ようやく夏の繁忙期が終了しました。朝から晩まで授業授業の日々でしたが、ようやく通常運転に復帰です。ブログ更新の方も滞りがちでしたが、こちらも通常運転に戻れそうです。ちょくちょく覗いて下さっていた方々、申し訳ございませんでした。
ブログに書きたいなと思った話はネット上のメモに残しているんですが、項目数を今調べてみると、500以上ありますね。まあどうでもいい話ばっかりなんですが(笑)、勉強や国語に関係する話もそれなりにあるので、また色々書いていきたいと思います。
さて、先日の授業で小学3年生の生徒さんを見ていた時の話。
意欲的な生徒さんなので、小学4年生の課題に取り組んでもらっているんですが、難しい問題も喜んで解こうという姿勢がなかなか頼もしいんですよね(というか難しい方が嬉しい模様)。
完全少人数制宮田塾の方では、私と副代表で生徒さんの答案を見て丸付けを行い、間違いがあれば正答を書き込んだ上で、口頭で指導を行うんですが、その日の問題は「次の漢字の音読みを『二つ』書け」というものでした。
簡単に思われるかもしれませんが、これ、小学3年生ぐらいにはかなりの難問なんです。もちろん訓読みは書いてはいけませんし、音読みも一つは思いだせても二つ目がなかなか思い浮かばない。
例えば、「静」なら「セイ・ジョウ」が正答になりますが、「セイ」は思いだせても、「ジョウ」はなかなか思いだせません(もしくはまだ知らない)。自宅でこうした問題集に取り組んでいても、「ふーん、ジョウっていう読みもあるんだな」で終わってしまいがちですが、そこは塾ですから、「『静脈(ジョウミャク)』って知ってる?少し青く見える血管なんだけどね、心臓に戻っていく血が流れていてウンタラカンタラ」と語彙力(と理科知識)を増やすための説明を聞いてもらうことになります。
で、先述の生徒さん、難しい読みもよく頭に入っていて、感心しながら採点していたんですが、「音」という問題に「オン・ネ」と解答していました。
「よく読めているね。でも『ネ』というのは実は訓読みなんだよ。音読みっぽいけどね。例えば、『音色(ねいろ)』だったら『訓読み・訓読み』というわけ。だから『音』の正解は『オン・イン』になるよ。例えば『母音(ボイン)』とか『子音(シイン)』とか聞いたことある?」
「あー!そう言えば聞いたことがある!」
「うん、よく知っているね。その『イン』という部分が音読みなんだよ。だから答えを『オン・イン』に書き直しておこうね。」
素直に間違い直しをしてくれること暫し。私は他の生徒さんの丸付けをしたり、説明をしていました。すると件の生徒さんがためらいながら聞いてきます。
「先生、なんか『仏様』みたいなので、別の読み方をしてた言葉があると思うねんけど……。」
「ひょっとして『観音(カンノン)』のこと?』
「そうそう!それのこと!」
「よく知ってるね〜。確かにそのときは『カン・ノン』って読むね。」
しかし、上記の問題の正答は依然として「オン・イン」であるべきです。さて、あなたならどう説明なさいますか?相手は小学3年生だと想定して下さいね。
まず大人向けの説明から。
「連声(れんじょう)」という概念があります。大辞林の説明を借りましょう。
二つの語が連接するときに生ずる音変化の一。日本語では、漢語の熟語を中心に始まったもので、唇内・舌内の鼻音(m・n)および舌内の入声音(t)の次に来たア・ヤ・ワの三行の音がマ・ナ・タ行音に変化することをいう。「さむゐ(三位)」が「さんみ」に、「にんわじ(仁和寺)」が「にんなじ」に、「せついん(雪隠)」が「せっちん」に転ずる類。主に中世の文献に見えるが、近世以降は語として固定した限られた語を除き、一般には消滅。
上記に例示されているものの他に、
天皇 てん+おう → てんのう
反応 はん+おう → はんのう
なんかが連声の例として分かりやすいでしょう(旧仮名遣いだと分かりにくいので現代仮名遣いにしています)。
確かに「てん・おう」とか「はん・おう」って発音しにくいですよね。それで、(厳密に言えば違うでしょうが)フランス語の「リエゾン」と同じような感じで、発音が自然に変わるわけです。
「観音」もまさに連声の一例でして、「かん+おん」とは発音しにくいので、 「かんのん」 と発音されている次第。ちなみに「観音」は「観世音菩薩」の略。「観世音菩薩」は「かんぜ『おん』ぼさつ」と読みます。
要するに、ここでの「音」という漢字は、本来「オン」と発音すべきところだが、連声化により「ノン」と発音しているに過ぎない。あくまで本来の発音は「オン」である、ということになります。
ただ、相手は小学低学年ですから、そこまで本格的な説明をしては余計に混乱させてしまいます。そこでこんな風に説明しました。
「観音」って本当は「カン・オン」と発音していたんだけど、言いにくいだろう?それで段々と「カン・ノン」と発音するようになってきたんだよ。だから「ノン」という読みは例外で、答えにはしないほうがいいね。ほら、「天王寺」も「テン・オウ・ジ」って読まずに「テン・ノウ・ジ」って読むよね。それと同じことなんだよ。
納得してもらえたようで、こちらも一安心。
雑学ついでにもう少し。
キヤノン(CANON)という有名企業がありますが、この社名は創業者が観世音菩薩にあやかって付けたカメラの試作機から来ています。「KWANON(カンノン)」→「CANON(キヤノン)」というわけです。
冗談みたいですが本当の話。詳しくはキヤノンの公式ウェブサイトに記載されています。
「おいおい『キャノン』じゃないのか」と思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、「キヤノン」が正しい表記。その理由も上記ページには記されています。興味を持たれた方は是非。