ポイントを外した国語記述答案

前回の記事に書かせてもらいましたが、記述問題には原則として「書かねばならないポイント」がいくつかあります。一般的な説明は授業に委ねますが、それを外した答案の「イメージ」をご紹介しましょう。少なくとも私からは、そういう風に見えています。

ボン・ジョビに “Livin’ on a Prayer” という曲があります。確か私が高校生の頃に流行った曲だったと思うんですが、私はマニアックな音楽ばかり聴いているヒネた高校生でしたので(音楽評論家になろうと結構真剣に考えていたのです)、「ボン・ジョビ?商業ロックなんてクソ食らえ、んなもの聴いてられるかよ!」と、全くこのバンド・曲を評価していませんでした。

そんな私の黒歴史はどうでもいいんですが(笑)、最近、この曲をじっくり聴く機会があって、大いに感動したのでした。評価するのに34年かかるなんてホント大馬鹿者です。

[歌詞&和訳] Bon Jovi – Livin’ On A Prayer

暮らし向きが一向に楽にならない夫婦。
もうだめだ。弱音を吐く夫に妻が言う。

Whoa, we’re halfway there
Whoa, livin’ on a prayer
Take my hand, we’ll make it. I swear
Whoa, livin’ on a prayer

 

(拙訳)

私達まだ道半ばじゃないの
祈りにすがるように生きる二人

さあ私の手を取って きっと上手くいく 誓ってもいいわ
祈りにすがるように生きる二人

とまあこんな感じの歌詞なんですが、私、夫婦の苦労譚って大好きなんですよね。

夫婦だって子育てと同じ。最初から完成されている二人なんていやしません。お互いにいたわりあったり、時には意見の対立を乗り越えたりして、夫も妻も成長していくんだと思っています。ちょっと格好つけすぎでしょうかね(笑)。

そんな私からすると、このトミーとジーナ、心から応援したくなる夫婦です。そして、私の大好きなこの名曲が思い出されます。

都はるみ・岡千秋 浪花恋しぐれ

芸のためなら 女房も泣かす
それがどうした 文句があるか
雨の横丁 法善寺
浪花しぐれか 寄席囃子
今日も呼んでる 今日も呼んでる
ど阿呆春団治

そばに私が ついてなければ
なにも出来ない この人やから
泣きはしません つらくとも
いつか中座の華になる
惚れた男の 惚れた男の
でっかい夢がある

作詞:たかたかし
作曲:岡千秋

『浪花恋しぐれ』は、破天荒な振る舞いで知られる初代桂春団治とその妻の夫婦愛を描いた曲。法善寺横丁に行くと、もう千パーセント口ずさむ歌です。

この令和の世では、何たるアナクロニズム、何たる女性蔑視と叱られるかもしれません。が、私から言わせてもらえば、それはかなり表層的な見方だと思います。夫婦の愛の形は様々だし、よく読解すると(しなくても)分かりますが、子供じみた夢を語る夫を、大人としての包容力で暖かく見守る妻という構図が見えてきます。つまり女性の方が高みに立っている。

女性=賢明な大人・包容力に溢れた大人
男性=アホな子供・大人になりきれていない夢追い人

そんな感じで、明らかに女性の方が上位の存在として描かれているわけです。しかし、美しい夫婦愛の歌であることに変わりはありません。都はるみも岡千秋も本当に歌巧者・芸達者で、いつ聴いても胸を打たれます。


って大脱線しましたが、「ポイントを外した国語記述答案」に話を戻します。

Passenger singing Bon Jovi’s “Livin’ on a Prayer” on subway

先程取り上げた Bon Jovi “Livin’ on a Prayer” ですが、地下鉄車内でおじさんが大声で歌っています。普通は迷惑な人だなと感じるはずですが、どうしてどうしてすごくウマい。思わず一緒に歌いたくなるぐらい。

そして最高に盛り上がるサビの部分。

Whoa, we’re halfway there
シ〜〜〜〜ン

Take my hand, we’ll make it. I swear
シ〜〜〜〜ン

乗客全員「ガクッ!」という感じですよね。吉本新喜劇なら全員がずっこけるシーンです。誰か女性が代わりに歌ってあげてたりします(笑)。

私から見た「ポイントを外した国語記述答案」って、正にこんな感じなんです。もちろん、生徒さんが真剣に書いてくれている答案ですから、ずっこけたり笑ったりは絶対にしませんけれど。

こうした答案が採点者にどのように見えるか、そしてどのような点がつくかは、もう説明するまでもありませんよね。

「ここのサビ部分はもっと感情を込めて朗々と歌って!」そんな指導を日々続けております。

ちなみに、この地下鉄のおじさん、箱バン、つまりライブハウス専属バンドのシンガーらしいんですよね。盛り上がるサビの部分をお客さんに歌わせるので、その部分はあえて歌わないように練習していたらしい。なるほどね。