初めて会うシーンがあります。その時にヒロインが着ているTシャツ、ジョイ・ディビジョン『アンノウン・プレジャーズ』のジャケットデザインだったんですよね(上掲動画、白黒のグラフ的な画像がそれです)。おおお!映画の音楽担当者がジョイ・ディビジョンのファンなんでしょうね。同志だ!
長くなりましたが、話はもう少し続きます。
映画ではVR内のダンスフロアのシーンがもう少し続き、主人公とヒロインの心理的な距離が近づいてゆきます。そこで流れるのが、ビー・ジーズ “Stayin’ Alive”。超有名曲なので、音楽に興味のない方も一度は聞いたことがあるのではないかと思います。YouTube再生回数2.5億回!
Bee Gees – Stayin’ Alive (1977)
うまい!死の匂いを濃密にはらむ”Blue Monday”を否定するかのように、”Stayin’ Alive”(生き続ける)が提示される。いきなり「生き続けろ」というメッセージを投げつけるのではなく、「死」を先に暗示することで、生への賛歌を際立たせているわけです。
この映画、密かに深いメッセージ性も込めてあるんだなと感心しました。この分析、おそらく、音楽担当者の意図からそう離れてはいないと思います。
さて、エンディングの曲は、ダリル・ホール&ジョン・オーツ”You Make My Dreams”。歌詞は”You make my dreams come true”(君がぼくの夢を叶えてくれる)ですから、VR世界の平和と現実世界のヒロインの心を勝ち取るというハッピーエンドにぴったりの選曲ですね。
Daryl Hall & John Oates – You Make My Dreams
映画『レディ・プレイヤー1』、後世のアメリカ文化研究者から、1980年代ポップカルチャーの良質なサンプルとして言及されるようになるかもしれません。