当塾が小学低学年用に利用している教材の問題に、「かわいげがない」という表現を説明させる問題があります。具体的には「Aさんは『かわいげがない』」という部分に傍線が引かれており、そこを分かりやすく言い換えなさい、という問題です。
よくある解答。
「Aさんは顔がかわいくないということ。」
「Aさんは顔がぶさいくということ。」
いや、それ違う(笑)。
文章をよく読むと、Aさんの「顔貌や容姿」のことを話しているのではなく、Aさんの「言動」について話しているということが分かるようになっているんですが、小学低学年では普通そこまで思いが至りませんし、「かわいげがない」という語のニュアンスを知らないこともまた当然です。
したがって、間違っても全然構わない問題ですが、この問題から、「かわいげ(可愛気)」というと「顔貌」よりもむしろ「性格」を評価する語なのだという点をつかんでもらえればと思っています。
少し大人向けに説明しますと、
「かわいい」の語義は、日本国語大辞典(精選版)によると下記の通り(私の方で本記事に関連のあるところだけを抜粋しています)。
愛すべきさまである。かわいらしい。かわゆい。
イ(若い女性や子どもの、顔や姿が)愛らしく、魅力がある。
*人情本・春告鳥(1836−37)三
「手めへに似たらさぞかはいひのが出来るだらう」ロ(子どものように)邪心がなく、殊勝なさまである。いじらしい。
*都会(1908)〈生田葵山〉不安
「妻が良人に見せんが為めに飾る可愛い心や」
ちょっと解説が必要かもしれません。イの例文は「お前に似たらさぞかし可愛い子ができるだろう」、ロの例文は「妻が夫に見せるために飾るという可愛い心」といった意味です。ここからは、
イ:顔貌・容姿といった「外面への評価」
ロ:性格などの「内面への評価」
という語義が読み取れるかと思います。つまり、「かわいい」という語は、外面にも内面にも使えるわけです。
一方、「かわいげ」の語義は、同じく日本国語大辞典(精選版)によると下記の通り(やはり私の方で本記事に関連のあるところだけを抜粋しています)。
いかにも愛らしいと感じさせること。他人に好感を与えるさま。かわゆげ。かあいげ。
*滑稽本・浮世風呂(1809−13)三
「可愛気カハイゲのある子」
*道(1910)〈石川啄木〉
「可愛気のない人達だ」
どうでしょうか。語釈と例文から、外面ではなく、性格などの「内面への評価」に使う語だということが読み取れますよね。
したがって、先程の問題の解答は、
「Aさんには好感が持てないということ。」
「Aさんは愛想が悪くていやな感じだということ。」
といったところが正解になります。
ただ、小学低学年には難しいですよね。
「Aさんは感じがわるい人だということ。」
なんていう解答で十分だと思います。
大人ならちょっと知的に、
「Aさんは小憎らしく癪に障る人だということ」
ぐらいでしょうか。
小学生にこんな本格的な話は必要ありませんが、ただニュアンスだけは知っていて欲しいなと私も副代表も思っております。「かわいげがある」とか「かわいげがない」っていうのは、顔のことじゃなくて性格のことを言うときの言葉だよ、「かわいげがある」っていうのは、性格がかわいらしくていいっていうことなんだよと、小学低学年の子達には伝えております。