国語の問題を解くスピード・正答率と国語指導

今日は国語の指導に関する話です。よく国語の問題を解くスピードについて聞かれるので、その辺りの話をば。

まず結論から言うと、入試国語で要求されるのは、問題文を精読し内容をしっかりと把握してその理解を示すことです。ほとんどそれに尽きるといっても過言ではありません。もちろん入試は時間制限の中で解かねばなりませんから、一定のスピードは必要です。しかし、問題を解くスピードはあくまでも従たる存在。しっかり文章を読むこともおぼつかない段階でスピードを重視するのは、本末転倒です。

精読することが可能になり、文章を読み解く力が向上してくれば、自然に文章を読んだり書いたりするスピードも上がってきます。本当に。スピードが先にあって精読が後に来るのではありません。そういう意味で「速読」とか「問題だけ先に読んで本文の関連部分だけ読む」なんて方法は全くおすすめできません。要領が良いように見えて、その実とんでもない遠回りをしていることになります。

差別用語的に聞こえるのか、最近はあまり使われなくなった「慌てる◯◯◯は貰いが少ない」ということわざがあります(一応伏せ字にしておきます)。私の通っていた幼稚園に、非常に怖い年配の先生がいらっしゃったんですが、その先生、騒ぎ立てる園児がいると、首根っこを捕まえて睨みつけながら「あわてる◯◯◯はもらいがすくない!」といつも大声で恫喝?なさるのでした。

「慌てると損をする」というメッセージ、幼い頃はあまり心に響かなかったんですが(だって先生が怖すぎたし)、大人になってみると、納得することしきり。実際、今までに当塾の門を叩いてくださった方の中にも、読み書きのスピードを重視しすぎて行き詰まってしまって……という方は結構いらっしゃいました。


ここで指導者の立場から、生徒さんを「国語の問題を解くスピード」「正答率」の観点で分類・概観してみましょう。

図を見てください。「国語の問題を解くスピード」「正答率」の二つを軸にすると、次のように4つの類型が考えられますね。

それぞれの類型に番号を付けておきます。

類型1「問題を解くスピード」速い /「正答率」高い
類型2「問題を解くスピード」遅い /「正答率」高い
類型3「問題を解くスピード」速い /「正答率」低い
類型4「問題を解くスピード」遅い /「正答率」低い

類型1「問題を解くスピード」速い「正答率」高い

この類型が最も理想的なのは言うまでもありません。こういう生徒さんの場合、さらなる高みを目指して、より難しい問題に取り組んでもらったり、入試本番を意識した実戦的な指導を行うことになります。

ただ、ここが大事なんですが、こういう類型の生徒さんはスピードを重視して勉強してきたわけではありません。勉強や読書を通じて読解力が高まってゆき、その結果「自然に」スピードが身についてきているだけの話なんです。指導者側としては、できるだけこの境地に達してもらうべく努力するということになります。

類型2「問題を解くスピード」遅い「正答率」高い

上記のような考えからすると、この類型の生徒さんは順調に勉強が進んできているパターンだと言えます。もちろん、入試本番までにもう少し意識して解くスピードを身につける必要はありますが、それは大抵の場合なんとかなります。

模試ではなく実際の入試過去問に触れてみると意外にスムーズに進んだり(模試は異常なほどの長さの文章が出題されることがあります − これについてはまた分析記事を書きたいと思います)、本番で「火事場の馬鹿力」が出たり(笑)。

類型3と類型4とどちらの指導が難しい?

ここで問題なんですが、類型3(「問題を解くスピード」速い /「正答率」低い )と 類型4(「問題を解くスピード」遅い /「正答率」低い) の どちらが指導が難しいと思われますか?

あくまでも私の見解なんですが、類型4より類型3のほうが指導は難しい気がします。より正確に言うと、類型3(正答率は低いが解くスピードだけは速いというパターン)のほうが成績を上げるのに時間がかかる傾向が高い。

普通に考えると、類型4(正答率が低く解くスピードも遅いというパターン)のほうが成績を上げるのに時間がかかりそうですよね。類型3は「解くスピード」だけは身につけているわけですから。

しかし必ずしもそうならないのが面白いところ、いや、困ったところです。その理由は一言でまとめると「拙速」というところにあります。

類型3(正答率は低いが解くスピードだけは速いというパターン)の生徒さんは、出題文章を熟読・精読するという姿勢や、問題にじっくり取り組むという姿勢がまだ身についていないんですよね。むしろスピード重視で、いかに早く解いて解答欄を埋めるかに腐心するという姿勢が身についてしまっています。そんなことは、企業戦士を育成する機関ならいざ知らず、少なくとも難関中学の国語では求められていません。

冷静に考えてみれば、どの学校も、腰を据えて筆者の主張を汲み取り、自分の言葉で表現し直せる生徒さんが欲しいはず。学校サイドから見れば、そうした姿勢はまずクラス運営の面で助かりますし(生徒同士が論理的に話し合ったり助け合ったりできることにつながる)、進学面(大学入試)での良好な結果にもつながりますからね。

それにもかかわらず、問題を先に見て、出題文は傍線部分の前後だけをサラッと読んで解答を書こうとする受験生は跡を絶ちません。私が出題者なら、そういう姿勢だと一点も取れない入試問題を作成したいと思いますが(意地悪ですね)、難関校の入試国語問題は、大なり小なりそうした側面を持っています。

もちろん、スピード重視で来てしまった生徒さんを責めているわけではありません。こうした誤った姿勢を身につけてしまっている生徒さんは、幼い頃から模試をたくさん受けてきたり、受験対策的な授業を多く受講してきたりというケースが多いんですが、その過程で「精読」よりも「スピード」を重視してしまう癖が付き、何となく見逃されてきてしまったというところなんでしょう。

類型3の生徒さんは、まず「拙速」を捨ててもらうところからスタートです。その後で「精読」姿勢を身に着けてもらわねばなりません。

類型4の生徒さんは、その「拙速」を捨てるプロセスが不要なので、その分進みが速くなりやすいという次第。もちろんこれは一般論であって、個別的に見るといろいろなケースがありますが……。

類型3の指導の実際

類型3の生徒さん(正答率は低いが解くスピードだけは速いというパターン)を指導する際は、こんな感じになります。ごくごく簡単な問題を想定してみましょう。

(結構時間がかかるはずの問題なのに、さっさと解答を書いてのんびりしている生徒さんに)
「解答が書けたみたいだね。ちょっと読んでもらえるかな?」

「昨日は朝から晩まで晴れていたから。」

「ふむふむ。確かに傍線の直前にそういう内容のことが書かれていたね。よく見つけました。でも、よく考えてみて欲しいんだけど、それって『今日遠足が中止になってしまった』ことの理由になってるかな?むしろ晴れてたんなら、逆に遠足を実施するということになるんじゃないかな?それに晴れていたのは今日じゃなくて、昨日の話だしね。」

「あ……そう言えばそうかも……。」

「じゃあもう一回、『今日遠足が中止になってしまった』ことの理由を探してみようか。もっと後ろの方の段落にあるよ。急がなくていいから、本当に理由になるかどうかを考えてから書いてみてね。」

と、こんな具合です。安易な答えで事足れりという姿勢、当塾では見逃しませんぞ(笑)。

まとめ。

国語の勉強は、拙速に逃げず 熟読・精読重視で行こう!