音楽の可視化・図像化・ビジュアル化

当塾では、授業で複雑なことを扱う際は、できるだけ図像化・ビジュアル化するようにしています。例えば、難解な文章の構造であったり、入り組んだ理科の知識であったり。やはり図像化する方が、生徒も頭に収めやすいですしね。ただ、図像化するには本質的な理解が必要ですから、こちらも努力や準備が必要なところではあります。


さて、音楽の話です。

音楽って、目に見えず手にも取れず、ある意味抽象の極みだと思うんですが、音楽を可視化・図像化することはできるんでしょうか。

もちろん、「楽譜」は音楽の一種の可視化ではありますが、かなり音楽についての勉強を深めておかないと、そこから音楽が立ち上ってくることはありません。プロの音楽家なら楽譜を読んで「音楽を楽しむ」ことができるんでしょうが、私のような人間には、楽譜を見て「音楽を楽しむ」ということはできません。

そうした人間向きの一つの手段として、音楽から想像される映像を制作するという方法があります。例えば、プロモーションビデオです。以前ご紹介したミシェル・ゴンドリーなんかは、その天才の一人。ただ、この場合、音楽と映像の間に制作者の主観が入るわけで、音楽の純粋性が少し失われていると言えなくもありません(そこが楽しいところでもありますが)。

ミシェル・ゴンドリー(Michel Gondry)の作品

では、もっと客観性をもって、映像で音楽を表現することはできないんでしょうか。

世の中にはすごい人がいまして、音楽に密着した客観的映像とでも呼ぶべき映像を作る人がいるんですね。こうした映像を見ていると、視覚によって音楽体験が増幅されるような気がして、とても楽しい!

今日はそうした映像をご紹介しましょう。音楽だけではなく、より一般的に、抽象的な情報を可視化・図像化する一つのヒントにもなるかと思います。


Animated Sheet Music: “Giant Steps” by John Coltrane

まずは楽譜映像から。ただの楽譜でも、コルトレーンの “Giant Steps” とシンクロされると、大変な迫力があります。可視化のオーソドックスな例でしょう。

Michael Levi – John Coltrane GIANT STEPS

同じくコルトレーンの “Giant Steps” の映像化です(この曲って映像化欲をそそる何かがあるんですかね?)。何か賞を取った映像らしいんですが、素晴らしいシンクロ具合です。何物かが構築されてゆき、また解体されてゆく。楽理は全く分からない私ですが、この “Giant Steps” という曲には、そうした構造が秘められているような気もします。

息子が二歳ぐらいの頃、この映像を一緒に見たことがあるんですが、息を詰めるようにしてこの映像を見つめていた息子、構築物が解体される最後のシーンで何故か大泣き。あやすのに苦労した覚えがあります。組み上げた積み木が壊されるような気がしたんでしょうか(笑)。

Bach, Toccata and Fugue in D minor, organ

J.S.バッハほど図像化に適した作曲家はいないんじゃないでしょうか。個人的には、J.S.バッハって数学的なイメージが強いんですが、実際、彼の伝記などを読んでみると、数字に異常なほどのこだわりを見せるエピソードが出てきます。

おなじみの曲を素材にしたこの映像は、私のような凡人にも、バッハの頭の中を垣間見せてくれるような気がします。

Ligeti – Artikulation

ハンガリーの現代音楽作曲家、リゲティの作品です。かなり取っつきにくい曲だと思いますが、このビジュアルがあるととても楽しく聴けます。YouTubeにアップロードした方のコメントには、こうあります。ちゃんとした音楽分析的背景のある図像のようですね。

In the 70’s, Rainer Wehinger created a visual listening score to accompany Gyorgy Ligeti’s Artikulation. I scanned the pages and synchronized them with the music. Enjoy!

私にとっては、何度も見てしまいたくなる映像です。宇宙人との会話の練習にもなるのではないかと思ったり(笑)。