追悼 緒形拳

緒形拳が亡くなりました。

今の日本で、強烈なプロ意識を持ち、説得力ある演技のできる名俳優を挙げろと言われたら、10人中5人は「緒形拳」を挙げるんじゃないでしょうか。
(3名は「役所広司」2名は「山崎努」を挙げるでしょう。勝手に決めていますが…。)

どことなくナイフのような狂気を感じさせるのに、男の強さ・弱さ・優しさも表現出来る、稀有な役者さんだったと思います。

一番最近見た映画は「火宅の人」。最近と言っても数年前ですが、深夜テレビを見ていると、たまたまこの映画が放映されていました。ボンヤリ見ているうちに、彼の演技から目が離せなくなって、ついつい最後まで。

原作は檀一雄(女優「壇ふみ」の父君)の自伝的小説でして、女性・金銭の両者にだらしない作家の日常(というか修羅場)が描かれています。不思議なことに、緒形拳が演じると、そのだらしなさや救いようのなさにも説得力が生まれてきます。主人公の無軌道な生活を見ていても、「だめじゃないか、そんなことしてちゃ…」という気持ちとともに、「まぁ、仕方がないよな。うん、分かるよ。」という気持ちも持ってしまうんですよね。

活動の幅が広く、それでいて演技の質が高く深い。こうした役者さんはそうそう得られるものではありません。惜しい人を亡くしたと思います。合掌。