金木犀の香り

街を歩いているとどこからともなく甘い香り。ああ、この香り、大好きなんだよなあ。金木犀の花の香りです。

辺りを見回しても、大抵の場合、どこに咲いているのかが分かりません。それほど大きな木ではないのに、花は強い香りを放ちます。

先日、妻が実家から金木犀の花と枝をもらって帰ってきました。庭に咲いている分のおすそ分けです。花が入っているナイロン袋に口と鼻を付けて深呼吸。うっとり……って危ない遊びみたいですが、合法です(笑)。

私がキンモクセイという花の名を知ったのは、ずいぶん幼い頃だったと思います。母の実家の玄関先に、確か二本の金木犀が植わっていて、秋になるとオレンジ色の小さな花を咲かせるとともに、芳香をまき散らしていました。祖父だったか、母親だったかに、「このいいにおいの花はなんていうのん?」と尋ねた日がまるで昨日の事のようです。

秋雨が上がったばかりのさわやかな昼のことだったと記憶しているんですが、そんな些細な事が何故か頭から離れないことがありますよね。不思議です。


大人になってからの金木犀の思い出。何年前か忘れましたが、バイクで青森県に行った日の話です。

大阪市内から青森までは大体1200km程度なんですが、個人的にはそれなりの余裕を持って一日で走り切れる距離です。このあたり、人によって個人差があるんですが、私は長距離全然OKタイプ。集中力も維持できるので、結構長距離トラックドライバーの適性ありだと思っています(多分)。

昔は雑誌などでそれぐらいの距離を一日で走破している人の話を読むと、なんてバカな人なんだろうと思っていたんですが、大人になって排気量の大きなバイクに乗るようになると、案外何ともない。というか、寝なくていいならもっと走れるのにな、なんて思っていたりします。多分、病膏肓に入るというヤツなんでしょうが(笑)。

で、数年前の確かちょうど今ぐらいの季節の話。大阪を出発して名神高速道路に乗ったんですが、高速道路に乗るまでも、乗ってからも、金木犀の強い香りがしばしば鼻をくすぐります。一般道はともかく、高速道は原則として高架。一体どこから香ってくるんだろう?時々スタンディングして走ってみるんですが、辺りのどこにも金木犀の木が見当たりません。

本当に強い香りの花なんだなと再認識して走っていたんですが、北陸自動車道に入って福井県→石川県→富山県と移動しても、まだ金木犀の香りがしばしば漂ってきます。新潟県に入ってもまだ香ります。

えええ?金木犀って、同時期にこんなに広範囲で咲くのか?桜ならこんなに広範囲で咲き誇るなんてことはないはず。「ひょっとして、俺、嗅覚が麻痺してきた?もしかして幻臭?ヤバい?」と独りごちながら走る事しばし。

福島県に入っても宮城県に入ってもまだ香るに至って、不思議の念は抑えられません。「東北地方には金木犀と同じような香りのする花があって同時開花するとか?いや、そんなはずないよな〜」

確か岩手県でも金木犀の香りがしていたはずで、金木犀の「同時多発テロ」ならぬ「同時多発開花芳香攻撃」に脱帽した覚えがあります。この木の持つ生命力の強さに感動。

翌日、超早起きして秋田県の田沢湖周辺をキャイキャイと走り回ったんですが、楽しかったなあ。思い出すとまた行きたくなってきました。大阪への帰途ももちろん、しばしばキンモクセイの香り。

自動車や電車だと花の香りを楽しむ事は難しいんですが、バイクは常に風や香りを楽しむ乗り物。雨が降り始める数分前には雨の匂いや気配を鼻や肌で感じ、秋の田のそばを通れば稲穂の香りにうっとりすることができるんですよね。これほどロマンティックな乗り物はありますまい。

次は暇があれば南の方に「金木犀芳香調査隊」として出かけたいんですけどね。大阪から鹿児島まで香りは続くんでしょうか。なにぶん期間限定なので時間を取るのが難しいんですよね……。