嬉しかったはたった半時 ― お光の気持ちがよく分かる

新型コロナウイルスの件で、世の中がざわついています。早く終息に向かって欲しいところです。

当塾の場合、例年11月ごろから繁忙期に入り、気の休まらない日々が続くんですが、その終わりを告げるのが2月末から3月中旬の確定申告。これが終わると繁忙期終了!という感じなんです。今年も休みを返上して必死でやりあげましたよ。

早くから手を打っておけよと言われそうですが、そんな暇があれば他のことに時間を当てたいんですよね。税務をおろそかにするわけではないんですが、生徒さんの学力が上がる作業でもなく、楽しいわけでもない作業、最小限の時間で済ませたい。となると、申告期に一気呵成に仕上げるに如くはなし、となるわけでして。

煩雑で面倒臭い、しかし、間違いが許されない作業。ううう。しかし、なんとか全作業を終えて、税務署に申告書類を提出した後の解放感。これ、自営業者の方はよく分かっていただけるのではないでしょうか。電子的に申告することも難しくはないんですが、解放感を味わいたくて敢えて今でも申告書類を税務署に持参しているという(笑)。

税務署の帰り道は「ようやく春だぜ〜」てな感じで、鼻歌交じり。鼻歌で歌うは野崎村。もちろん、帰宅してからも仕事の方は山積みで、プラプラ遊んでいられるわけではないんですが、どこか解放感があって上機嫌なのでした。

好事魔多し。翌日、いきなりプリンターが故障。2枚に1枚の割合で紙づまりが発生します。1枚印刷しては、トナーとドラムを4つ外し、紙づまりを処理。ご丁寧に、給紙口、印刷途中分、排紙口の全部が詰まってくれます。仕事になりません。10枚印刷するだけでヘロヘロに。

もう耐用年数を超えているし仕方がないなとあきらめ、新機種の検討をします。ふむふむ、今はレーザーよりビジネスインクジェットの方がいいのかな。しかし、検討にも時間がかかり、午前は丸つぶれ。

まあいい、今日の夜は自分の時間に使えるし……と思っていたら、夕方、新型コロナウイルスによる全国休校要請の首相談話が!

授業終了後、副代表と相談し、塾としての方針を決定、文章化してとりあえずはブログにアップ。次は、保護者の皆様に書面化してお渡ししなくては、関係の方々には連絡もしないと、ということで仕事が一気に大量発生。


ふと浮かんだ言葉は、「嬉しかつたはたつた半時。」

文楽や歌舞伎がお好きな方ならご存じかと思います。『新版歌祭文』野崎村の段で、田舎っぽい女の子のお光(おみつ)が言う台詞です。大好きな久松(イケメンです)は、都会のお嬢様お染(おそめ)に夢中。お染も久松に首ったけで、二人は大恋愛中。お染のお腹は既に大きくなりつつあります。そのことを知らず、お光は久松との祝言を許されて大喜び。しかしその半時後(一時間後)に事実を知らされ、身を引くことに……。

「所詮望みは叶ふまいと思ひのほか祝言の、盃するやうになつて嬉しかつたはたつた半時。無理に私が添はうとすれば死なしやんすを知りながら、どう盃がなりませうぞいな。添ふに添はれぬこの身の因果、せめて未来は仏にと、あきらめきつた投島田。心を推してお二人とも仲よう添ふて下さんせ」
http://hachisuke.my.coocan.jp/yukahon/nozakimura.html より引用

ううっ、お光ちゃん。君の気持ちがよく分かるよ。半時だけのぬか喜び。ちょっと大げさすぎますか。もう少し繁忙期は続きそうです。

春の野崎村の舞台なんて最高なんだけど、コロナ騒ぎで観劇・ライブはしばらくお預けになりそうですね。がくっ。

『野崎村』を詳しく知りたい方は下記をどうぞ。

新版歌祭文~野崎村 | 歌舞伎演目案内 – Kabuki Play Guide –

『野崎村』は浄瑠璃の世界でも屈指の名曲。落語の出囃子にもよく使われているので、そちらでご存知の方も多いかもしれませんね。なかなか義太夫(太棹三味線)で短めのいい映像が見当たりませんが、ちょっと変わり種の下記なんかはどうでしょうか。

レアコラボ 太棹三味線と細棹三味線で「野崎村」