下の画像は、私が授業中に書いた説明図なんですが(下手な字で済みません)、対象としている受験生は何年生だと思われますでしょうか?
正解は小学6年生。大学入試ではなく、中学入試の問題文の説明です。より正確には、今をときめく生物学者、福岡伸一氏の随筆から作成された国語問題文の一部を図示したものです(甲陽学院中学校H23年度の問題)。問題文の扱う内容レベルの高さに、ちょっと驚いてしまいませんか?
私は職業的に入試問題を見ていますから別段驚きこそしませんが、もし私が一保護者としてこの図を見れば、まず間違い無く、大学入試問題もしくは高校入試問題の解説だと考えるでしょう。
出題文の要旨は次のようなものです。
人間の死は一義的なものではない
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現在は法的に「脳死」が人間の死と定められている
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同様に人間の生の開始時点も一義的なものではない
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生と死の整合性を考えれば「脳始」が生の開始時である
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科学技術は必ずしも人間の寿命を延ばすものではない
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むしろ恣意的に人間の寿命を狭めている側面もある
教えていて言うのも何ですが、ここまでの内容把握を小学生に要求していいんだろうか、いくら出来の良い小学生とはいえ酷じゃ無かろうかという気はします。もちろん、こうした文章や問題が出題される以上、当塾としては徹底的に対策はするんですけどね。
高校生であれば、上記のような説明でほぼ足りるかと思うんですが、小学生対象の場合、そうも行きません。噛み砕き噛み砕き、時間の許す限り丁寧に説明しています。
「人間って、いつ死んだと判定されると思う?」
「心臓が止まったとき?」
「そんな感じがするよね。実際、それを判定に使っていた時代もあったんだけど、今はもう少し早い時点で『死んだ』って判定されることもあるんだよ。それは『脳』が死んだときなんだ。だから、身体は温かくて、呼吸装置で息もしていて、心臓も動いていて血が流れているなんて人も、『死んでいる』ということになることがあるよ。」
「ええっ!本当に?」
そんな前振りをしながら、脳死や臓器移植などの説明に移ることになります。
小学生からすれば、聞き慣れない難解な概念を入試当日に初めて読んで、正確に理解して答案に表現するというのは至難の業だと思います。たいていの場合は、難しい大人向きの文章による出題ですから、周辺知識も既知のものとして扱われることが多く、これがさらに受験生を困惑させている感じがあります(実際、上記の文章でも、「死」の概念は「エントロピー増大の法則」とからめて説明されています)。
そんなわけで、受験国語を教える以上、狭い意味での国語的な側面にとどまることなく、社会科学的な概念・自然科学的な概念にも目を配らないとならないと思っています。というか、論説文・評論文の指導においては、そちらの方が重要性が高いかもしれません。教える側も勉強勉強(笑)。
ちなみに、福岡伸一氏と言えば、生物学的「動的平衡」という概念を広く世に知らしめた人でもあります。この概念は、今後、理科的なセンスを重視する中学校などの入試で取り上げられる可能性が高いと思います。当塾ではもちろん、関連したテーマも合わせて説明しているので、ご安心いただきたいんですが、それ以外の方も、保護者様の方で関連書籍をお読みいただいて、お子様にご説明しておかれるとよいかと存じます。