西原理恵子『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』

少し前にも書いた、西原理恵子さんの新刊について。

西原理恵子『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』

女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと

深く調べず、漫画だと思って購入したんですが、到着した本をめくってみると、漫画にあらず。ゆったりした文体で書かれたエッセイでした。

私が思うに、彼女の作品のいいところは、自分の頭でちゃんと考えて物事を見ているところ。それも高みから見下ろしているのではなく、地べたから上を見上げたり横を見たりしている。功成り名遂げた今もその姿勢は変わらない。だからこそ、読者の共感を呼ぶことができるし、売れる。

高みからものを見るのは、一定以上の能力があれば簡単だと思うんですよね。でも、地べたを這うような視点からものを見たり考えたりするのは、なかなかに大変なこと。彼女の幼少期や思春期の環境・体験がそうさせているのかもしれません。

幼い頃〜思春期の彼女が置かれたのは、お世辞にも豊かとは言えない環境。高知県の貧しい田舎らしいんですが、そこではイケてる男と言ったら「やんちゃ」な不良。彼女の言葉を借りれば、単なる「無職のバカ」。かわいい子ほど、そんな男に捕まって、人生のコースが早く決まってしまう。言うまでもないでしょうが、「離婚→シングルマザー→養育費もらえない→借金まみれ」というコースです。

そんな環境では、みんながイライラしていて、日常的に暴力がふるわれる。男は女を殴り、女は子どもを殴る。自分も将来はあんなふうに男に殴られ、子を殴る親になるのかと思うと怖い。けれど、その環境を抜け出す術もない。

大学に入学していれば、どうしようもない日常から飛び立つための翼が与えられたのかもしれませんが、入試当日、借金まみれの実父が首吊り自殺。この話、確か別の本でもあっさりと書いていらっしゃいましたが、思春期にある子にとって、すさまじい衝撃だったことだろうと思います。子を持つ身から見ると、親失格にもほどがある。

そんな彼女が上京して社会的階層をはい上がっていくんですが、その中で彼女が気づいた人生の法則は、当然のことながら現実的。高みに立ったお説教とは違い、地べたからの視線で得た人生訓には説得力があります。なお、漫画家として立ってからも、アルコール中毒の夫に悩まされるんですが、それも振り返ってみれば一つの糧としていらっしゃる。本当にタフな女性です(ちなみに、夫は離婚後すぐに死去)。


この『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』は、一応、反抗期にある娘に向けて(いつか理解してくれればよいというスタンスで)書かれたエッセイなので、とくに若い女性には役立つ話も多いんじゃないかと思います。中年男性である私が読んでも、中年女性である妻が読んでも、深くうなずく話ばかりでした。

少し内容をご紹介してみたいと思います。

(下記引用部分はいずれも、西原理恵子『女の子が生きていくときに、覚えていてほしいこと』から。)

逆風の中にいて、どうしたらいいかわからずにいる女の子たちに、言っておきたい。そこから1歩踏み出すことを、どうか諦めないで。

20歳までは、困れば誰か助けてくれるかもしれない。でもそこから先は、自分で道を切り開いていくしかない。若さや美貌は、あっと言う間に資産価値がゼロになってしまう。仕事のスキルや人としての優しさ、正しい経済観念。ゼロになる前にやっておかなければならないことはたくさんあります。自立するって、簡単なことじゃないからね。

結婚したからって、そこがゴールじゃない。相手が病気になることもあれば、リストラされちゃうことだってある。どんなに立派な人だって、壊れてしまうことがある。つぶれない会社、病気にならない夫はこの世に存在しません。そうなってから「やだ。私、なんにも悪くないのに」じゃ、通らない。

だから、娘に言っています。
「王子様を待たないで。社長の奥さんになるより、社長になろう。」

女磨きって、エステやネイルサロンに通うこととじゃないからね。お寿司も指輪も自分で買おう。その方が絶対楽しいよ。

本当にそうだと思います。そして、この話の本質は男子にも言えることですよね。最低限でも、経済観念とか人としての正しさを身に付けておかないと社会で生きていくのが大変になる。また、いい大学・いい会社に入ったからといって、一生安泰というわけでもない。

仮に高校生のころの自分に言ってやるとすれば、「バイクもコンピュータも自分で買おう。その方が絶対に楽しいよ。」という感じでしょうか。まぁ、高校生の頃からアルバイトをしてそういった類いのものを購入していたので、「当たり前やろ」と返されそうですが。

才能なんて、最初から「これです」と見せられるもんじゃなくて、そうやって人が見つけてくれたりする。自分に何ができるのかなんて、やってみなければ、わからないし、どんな仕事も、自分なりに工夫をするうちに、できること、できないことが見えてくる。

(中略)

道はひとつじゃない。人生にも抜け道、けもの道があるんですよ。地図には載ってない道が。
自分が進むべき道を曲げる。
このプライドのない切り替えが、大事なんだと思う。
ダメならダメで、はい、次行ってみよう。
どっかに「ここならいける!」って場所が必ずあるから。

私も幼い頃、自分が人にものを教える仕事をするとは夢にも思っていませんでした。人様になにか教えたり伝えたりするような才能は全くないと考えていたんですよね。大学に入学した頃もそうでした。でも、いつの間にか、「すごくよく分かりました」とか「成績が上がりました」とか人から言われることが増えてきて、気がつくと今のような状態に。あれっ?(笑)

この仕事をしていて言うのも変な話ですが、自分にその才能があるのかどうかは、正直よく分からないんですよね。でも、教わりに来てくれる生徒さんがいる以上(ありがたいことです)、工夫と勉強を重ねる毎日です。

自分の足で歩けるっていうのは、つまり、自分でちゃんと稼げるってこと。
「好きなことだから、お金はもらわなくていい」は間違いです。好きなことで生きていきたいなら、それでちゃんとお金が稼げるようにならなくちゃ。
どうしたら、それでお金が稼げるのか。
そこを具体的に考えたときに、ふわふわした夢がやっと現実味を帯びてくる。
自由ってね、有料なんですよ。
そしてもし将来あなたに子どもが産まれたら、責任も有料です。お金がなかったら、子どもは育てられません。
自分で働いて、お金を稼ぐっていうのは、そうやって、ひつとひとつ、自由を勝ち取っていくことなんだと思います。

「自由に生きる」ということは、私にとって人生最大のテーマ。高校生の頃から「自由」について考え続けているといっても過言じゃありません。高校も大学もその観点から選んできましたし、仕事もやはりそう。いわば「自由について考えるプロ」ですね(笑)。

で、思うんですが、「自由」を得るには「強さ」が必要なんですよね。端的に言えば、「自由」イコール「強さ」だといってもいいぐらい。上記の西原氏の言は、自由を得るに必要な「強さ」の「経済的側面」を言っていると理解しました。そしてその意見に、私は大いに賛同します。自由は無料で手に入るものではない。よって、自由を手に入れるには原則として働かねばならない。


男性に頼るだけのひよわな女性ではなく、強く賢明な女性がもっと増えれば、社会はよりよいものになる。西原氏はそんな思いからこの書を世に出されたんでしょう。そして、そうした書物がベストセラーになっているというのは悪くないことだと思います。