数日前の朝、布団の中でニュースを読んでいて、Avicii(アヴィーチー)の訃報に触れました。ええっ!まだ20代じゃなかったっけ?いくらなんでも逝くには早すぎる。
広報担当は死去の事実のみを告げ、死因は明らかにしませんでした。加えて、これ以上の声明を出すことはしないとの由。この事実から、彼の死因はほぼ明らかであるように思います。病死であるならば、その死因を明らかにすることで、自死でないことを伝えるでしょうから……。
世界的に人気を博し、年間で30億円とも40億円とも言われる稼ぎを生み出しながら、このような結末を迎えてしまう。人間とは本当に不可思議なものです。ちなみに、人気絶頂の中、20代後半で世を去る音楽家は珍しくありません。「27歳クラブ」という言葉すらあるぐらいです。
私のような非才からすると、極めて勿体ない話に思えます。彼ほどの才があれば、まだまだ世の中の人を楽しませてあげられたであろうに。そして何より、残された家族の悲痛を考えて欲しかった。
さて、Aviciiの音楽は、音楽ジャンルで言えばEDM(electronic dance music)ということになるでしょう。私もダンスフロアで音楽に親しんでいる訳ではないので、EDMというとどうも「一本調子で退屈な音楽」というイメージを持ってしまいます。あくまでも個人的な感想ですが。というか、EDMって往年の「ハウス」とどこが違うのん?などと思ってしまう。
そんなわけで、Aviciiの音楽についても(知識として名前は知っていたものの)あまり興味を持っていなかったんですが、下記のビデオを2ヶ月ほど前に見て以来、彼の”The Nights”という曲が耳から離れなくなっていました。
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息子や妻と車に乗るたびに、この曲をかけては口ずさんでいたんですが、「えらく珍しい感じの曲を聴いてるね。さわやかでポップな感じがする。誰の曲?」などと尋ねられていたのでした。妻曰く、私が好んで聞くのは、いつも何かどろどろしたややこしい曲とか通向きな難しい曲ばかりだそうで。そんなこと無いんだけどな……。
上記動画、編集がなかなか秀逸でして、バイクの魅力を上手く表現していると思います(私がバイク好きなのでそう思うだけなのかもしれませんが)。ただ、歌詞の訳がかなりおかしなものになっているところがあるのが気になります。Aviciiの曲を和訳している他のサイトも見てみたんですが、どうも勘違いが多いような……。
父と息子の関係を描いたとても印象的な歌詞なので、Avicii追悼の意も込めて私なりに意訳してみようと思った次第。歌詞はGoogleのトップに出てきたものを採用しています。
One day my father―he told me,
“Son, don’t let it slip away”
He took me in his arms, I heard him say,
ある日、父は僕に言った
「いいか、よく聞くんだ」
父は僕を抱きしめた
僕は父の言葉に耳を傾けた
“When you get older
Your wild life will live for younger days
Think of me if ever you’re afraid.”
「今は幼くても、お前が年を取れば
若い頃の情熱は鳴りを潜め
昔のことを思い出して生きる日が来るはず
もし怖くなったら、俺の言葉を思い出すんだ」
He said, “One day you’ll leave this world behind
So live a life you will remember.”
「いつかお前もこの世を去る日が来る
そのときになって後悔するな
お前の心に残る人生を生きろ」
My father told me when I was just a child
These are the nights that never die
My father told me
僕がまだほんの小さな子供の頃
父は僕を抱きしめて言った
「いつまでも忘れられない夜がこの胸のなかにあるんだぞ」
父は僕を抱きしめて言った
最後の部分、色々と解釈はあると思うんですが、引用最初の部分で、父はまだ幼いであろう息子を両手で抱きしめて、大事な話をしようとしていますよね。「人間はいずれ死ぬ、ならばお前の思うように生きてみなさい」という人生訓です(私も大いにそう思う)。
とすれば、引用最後の部分も、息子は父の胸に抱かれていると考えるのが自然だと思います。幼い子供の顔は父親の胸に接しているでしょう。父は我が子を胸に抱き、大切な思いを伝えようとしている。
とすれば、”These are the nights that never die”は、「パパのこの胸の中には、いつまでも忘れられない大切な夜(=思い出)がいっぱい詰まっているんだぞ」といった解釈をすべきではないかと。ぎゅっと息子を抱きしめる父親の腕の力強さまで伝わってきそうな気すらします。
この部分、「(息子である自分からすると)忘れられない夜の話さ」という風に訳しているサイトが多いように思うんですが、それだと、冒頭の”One day my father―he told me” と矛盾することになります。「ある一日(One day)」に父は息子に思いを語ったのであり、それを”The nights”とするのはいかにも苦しいからです。
Aviciiは本名ではなく芸名ですが、調べてみると梵語の「Avici」から採用したとの由。Aviciとは、「阿鼻旨」。仏教で言うところの「阿鼻地獄」です。
大辞林によると、「阿鼻地獄」とはこんなところ。
〘仏〙八大地獄の第八。地下の最深部にある最悪の地獄。五逆などの大悪を犯した者が落ち,火の車剣の山などで絶え間なく苦しみを受ける所とされる。阿鼻地獄。阿鼻叫喚地獄。無間地獄。阿鼻焦熱地獄。
ちなみに、「阿鼻叫喚」という四字熟語は、非常にむごたらしい様をいいます。
なんとも凄まじい名前で活動していたんですね。
Aviciiが世を去った今、彼は本当に「後悔のない心に残る人生」を生き切ったのかがとても気になります。馬齢を重ねてきた私からすると、彼自らの子に、”The Nights”のような思いを伝えて欲しかった気がしてなりません。