自立語の数を数える問題
宮田国語塾では、あくまでも補助的にではありますが、生徒さんの受けた模試に関する質問を受け付けたり、アドバイスを行ったりしています。
最近、複数の生徒さんから質問を受けた問題で少々気になったものを取り上げてみましょう。某大手塾さんの小学6年生向けの文法問題です。
[問題]「本来、そのまわりにさまざまなものを集めるのが言葉の本質です。」の中に自立語はいくつありますか。
ホイホイホイと数えて、合計8つと即答できればいいんですが、正答率を見てみると全受験生の7%しかできていません。一般的な小学6年生のうちの7%ではありません。名だたる難関校を目指す受験生のうちの7%です。とすると、これは小学6年生にとってなかなかの難問と言えるのかもしれません。実際、この問題について尋ねてきたのは、とても成績のよい生徒さん達です。
ただ、私から見ると「重要かつ易しい問題」、言い換えれば「入試では絶対に落とすべきでない問題」に見えます。
まず模試付属の解説を見てみると、「『本来』『その』『まわり』『さまざまな』『もの』『集める』『言葉』『本質』の合計八個。自立語の特徴は文法では非常に重要である。しっかりと復習しておきたい。」とだけ記されています。う~ん、解説になってない(笑)。
ということで、当塾の方で少し解説しておきましょう。ここからは小学6年生向きに書きますね。
自立語の数=文節の数
まず押さえてほしい知識。
自立語の数=文節の数
これだけです。これだけ覚えていればこの問題はあっさり解けるはずです。
「文を文節に区切る」という作業は、中学受験生であればできるはずですね。そう、「ネ」を入れられる切れ目=文節の区切り目でしたね。
「本来ネ / そのネ / まわりにネ / さまざまなネ / ものをネ / 集めるのがネ / 言葉のネ / 本質です。」と分けて、文節の数は8個だとわかります。だから自立語の数も8個。はい終了。
受験生の皆さん、もう間違いませんね。時間のない受験生はここまで読めばOKです。でも、どうしてそうなるのかな?もう少し深く考えたい人は次の部分も読んでください。
自立語と付属語
この部分も読み始めた人は偉い!ちょっと先まで考える、ちょっと深く考える。本当の学力を伸ばす上でとても大切なことです。
まず「自立語」と「付属語」の話から始めましょう。それぞれの大まかなイメージをつかんでおきましょうね。
「自立語」とは、すごく簡単に言えば、「その単語を聞いただけで、自然にだいたい意味の分かる単語」です。
具体的には、名詞・動詞・形容詞・形容動詞・副詞・連体詞・接続詞・感動詞の八種類。どれもその単語を聞けば大体の意味がつかめます。ちょっと例を出してみましょうか。
山・鉛筆 (名詞)
歩く・泳ぐ (動詞)
暑い・長い (形容詞)
静かだ・にぎやかだ (形容動詞)
ゆっくり・少し (副詞)
あらゆる・大きな (連体詞)
したがって・しかし (接続詞)
はい・もしもし (感動詞)
どの単語も、聞けばだいたいの意味はつかめますよね。細かく覚える必要はありません。自立語のイメージがつかめればOKです。
次に、「付属語」とは、すごく簡単に言えば、「その単語を聞いただけでは、ほとんど意味の分からない単語」です。具体的には、助詞・助動詞の二種類。こちらも例を出してみましょう。
が・の・を・ので・から・ね・よ (助詞)
れる・だ・らしい・う・まい (助動詞)
どの単語も、一単語だけでは意味がまったく分かりませんよね。付属語(助詞・助動詞)だけを集めても意味のある文を作ることはできません。
いや〜、まあ私ぐらいになると作れるんですけどね。ん〜っと、「の・が・は・つつ・か・だ・れる・らしい・ます。」ゴメン、やっぱり無理でした(笑)。
文節とは
ここで文節の定義について押さえておきましょう。
文法書や国語辞典を調べると、「文節」については、こう説明されています。
「文を意味をこわさない程度に短く区切ったひとまとまり」
「文を実際の言葉として不自然でない程度に区切ったいちばん小さな単位」
