入試国語 理由説明問題について

久々に入試国語に関する話でも書いてみましょう。大学受験生の場合は読んでもらえば理解していただけるかと思いますが、中学受験生の場合は、ちょっと難しいかもしれません。大人の方が噛み砕いて説明してくださると幸いです。


入試でよく出題されるパターンの一つとして、本文の一部分に傍線が引かれ、その部分の理由を尋ねてくるという問題があります。いわゆる「理由説明問題」です。

具体的にはこんな感じです。こんな文章・問題があると想定して下さい(分かりやすくするために単純化しています)。

「太郎は昨晩、遊び疲れて宿題もせずに寝てしまった。翌朝、太郎は母親に叱られ、登校前に泣きながら宿題をする羽目になった。朝ご飯を食べる時間もなかったため、太郎は一時間目からお腹が減っていた。

傍線部に、「太郎は一時間目からお腹が減っていた」とありますが、その理由を書きなさい。

まずなすべきことは、理由が述べられている部分を探すことです。「~から」「~ので」というように理由であることが明示されている部分を探すのは当然ですが、理由と明示されていない部分(「理由暗示部分」とでも名付けておきましょう)を探すことも大切です。

探し方は、その部分を原因・理由としたとき、傍線部分の結果が素直に(万人に納得できるように)引き出せるか否かを基準にするとよいでしょう。つまり因果関係(原因と結果の関係)がしっかり成立しているか否かを基準とするわけです。

先程の具体例でいえば、

 理由「朝ご飯を食べてこなかったから」

 結果「一時間目からお腹が減っている」

という因果関係は万人が納得できますが、

 理由「昨晩宿題をしていなかったから」

 結果「一時間目からお腹が減っている」

という因果関係は、本文を読んでいる人以外は納得できません。

答案は誰が読んでも納得できるものにするというのが入試国語のルール。採点者は本文を読んでおらず、本文の内容に従った善意解釈なんてしてくれない、と考えねばなりません。

したがって、二番目の解答は不正解ということになります。

この辺りは、授業でもより詳しく具体的に話しているので、このぐらいにしておきましょう。


この記事で書きたかったのは、「理由問題の解答をどういう順序でどの範囲まで書くか」ということです(前フリ長いね)。

例えば、先程の問題で言えば、「一時間目からお腹が減っている」という結果を生み出す理由は、一つではありません。より正確には、因果関係の流れを意識せねばなりません。

 理由1「昨晩遊び疲れて宿題をしなかった」

 理由2「登校前に宿題をせねばならなかった」

 理由3「時間がなく朝ご飯を食べられなかった」

理由1は理由2の原因に、理由2は理由3の原因になっていますから、どれを挙げてもよいと思われるかもしれませんが、そうではありません。先程申し上げたように、万人が納得できる因果関係を示さねばなりませんから、直近の理由・原因から書くことになります。つまり、理由3が最も大切、理由2が次に大切、理由1はその次、という序列があるわけです。この序列を崩すと一気にダメダメ答案になりますので、気を付けて欲しいところ。

さて、理由3>理由2>理由1という序列は分かっていただけたとして、「答案にはどの範囲まで表現すべきなのか」が次の問題として出てきます。

これは問題によりけりとしか言いようがありませんが、最も大きなヒントは「字数制限」や「解答欄の大きさ」です。

理由3だけでほぼ字数制限に達するのであれば、出題者は理由3だけを書いた解答を期待しているのでしょうし、理由3・理由2・理由1すべてを書かないと解答欄が埋まらないというのであれば、出題者はそのすべてを書くことを期待していると考えるべきです(後者の場合、上述の通り、採点者は理由の序列・順序にも目を光らせていると考えねばなりません)。


授業では色々なパターンを取り上げますが、ブログではもう一つだけ取り上げてみましょう。

少し趣向の違う問題を考えます。先程は、理由1→理由2→理由3→結果、というパターンでしたが、次に取り上げるのは、理由が序列を持たず同時に併存するパターンです。

具体的にはこんな感じ。先程同様、極端に簡略化しています。

 理由1「Aさんがイライラしていた」

 理由2「Bさんもイライラしていた」

 結果「AさんとBさんのケンカが勃発した」

この場合は、併存する理由を両方書かないとなりません。「Aさんがイライラしていたから」という解答は不可。「AさんもBさんもイライラしていたから」という解答が正解になります。

AさんがイライラしていてBさんに当たったとしても、Bさんが寛仁大度の人でニコニコと受け流すということは十分にあり得ることですよね。そう考えると、併存する理由の両方を書かねばならないことがお分かりいただけるかと思います。


よい国語の問題は、理由問題一つを取っても、とてもよく考えられています。上記のようなことを(意識的にまたは無意識的に)考えて理由を書くと、ほぼ字数制限ピッタリになることが多い。指導者側からすると、生徒にああでもないこうでもないと解答を作る努力をさせる価値のある問題と言えます。やはり難関中学・難関大学の問題はそういう良問が多いですね。

ただ、時々、妙な問題があるんですよね……。理由3だけだと、字数が随分余る、かといって理由2まで入れると字数制限オーバー。こういうときはそれなりにごまかすしかありません。ゴマカシ方も指導していますが(笑)、勉強の素材としてはあまり好ましくありません。教える側からすると、「良い難しさ」と「悪い難しさ」を判別しておく必要があるということになります。

悪問に突き当たった場合、具体的には、「これは悪問だからこれぐらいでいいよ」と示唆するようにしたり、字数制限を少し改変したりして指導するようにしています。