『SUPER8』『My Sharona(マイ・シャローナ)』と物語文

映画『SUPER8(スーパー・エイト)』を見てきました。
(以下、少しネタバレが入っていますので、ご注意を。)

Super 8 – Official Trailer [HD]

公式サイトを見てみると、『E.T.』と『スタンド・バイ・ミー』を合わせたような映画だとの評があるんですが、的確な表現だと思います。

異星からの訪問者が登場するんですが、E.T.とは異なり、最初はかなり暴力的な雰囲気。しかし、ストーリーが進んでゆくにつれ、決して敵対的な生物ではないことが明らかになります。実際、この異星の生物に命を奪われる人間は、悪人に限られています。

ただ、私が思うに、異星人の話はサイドストーリー。

本作のテーマは、むしろ、少年少女達の精神的な成長・親子の情愛にあります。

本作の主人公たちは14歳の少年少女達。夏休みを迎え、映画作りに没頭する彼らは、たまたま大変な鉄道事故に遭遇してしまいます。この鉄道事故が、国家機密=異星人の話に関わる事故であったため、彼らも事件に巻き込まれてゆく……というのが大まかな話。

この大きな流れの中で、友情・恋愛感情が育まれたり、危機に立ち向かう精神力が成長したりするわけですが、そうした部分がとても丁寧に描かれます。私自身、こういう「成長物語」が大好きなんですが、多感な時期の少年少女は「成長物語」の主人公として最適な存在なんですよね。


塾ブログなので、少し国語の入試問題にからめたいと思います。

中学入試の国語問題(小説・物語)では、「少年少女の精神的な成長」が頻出のテーマなんですが(頻出中の頻出といってよい)、この『SUPER8』、まさにそのパターンに乗っかっています。

1.思春期の少年少女達が主人公である

2.時期が夏休みである

3.主人公が家庭の問題を抱えている

1は、先にも書きましたが、思春期の少年少女は、「成長物語」の主人公として最適な存在です。子供から大人へと移行してゆく時期、表面的には見えなくとも、心の中では大きな変化・成長が起こるはず。心理学者の河合隼雄先生は、この時期を「さなぎの時期」とおっしゃっていましたが、幼虫から成虫に変身するための猛烈な変身時期は、まさにこの思春期をたとえるにぴったりです。

2の夏休みですが、かなりの長期間にわたって学校の束縛から離れて、自分や友人と向き合う機会になるわけで、これまた、成長の契機になりやすい時期であります。実際、夏休みの間に「不良化」してしまう学生が多いらしいんですが、「不良化」も一種の成長と捉えれば、当然のことなのかもしれません。

3の家庭の問題ですが、この映画では、主人公の母親が数ヶ月前に不幸な事故でなくなっています。いきなり父一人子一人の家庭環境になって、親も子も戸惑わないはずがなく、子供からすると成長を「強制」される立場になっているわけです。入試問題の題材では、ここまでヘビーな状況はあまりありませんが、父母の離婚、父親の解雇などが背景になっている物語はしばしば見かけます。

ま、小うるさい分析はこれぐらいにしておきましょう(笑)。


上映が始まってしばらくは、時代背景が明示されないんですが、ある部分ではっきりと年代が明示されます。

少年達が映画撮影の合間に、声を合わせて歌うシーンがあるんですが、その歌が、The Knack の『My Sharona』なんです。

The Knack – My Sharona

このナックの『マイ・シャローナ』、聴いたことのある方も多いと思うんですが、1979年の大ヒット曲です。1979年といえば、私が9~10歳の頃。この頃から、従兄の影響で海外のロックに親しみ始めたので、特に印象に残っている曲なんですよね。

当時小学生だった私は、レコードを買うお金がなかったため、ラジオで英米のロックをよく聴いていたんですが、この『マイ・シャローナ』が本当にうんざりするほど流れていました。Wikipediaで見てみると、ビルボード5週連続1位、同年の年間チャート1位、世界的にも大ヒットとのことですから、むべなるかな。

ただ、10歳の私には、あまりに単調で無駄に長い曲に思えて仕方ありませんでした。この曲が流れる度にがっかりしていたんですよね。

あ、長じてからは、この曲の持つ味がよくわかるようになっています。だって、そもそも、ロックという音楽は単調・単純なリズムにメッセージを乗せてゆく音楽ですからね。10歳の頃の私に会えるなら、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル(CCR)あたりのCDを聴かせて説教してやりたいんですけどね(笑)。

その後のナックは、ヒットに恵まれず、一発屋の汚名(?)をほしいままにすることになります。今の私からすると、こういう類のバンドが80年代以降にヒット曲を量産することは難しかったであろうということは、明らかに見えますが……。

リードボーカルとドラムのお二人が亡くなった今、ナックは完全に過去のバンドとなっていますが、こうして折に触れ人々に思い出される曲を残せたという意味では、幸せなバンドだったのかもしれません。

ちなみに『SUPER8』のスタッフロールでも、この曲が流れます。スタッフにファンがいるんだろうなぁ。


『SUPER8』、入試の物語文を読めるようになりたい小学生、ナックのファンに、お薦めの映画です。
(成績の向上は保証しません、悪しからず(笑)。)