要するに、「文を、意味が分かる範囲内で、できるだけ小さく区切った単位」のことですね。
ここでさっきの「自立語」「付属語」の話を思いだしてください。
「自立語」その単語を聞いただけで、自然にだいたい意味の分かる単語
「付属語」その単語を聞いただけでは、ほとんど意味の分からない単語
でしたね。とすれば、「文節=意味が分かるもっとも小さな区切り」には、自立語が最低1つは入らないとなりません。自立語0個(=付属語だけ)だと、意味が分からないですからね。
その一方で、「文節」には、自立語が2つ以上入ってはなりません。それぞれの自立語には意味がありますから、自立語が2つ以上あれば、それは2つ以上の文節に分けなくてはなりません。
そんなわけで、最初に説明した「自立語の数=文節の数」というルールが成り立つわけです。
くどくどと説明してきましたが、「文節」が「意味」を基準に文を区切るものである以上、「文節の数=自立語の数」というルールは当たり前の話ですね。
まだ頑張れるという人のために、もう少し話を深めておきましょう。
文節と自立語・付属語の数
先程から説明していますが、1つの文節の中には「1つだけ」自立語が入っています。0個でもダメ、2個以上もダメ。
じゃあ、1つの文節内の付属語の数はどうなっているでしょうか。
実はいくつでもかまいません。言い換えれば、付属語は、1つの文節の中にないこともあれば、2つ以上あることもあります。0個OK、1個OK、2個以上もOK。
こんなたとえが分かりやすいかもしれません。
大人は一人で映画館に入れます。でも、子供(幼稚園児を考えてください)は一人では映画館に入れてもらえませんよね。ただ、大人といっしょになら映画館に入れます。大人が一人いっしょにいれば、子供は一人でも二人でも三人でも映画館に入れるでしょう。
自立語と付属語の関係もこれと同じです。自立語1つで文節はできますが、付属語1つだけで文節はできません。あくまでも、「自立語+付属語」という形をとらないと、付属語は文節に入れません。
具体的な例を出してみましょう。「私」は自立語(名詞)、それ以外の単語はすべて付属語(助詞・助動詞)です。
イメージはつかめたでしょうか?
膠着語とは
少し話を大きくしましょう。言語学では、各言語を形態的に分類します。難しい表現ですね。言い換えれば、文がどのようなルールで組織されるか、どんな構造で成り立っているかという観点から各言語を分類する、ということです。
例えば、日本語と英語・中国語では、大きく文の構造が違いますが、英語は「屈折語」、中国語は「独立語」というジャンルに属します。
そして、私たちの使っている日本語は「膠着語(こうちゃくご)」に分類されます。
「膠着語」の定義を見てみましょう。
言語の形態的類型による分類の一。実質的な意味をもつ単語あるいは語幹に、文法的な機能をもつ要素が次々と結合することによって、文中における文法的な役割や関係の差異を示す言語。朝鮮語・トルコ語・日本語・フィンランド語など。
(大辞林第4版より引用)
難しい表現ですが、ここまで読んでくれた小学生(偉い!)は、もうだいたい理解できるのではないかと思います。
「実質的な意味をもつ単語あるいは語幹」というのは「自立語」のことですね。
「文法的な機能をもつ要素」というのは「付属語」のこと。
そう考えてみると、先程から図示してきたのと同じことを説明しているに過ぎません。
ついでに言っておくと、「膠(コウ)」という字は、「にかわ」と訓読みする字です。「にかわ」とは、けもの類の皮・骨などを煮た汁をかためたもので、接着剤・のりとして使っていたものです。したがって、「膠着(コウチャク)」とは、接着剤・のりで、ペタペタとひっつけることを意味します。
イメージとしては、主役である「自立語」に、脇役の「付属語」がペタペタと接着剤でくっつけられてゆく感じですね。それがまさに日本語の構造です。
ずいぶん遠くまで来てしまいましたね。ここまで来ると、もう大学生レベルの話です。今日はここまで。お疲れさま。