あなかしこ。あなかしこ。

大学受験生からいくつか古文単語に関する質問がありまして、その中に「あなかしこ」という語が含まれていました。

今日はそれをもとにちょっとした古文講座をば。


「あなかしこ」という表現、文法的には「あな」と「かしこ」に分解されます。

あな」は感動詞。喜怒哀楽にかかわらず感情の高まりに発する語とされています。中世以降は「あら」に取って代わられるんですが、現代語だと「ああ」という意味ですね。

かしこ」は「かしこし」という形容詞の語幹。「畏し」という漢字から語感をつかんでおくと話が早い。「身も心もすくむような畏怖の気持ち」が原義だとされていまして、現代語にすれば、「恐れ多い・もったいない」という意味です。「すごく身分の高い人や神様が自分のようなつまらない者に優しく接してくれる」、そういった時に感じる気持ちを表すわけです。

この二つの語の意味を足せば、「あなかしこ」の意味が出てくるんですが、ついでに押さえておきたい文法知識があります。

それは、「感動詞+形容詞の語幹」という構文です。これは、強い感動を表すときに用いられます。

なにやら大層な文法言葉で説明していますが、あなたが関西人なら、この構文は日常的に使用しているはず。

「あ〜寒!」(ああ、寒いな)

「あ〜おかし!」(ああ、おかしいな)

「うわっ、明る!」(うわっ、明るいな)

関西人が感情を強調したいとき、形容詞を皆まで言うことはあまりありません。「あ〜寒い!」では感情が伝わらない、「い」を外して「あ〜寒!」と言ってしまうこの感覚、関西人なら納得いただけるかと思います。文法的に「寒」の部分を「形容詞の語幹」、「い」の部分を「形容詞の活用語尾」と呼んでいるだけなんですよね。

文字を減らすことによってスピーディーな感覚をかもし出すこの用法は、歴とした古文表現です。関西弁には古文に見られる言葉・表現が数多く遺跡のように残っているんですが、教科書・参考書にはその関連が掲載されていません。そんなこともあって、古文に関しては、関西の受験生の方が関東の受験生よりかなり有利な気がしているんですが、どうでしょう。実証的なデータは私も持ち合わせていませんけれど……。

ちなみに、大学受験生なら、「あなかま」「あな憂」「あな憎」などの類似表現も押さえておきたいところですね。

話はそれましたが、結局、「あなかしこ」を現代語に置き換えると、「ああ、恐れ多い!」「ああ、何ともったいない!」という感じになります。後に転じて、手紙の最後に付ける挨拶言葉となりますが、こちらはまだ辛うじて生き残っている用法ですね。なお、現代の手紙では女性語となっていて、男性の使える語ではないことにご注意を。


息子がちゃんと言いつけを守ったときなど、私も妻も彼を褒めるようにしているんですが、その際、いつからか「あなかしこ、あなかしこ」と言うようになりました。上記から分かるように、古文の世界では間違った使い方なんですが、我が家独自の用語として頻用されております(笑)。

え?賢いことを褒める本当の古語は何かって? 本来は「発明」という言葉を用います。「さてもさても、ご発明な!」なんて感じで使います。もちろん、我が家ではこちらも褒め言葉として利用しております(笑)。