『小さな数学塾のヒミツ』#2

前回の続きです。

他にも面白い話が紹介されています。

(以下、引用部分は『小さな数学塾のヒミツ』稲荷誠(著) からの引用です。)

特に京大クラスなどでは、あまりに基本的すぎる説明を繰り返していると「なめられて」しまうのだ。「君達はこのように習って来ただろうが、本当はこういう意味だ」とか「こういうやり方が一般的だが、実はこうすればずっと楽だ」のように新しい見方を示し、斬新な技術を伝えることなくして彼らを引き付けることはできない。

そうそう、分かります(笑)。ただ、一般的なクラスでそういう授業をすると「訳が分からない授業」と評価されてしまいますので、要注意なんですよね。いずれのクラスでも、生徒の視点に立つということが大切なんだろうと思います。

京大工学部建築科に現役進学した女子の話。

高1の時お母さんと懇談した際に、
「日曜なんかに服を買ってやろうと思って誘っても、やりたい勉強があるからと言ってなかなかいっしょに来てくれないんです。大体休みの日だと、10時間は机に向かっています。」
半分なげくような言い方をされていたことが印象に残っている。

確かに、難関大学に現役で合格していく生徒って、こういう感じがの子が多いんですよね。さすがに高1時点では少ないと思いますが、少なくとも高3ともなれば、大多数がこういう状況になっているはず。教える側からすると、ものすごく安心感のある生徒達ですね。こちらも全力で向かうことが要求されます。

あと、各大学の数学入試問題の分析も興味深いですね。

次に京都大学を見ると、これは研究者を育成するための大学だ。入ってからの授業もトップ1割程度のみを対象にしているという印象だ。私の経験でも、思いっ切り難しい証明を「当然ですね……」と30秒程度で済ませてしまうようなことが何度もあった。(中略) モノにならない者はハナから相手にしていないのだ。話が少しそれたが、大学の姿勢がそのまま入試問題にも表れているのが面白いところだ。京大の問題は、通常の段階を踏んだ議論によって得られる結論ではなく「見たら分かるやろ」と言わんばかりの一足飛びの冴えを要求する内容がしばしば出題される。
(中略)
東大は官僚を育成するために作られた大学だ。面倒くさい案件があったとしても、眉毛ひとつ動かさずに処理できるような人間を要求している。入試問題もその如くだ。(中略) 方針が立った後もただただ面倒な計算が要求されるという点では際だっている。

私も京大の数学問題には悩まされました(笑)。前回も書きましたが、受験勉強の大部分を数学に割いた理由はここにあります。問題文からは何が言いたいのかよく分からない。悩んでいる内にピン!とひらめけば、証明がキレイにまとまることが多い。あとの計算は比較的簡単。逆にひらめかなかったら、手も足も出ないまま終了。そんな類の問題が多かった覚えがあります。

この『小さな数学塾のヒミツ』、トップ10パーセントにいる意識の高い中高生&その保護者さんには、かなりお勧めできる本だと思います。

<追記>
私の持っている初刷りは、「ワンポイント講義」の数式にミスがあるようです。単なる校正ミスでしょうし、このレベルの問題に挑戦する人なら、間違いにはまず気づくはず。ということで、全く大きな問題ではありませんが、念のために指摘しておきます。

ワンポイント講義 page3 f(x)の展開部分
^ は、べき乗を表しています。

3行目、正しくは
=x{a(x^2-2x)+b(x-2)+x^3-2x^2}

5行目、正しくは
=x(x-2)(x^2+ax+b)