中学入試国語の現在 − 新規性・多様性

朝日新聞デジタル版に中学入試国語に関する記事が掲載されました。個人的には、日々仕事の中で感じていることで、新鮮味のある話ではありませんが、中学受験生およびその保護者様には、結構役立つ記事ではないでしょうか。ということで、少しご紹介。

(国語入試のいま:上)新刊からの出題、増える中学 重なる時事テーマ、近年は「多様性」

この記事は上・下の二部で構成されるようで、今回の「上」が中学入試編、「下」が大学入試編になる模様です。この構成そのものが今の「受験国語」の有りようを如実に表しています。

簡単に言えば、受験国語のヤマは中学入試と大学入試にあるのであって、高校入試は重視されていないということです。公立高校の入試国語問題はかなり単純で簡単なものが多くなりますし(私立中学入試よりはるかに簡単だと言えます)、難関私立高校はそもそも高校からの募集を積極的に行いません。高校からの入学ルートを廃止する学校も増えてきたぐらいです。

そんなわけで、なかなか「実際的な」観点に立った記事構成になっているわけですが、当宮田国語塾も同じ考え方をしています。やはりニーズの高い授業・指導を提供したいと思っておりまして、必然的に授業内容を中学入試・大学入試対策に絞ることになっている次第です。とりわけ、中学入試国語の方は、合計点のなかでの比率も大きいため、一番ニーズが高くなります。

高校入試指導のお問い合わせもよくお受けするんですが、上記のような次第で開講いたしておりません。まことに申し訳ございませんが、ご寛恕賜れば。


さて、記事の内容に入りましょう。引用部分はすべて上記朝日新聞デジタル版(2021年6月23日5時00分)によります。

受験に頻出する作品からは現代社会の姿も見えてくる。

これは本当にそうですね。私の仕事の面白いところだと思います。あくまで「私立中学・国立中学の国語科教師の目を通した」現代社会像ではありますが、なかなか鋭い作品選択だと思うことが多いんですよね。

記事内では、植物学者の稲垣栄洋氏、宇宙物理学者の池内了氏、小説家の寺地はるなさんが頻出作家であるという話を受けて、頻出作品のキーポイントを「新作」「多様性」だとしています。

10年ほど前から上位難関校を中心に、その年の新刊が積極的に取り上げられるようになった。「その場で初めて出合った文章を読み解いてほしい、ということでしょう」と国定さんは推測する。

これは私も賛同するところです。

指導者側からすると、「新作」文章からよく出題されるようになっていることからは、むやみに出題予想をしてもほとんど意味がないということが帰結されます。このブログで何度も書いていますが、国語入試の出題予想なんてほとんど意味はありません。同一の出題文でも、問題によって全く異なる解答が必要になるわけですから。

そんなことより「しっかり文章の趣旨を把握する」「文章の細部まで読み取る」ことが、というか、それだけが重要です。実際は、当塾でも上記の作者達の文章を取り上げることが多いんですが、それは「出題予想」という趣旨ではありません。上記の「文章意図の把握」の練習材料として優れているからに過ぎません。

初めて見る文章に真正面から取り組んで、その趣旨を読み取り、筋の通った解答を作成する能力こそが、難関中学の求めている力です。スピード?テクニック?そんなのは二の次、三の次ですね。

頻出作品のテーマは、社会の関心事とも重なる。寺地さんの「水を縫う」は、裁縫好きの男子高校生が、かわいいものが苦手な姉にウェディングドレスを作ろうとする。今年のランキング4位だった、いとうみくさんの児童文学「朔(さく)と新(あき)」では事故で視力を失った兄が弟とブラインドマラソンに挑戦する。

「教員たちは、子どもに読んでほしい文章を選んでいる。ジェンダーや障害を切り口に、多様な他者にどう向き合うかを問うているのではないか」と国定さんは話す。

こちらは「多様性」の話。従来ですと、「裁縫は女子、ラグビーは男子」なんて先入観が出題中学側にもあったように思いますが、ジェンダー論的観点からすると、そんなのはおかしな話です。裁縫好きな男子高校生がいてもいいし、ラグビー選手になろうとする女子中学生がいてもいい。過度の性的役割固定はもう過去の遺物にしてほしいですよね。おっさんである私も少女漫画好きですし(笑)。

健常者からすると気付きにくい「バリア」も入試出題文のテーマとして散見されるようになっていますし、「経済的格差」もその一種として捉えられるかもしれません。以前は「実社会には厳然とある問題だけれど、小学生にはあえて触れさせない」というようなムードがそこはかとなくありましたが、それは過去のこと。「当中学の門を叩くものは、小学生であれ、社会的な問題にもしっかり向き合って欲しい」という出題者の意図がはっきり見えるようになってきたと思います。

論説文では、SDGsや新型コロナウイルスなど時事的なテーマが取り上げられやすく、「普段からニュースに目を配ることが大事」と国定さん。

このあたりは当塾でも意を注いでいるところで、出題文の取り上げるジャンルに近接した社会問題は、できるだけ授業の中で話すようにしています。また近接学問分野からの見方も(あまり脱線しすぎないように)、できるだけ紹介するようにしています。

この論説文は、お金の動きから社会を捉えようとしてますね。小学校ではまだ習わないけれど、そうした物事の捉え方を「経済学」といいます。少し脱線するけれど、経済学からはこの問題をこんな風に捉えることもあって……。この論説文のテーマは、社会の規範・ルールです。道徳的な観点から筆者のように考える人も多いけれど、法律的にもう少しくわしく考えて、こんな風に言う人もいまして……。この文章を書いた人は有名な数学者なんだけど、ここに現れている考えは、数学と共通性があります。数学の世界では問題をこんな風に考えることが多くて……。といった感じです。

まあ、あくまでも私の知っている範囲ですけれども(笑)。「多様性」は「学問的多様性」でもあるべきだと考えますし、それは難関中学が生徒に求める「多様なものの見方」につながってくるとの考えに基づいています。知的好奇心の高い生徒さんは、そういった辺りにすごく食い付いてくれます。

一方で、「受験対策としての読書は効率が悪すぎてお薦めしない」ときっぱり。「一つ一つの作品を味わって、自分の心を耕してほしい。それが本質的な読解力につながります」

いいことをおっしゃいますね。読書は素晴らしいことだと思いますが、受験対策としては迂遠に過ぎます。読書が受験偏差値を上げることに直結するわけではありません。あくまで、作品を味わって楽しむことが、長い目で見て読解力を身に付けることになっているという話です。そうした意味で、できるだけ幼い頃から書物に親しんで欲しいというのが当塾の願い。

仕事関係の話は無限に書きたい内容がありますが、今日はこの辺りで。