心から物語を求めている

突然ですが、人間って皆、何か物語を求めているんだと思うんですよね。胸を打つ物語、納得させられる物語、涙してしまう物語、思わず吹き出してしまうような物語、時には憤慨させられる物語もいい。

その内容がどのようなものであれ、老若男女を問わず、人の心はいつも物語を欲しているような気がします。それは人生が一種の物語・自分で編む物語であることと同じ根から出てきているんでしょうね。

河合隼雄先生と小川洋子さんの対談集に、『生きるとは、自分の物語をつくること』という作品があるんですが、私はこのタイトルに深い共感を覚えます。人生を生きることは、(言語化されるかどうかとは全く関係なく)自分の物語を編んでいくことに等しい。年を取れば取るほど、その思いは強くなります。

河合隼雄・小川洋子『生きるとは、自分の物語をつくること』

自分の物語を編みながら、他者の興味深い物語=人生に共鳴したり、感動したり、時には反感を覚えたり。それはこの上もなく愉快なこと、というより、精神生活に欠かせないことだと思っています。

今回は、私と副代表がここ最近読んだ・観た物語の中でとりわけ印象深かった三つの作品をご紹介……と思っていたんですが、書いているうちにどんどん長くなってきたので、分割してまずは第1のパートだけで投稿します。

いずれもが「人生」という物語を、丁寧に深く彫り込んだ作品で、物語好きな私達は、登場人物の心理や生き方をあれこれと楽しく議論しました。

なお、ここでいう「物語」は「小説」と同義ではありません。小説をも含んだ”narrative” とでも言うべきもの。ということで、映画一編を今回投稿で、コミック二編を別投稿でご紹介しようかと。

映画『ジョーカー』

予告編を最初に見た際は、それほど興味をそそられなかったんですが、封切りの頃になって、どうしても見たくなった映画です。封切りの翌日が、ちょうど台風19号で塾の授業を全面休講にせざるを得なかった日だったので、台風の最中一人で映画館に出向きました。副代表はあまり気が進まないということで私一人で観賞。

その凄まじいメッセージ性・物語性・説得力に、とにかく圧倒されました。(それほど多く映画を観るわけではありませんが)ここ数年見た映画の中では、ダントツの一位。

極めて良質な小説を一気に読み上げた感じで、終映後もなかなか席を立つ気になれませんでした。帰りの電車の中でも、その強烈なメッセージの意味を考え考えし、これは意義深い作品だ、なんで一人で来ちゃったかな、是非副代表にも見てもらわねばといういう気に。

帰宅後、副代表に『ジョーカー』の素晴らしさを語る語る。うざがられるぐらいに(笑)。まあしかし、その甲斐あって、別日に二人で『ジョーカー』を観賞してきました。私は同じ映画を二度観ることはまずないんですが、この映画ばかりは再度観るに値します。

副代表も「現代社会が持っている普遍的かつ深く困難な問題」へのメッセージを正確に読み取ってくれたようで、あれこれと話しあうことしきり。そのメッセージはある意味、とても読み誤りやすく、「読解力」を必要とする映画だと私は感じました。そういった意味で、非常に「危険」な映画だとも思います。

ネタバレになるので、この映画の話はまだアップロードしていないんですが、大体記事を書き終えています。国語塾として「読解」すべき映画だと思いましたので……。公開が終わった頃にでもまたアップロードしますね。