映画『追想』と夫婦仲

そろそろお盆休みも終わりに近づいているんですが、前回記事に書いた通り、少し体調を崩しておりました。そのせいで、楽しみにしていた遠出を一つキャンセルしなければならなかったんですが(涙)、仕事休みの期間中でよかったなと。

病院でも「過度の疲労」なので、とにかく身体を休めろと診断されまして、「少し身体をいたわれ」というご先祖様の思し召しがあったんだと考えることにしております。仕事の日はもちろん、休日も動き回ってたのが災いしたんでしょうが……。

その分、休み期間中は妻や息子と過ごす時間が長くて、それはそれでとても楽しい日々だったんですけどね。


さて、休み期間初めに観た映画『追想』の話。

私、エド・シーランの書く曲が好きなんですが、この『Galway Girl』のPVを観て、とても楽しそうなデートだと思ったんですよね。私はお酒が全然ダメ、妻は夜に出歩くのが苦手、ということで、こんな感じのデートはしたことがありませんが、何か楽しそうなんです。飲みながらトラッドに合わせて踊るなんていいですよね。

Ed Sheeran – Galway Girl [Official Video]

で、この魅力的な女性は誰なのかなと調べてみると、シアーシャ・ローナン(Saoirse Ronan)という人らしい。たくさん映画に出演しているんですね。知らなかった。

それからしばらくして、最新作『追想』が近々封切られるとの話を聞いたので、予告編を見てみるとなかなか私好みの映画です。休みに入ってから、私一人で見てきた次第。

映画『追想』予告編

原作はイアン・マキューアンの『初夜』という作品。この作品、現代英文学の傑作とされているそうなんですが、不勉強で知りませんでした。確かに言われてみれば、「初夜」という古風な響きの言葉も、この映画には合う気がします。

シアーシャが演ずるのは、ブルジョア階級のお嬢様。バイオリンを学び室内楽の楽団を組んでいます。音楽で身を立てていこうとしていますが、それはどの国でも難しい話ですよね。未来に不安と希望をもちつつも頑張っている知的な女性です。

一方、男性は少し下の経済的階級に属しています。具体的には校長先生の息子さんです。加えて、母親はとある事故で脳に損傷を受けていて、通常人とは違う行動をします(裸身で鳥と会話していたり……)。本人は歴史に興味を持つ知的な青年。

一般的に考えれば、女性側の家族があまり認めたがらない交際・結婚のように思えます。そして実際に、女性側の父母はこの結婚に乗り気ではありません。

ただ、女性の方が進歩的な考えを持っており(核兵器の廃止運動で二人は知りあっています)、二人は社会的階級の差を越えて、結婚にまで漕ぎ着けます。

40代の既婚男性である私から仲の良い二人を見ていると、「うんうん、いい感じのカップルだね。末長くお幸せに」なんて思うんですが、運命は暗転します。外的な条件ではなく、二人の考えや性格のゆえに。

塾のブログなので、あまり詳しくは書けませんが、性的な感覚の不一致により、この二人、結婚式後に大きな喧嘩をしてしまうんです。私などからすると「いやいや、そんなに深く考えなくていいんだよ、結婚生活って長く続いていくもんなんだしさ」と思うんですが、若く純粋な二人には許容できない問題に見えるらしい。

結果、結婚生活はたったの6時間で終わり。あとは全く無縁の人として交流なく暮らしてゆくことになります。あんなに頑張って結婚したのに……。すごく合ってたのに……。見ているこっちの方が残念な気持ちになってきます。

特に私が感情移入してしまったのは、男性の父親。後日、「婚姻不成立」の手紙を受け取って、息子に尋ねます。「本当にそれでいいのか?本当にあの人と結婚しなくていいのか?あんなに素晴らしい女性なんだぞ。」深い悲しみと慈しみに満ちた視線で失意の息子を見やるんですが、同じ父親として共感を覚えました。

親からすると、ある異性が、我が子と合うかどうかなんて一発で分かりますからね(子どもがそれに従うかどうかはまた全然別の話ですが)。


で、この作品はそこでは終わりません。ここからは少しネタバレが入りますのでご注意。

十数年後、男性は歴史学者の道をあきらめたのか、レコード店を経営しています。扱う音楽はロックやブラックミュージック系(いいね!)。今までのさわやかな青年ではなく、少し世をすねたような男になっています。

そこに場違いな10歳前後の少女がレコードを買いに来ます。なにやらバイオリンらしき楽器ケースも持っています。どっちかというとクラシック系の女の子です。おやおや、珍しいね。何をご希望ですか?と尋ねると「チャック・ベリー」のレコードを探しに来たと言う。

『Sweet Little Sixteen』『Johnny B. Goode』あたりが入っている盤をお勧めするのが定番でしょうが、私が店長なら絶対『Maybellene』も収録されている盤をお勧めするな、と勝手に思いながら見ていると、その少女が言います。

「お母さんへの誕生日プレゼントなの。クラシックの人だけど、チャック・ベリーの曲は『bouncy & merry』で好きだって言うの。」

ショックを受ける男性。かつて愛した女性はクラシックばかりでポピュラミュージックに疎い人だった。自分の好きな「チャック・ベリー」のレコードを聞かせると、楽しそうに「この人の曲はいいわね、『bouncy & merry』だわ。」と言っていたっけ……。そんな言葉でチャック・ベリーを評する人はあまりいません。

少女のバイオリンケースをよく見ると、かつて愛した女性の楽団名が!全てを悟る男性。あの人は他の男と結婚していたんだ、こうやって子をなして幸せに暮らしているんだ……。

これ、男として非常に辛いものがあります。男の方がこういう件は引きずりますからね。幸い、私にはこういう経験はありませんが、こういう時の気持ち、どう処理すればいいのか見当もつきません。

映画はさらに数十年後も描くんですが、そこまでは申しますまい。


夫婦になったらいろんな事があるのは事実だよ。でも、だいたいのことはまあ何とかなる事。何か縁があって、そして愛し合って結婚したんだから、仲良くやりなよ。絶対に大丈夫だよ、君たちなら。

私ならそんなアドバイスをしてあげたいと思います。おそらくは、長年夫婦を続けている中年世代以上の夫婦や老夫婦なども、同じことを思うんじゃないかな(映画に真剣にアドバイスするなと言われそうですが)。

そんなことを思う8月19日は私達の18回目の結婚記念日。夫婦で仲良くやっております。主に妻の努力に支えられてはおりますが……(笑)。