東大英単と京大英単(京大基本英単語)

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昔から高校生(大学受験生)向けの単語集は多数あります。が、大学生向けの英単語集はほとんどありませんでした。もちろんTOEICや英検の単語集は出版されていますが、どうしても一般社会人向けになってしまい、大学の学術性とはややズレがありました。平たく言えば、研究者(またはそのタマゴ)として、外書購読の基礎・英語論文を書く基礎を築くための適切な単語集が見あたらなかったわけです。

今年になって、ようやくそうした書籍が出版され、一般的に入手しやすくなってきました。以下の2冊です。

「東大英単」
東京大学教養学部英語部会 編著
(2009年3月初版)

「京大学術語彙データベース基本英単語1110」
京都大学英語学術語彙研究グループ&研究社
(2009年6月初版)

国立大学が一般人にも入手できるような英単語集を出版するなんて、かつては考えられなかったこと。本当に時代は変わりましたね。

今年私が見ている生徒さんは、小中学生が中心なので、上記レベルの英語は仕事上何の必要もないんですが、自分の勉強(というか復習)用に購入しましたので、少々レビューを。但し、昨日入手して10分程度ずつ目を通しただけなので、勘違いがあったらご容赦を。

まず、東大英単の帯には、こう記されています。

東京大学が発信<たった280語>で単語力強化
●充実した例文,解説と,例題で徹底ガイド
●類語の使い分け,文化的背景など,さらに理解するコラム
●「伝える」「表現する」文脈構成を, 自らのものに
その先の英語へ! 発信型英語力のために

一方、京大基本英単語の帯にはこう書かれています。

大学で学ぶための必須英単語集
京都大学の「英語学術語彙データベース」から学術研究に必要な基本単語を収録!
文系理系共通語彙:477語
文系共通語彙:311語
理系共通語彙:322語

お分かりになったかと思いますが、かなり趣が異なります。

東大英単の方は、「発信型」を謳うだけあって、取り扱う語彙を基本的な(しかし使いにくい)ものに絞り込むかわりに、解説を充実させています。例えば、”currently”の説明を見てみましょう(P172)。

例文は副詞形にこだわることなく、形容詞形の”current”を使ったものを挙げています。

Current estimates of the importance of Bach’s music are very much at variance with those made around the time of his death.
バッハの音楽の価値について、現在の評価は彼が死んだ頃の評価とはかなり異なっている。

解説は、”current”が「流れ」も表す、”currency”が「通貨」を表す、といった関連知識にも触れており、非常に面白い単語集(というか英語学習参考書)だと思います。一定以上の英語力のある人が、さらに英語力をブラッシュアップするためには最適なんじゃないでしょうか。ちなみに帯にもある猫のイラストは斎藤教授によるもの。この先生のイラスト、玄人はだしです。

余談ですが、生前のJ.S.バッハは、ヘンデルやテレマンなど当時の音楽家達よりはるかに下流として見られており、現在では考えられないような扱いを受けています。彼の伝記を読んでいると、「バッハをなめんなよ~!」と独りごちてしまいます(笑)。

閑話休題、次は京大基本英単語です。
こちらは打って変わって、大学における研究活動に必要な英単語を合理的に集めた単語集という感じです。一般的な英語の基礎力というよりは、学術的な英語の基礎力養成を目的としています。

「はしがき」から一部を引用してみます。

本書は、大学の全学共通教育(教養教育・一般教育)用英単語集として大学生の語彙教育に供するために作成されたものである。日本の大学生の語彙力低下が指摘されるなか、大学生を対象とした英単語集は、大学受験用英単語集に比べ圧倒的に数が少ない。
(中略)
つまり、学士過程において、大学生が英語学習の拠り所とすべき指針は長い間、事実上存在しなかったわけである。このような背景のもと、本書は企画された。
本書の掲載語は、京都大学が独自に開発した英語学術語彙データベースから選出されている。同語彙データベースは、京都大学の教員から推薦された英語論文誌に基づき、とりわけ学術研究の下地として必要な英語力とは何か、という問題意識から作成された。

適当に開いたページから、掲載されている語を挙げてみましょう。

benchmark
artifact
incremental
logical
commodity
synchrony
ethic
profound
negligible
autonomy
dataset

確かに大学の授業に出てきそうな英単語ですね。

他のページを眺めてみても、アカデミック性という観点からすると、今までの予備校や出版社による単語集とはかなり出来が違うように思います。有名大学の研究者達が共同作成しているわけですから、当然なのかもしれませんが。

一応塾ブログですので、もう少し踏み込んでおきましょう。

おそらく、検索してこのブログ記事にたどり着いた方々が知りたいことは、
1.最難関レベルの大学を受験する際に、これらの単語集が役立つか否か
2.最難関レベルの大学を受験する際に、これらの単語集を勉強しておくべきか否か
という点だと思います。

結論から言うと、
1.役立ちます
2.勉強しておくべきです
ということになります。

もちろん、東大と京大それぞれの入試英語の差異や、各人の英語力、英語の勉強に割きうる時間などが、結論に大きな違いをもたらすわけですが、このブログではそれらの点をひとまず無視して、一般的な話にとどめておきます。

京大・東大と他大学の最も大きな違いはどこにあるか。それは、「研究者を養成することを大きな目的としている」という点にあるように思います。もちろん、他大学でも研究者は育成されているわけですが、上記二大学を卒業して研究の道に入ってゆく人の割合は、他大学に比してずっと高い。実際、私の知る限り、学部レベルの授業でも、「社会に出てから役立つ事柄の伝達」より、「最先端の研究領域の案内」に比重が置かれている、という気がします。先生方も、自己の研究に最大の比重を置き、教育面では研究者の育成に力を入れておられる方が多いようです。

とすれば、入試でも、「将来研究の道に入っていく素質のある人を選別する」という観点が大きくクローズアップされてくるはずです。入試問題は研究者でもある先生方が作成されているんですから、当然のことです。実際、京大は固い学術的な長文を読ませて和訳させることが多いですよね。

確かに、上記の単語集は、高校生(大学受験生)向きの単語集ではありません。しかし、今申し上げたようなことを念頭に置くと、このレベルまで勉強しておくことは、決して無駄ではないはず。というか、入試自体にかなり役立つはず。

そもそも、受験しようと思う大学が公式に出している単語集を無視する手はないだろう、と私などは思ってしまいます。「大学に入ったらこういう勉強をして欲しい」と京大なり東大なりが公式にアナウンスしている訳ですからね。

もちろん、大学受験生向きの英単語集でアップアップという人には薦めませんが、そもそもそういう人は受験する大学を再考した方がよいかも(厳しいようですが……)。

東大英単の方は基本語彙を扱っているので言うまでもありませんが、京大基本英単語の方も、上述の掲載語をご覧頂けば分かるとおり、文理共通語彙に関しては、大学受験レベルを遙かに超えているなどということはありません。やや高度な大学受験レベルだとも言えるでしょう。そういう意味で、最難関大学を目指すならこれぐらいはやっておこうよ、という気がします。

特に京大基本英単語の方は、全学協力の下作成されており(東大英単は教養学部による作成)、入試対策としてもバランスが良いように思います。理系共通語彙はかなり専門的なので飛ばすとすれば、合計788語。しかも上記の大学を目指している人ならば、既にこの内の数百語は習得済のはず(ですよね?)。迷っている暇があれば覚えた方が早いと思います。

とりあえず、興味のある人は書店で手に取ってみて下さい。力のある受験生なら、自分に必要か否かが自分で判断できると思います。