舞踊は酔いしれるもの・Jungle “Casio”のダンサー

前回は「舞い」と「踊り」の話でしたが、もう少し舞い・踊りの話をば。

国語豆知識「舞う」と「踊る」の違い

ある劇評家(確か渡辺保氏だったと思う)がどこかに書いていらっしゃいました。演劇鑑賞は頭を冴え渡らせて、ストーリーや演技を解釈する知的な行為である。一方、舞踊は何も考えず演者の身体の動きに酔いしれるものである。

私も本当にその通りだと思います。舞踊を観る時は、難しいことは考えず、ぼんやり観て、ぼうっと酔えばよい。それこそが舞踊を観る楽しみ。いつでもそうだとは限りませんが、演者とこちらの歯車が噛みあった時、素晴らしい感動を得られることがあります。

以前、歌舞伎舞踊を観に行った際(演目は失念してしまいましたが)、隣にいらっしゃった熟年女性の方々が、顔を上気させて異口同音に「私、ポーッとして酔っちゃったみたい」とおっしゃっていたことがあります。そうです、そうです、それこそが舞踊の力なんですよ、と横で勝手にうなずく私(笑)。

そういう意味で、舞踊=not「知」but「情」だと思うんですが、その「情」、映像で観てもある程度の快感は得られるものの、舞台でライブを見る方がやっぱり「情への酔いしれ度」は高いんですよね。

生活の中に、ぼんやりと舞踊を眺める時間がふんだんにあればいいんですが、なかなかそんな余裕はありません……。


さて、何故いきなりこんな舞踊の話をしているかというと、とても印象的なダンサーを知ったからなんです。

私、雑用をこなしている時、何らかの音楽を聴いていることが多いんですが、その日は何となくカーティス・メイフィールド(米国のソウルシンガー,1942-1999)を聴きたくなって、YouTubeで適当にチョイスしておりました。

ご存知の通り、YouTubeは、動画を色々見ていく内にこちらの嗜好を判定して、関連動画をリコメンドしてくれるシステムになっていますが、その日は、何度も何度も「Jungle」というバンドが紹介されます。

よく知らないバンドだな、何か古くさいセンスのバンド名だな(「ジャングル」というと、高速ブレイクビーツをベースとした90年代頃のダンスミュージックというイメージがあります)、それとも、クール&ザ・ギャングみたいなファンクバンドなのかな?(彼らには”Jungle Boogie”という大ヒット曲があります)、などと思い、クリックしたのが次の曲。

Jungle – Heavy, California

うわわ、何これ?何これ?最高!今年の宮田塾ベストチューン賞確定やん!って、去年(2018年)の曲だったのか……。不覚にも全くのノーマークでした。

調べてみると、Jungleは英国の7人組エレクトロ・ソウル&ファンクバンド。ジャミロクワイやノエル・ギャラガーも絶賛しているとの由。ノエル・ギャラガーはどうでもいいんですが(ファンの人ゴメン)、ジャミロクワイ(JK)は私と同年齢で、聴いてきた音楽がかなり似通っているので、大いに納得。

今風の音楽評論的に言えば、「オーガニック・ソウルに大いなる影響を受けたネオ・ソウル」ということになるんでしょうが、それだけでは片づけられない深みがあります。ファルセットヴォイスという表面的な部分だけではなく、「人生や人間に対する強い肯定感情」を持つという点(それこそがカーティスの美点であり私が強く魅かれるところ)において、カーティス・メイフィールドの衣鉢を継ぐ人たちだと感じるんですよね。

そんな経緯で、このJungleを大いに気に入り、遅ればせながら昨年出たセカンドアルバム”For Ever” を聴きまくっていたここ一週間。特に先述の”Heavy, California” は200回以上聴いたと思います(笑)。

その間に、息子と車で出かける機会があり、このアルバムをかけてカーティス・メイフィールドの話などをしていた(というか蘊蓄を垂れていた)んですが、息子曰く「あれ?この曲だいぶん前から知ってるよ。」え?マジ?何でもアップル社だかUberEatsだかの宣伝に使われているそうで。テレビを全然見ないので知らなかったよ……。

で、ここからが本題なんですが、私の紹介したいのは次の動画。何が凄いって、これ多分ワンテイクで撮ってるんですよね……。

Jungle – Casio (Official Video)

「舞い・踊りに酔いしれる」という感覚、この動画をご覧いただければご理解いただけるのではないかと。センターの彼、凄まじい才能を持ったダンサーだと思います。曲ももちろん最高なんですが、この身体のキレ!人間の身体ってこんなに美しく動かせるんだ!見ているうちにこちらの身体も自然に動きだします。

後白河法皇の編んだ梁塵秘抄に、「遊ぶ子供の声きけば、我が身さへこそゆるがるれ」という有名なフレーズがありますよね。いきなり授業モードになりますが、最後の「るれ」は助動詞「る」の已然形で「自発」の意味を有します。つまり、「遊んでいる子供たちの声を聞くと、自分の身体の方まで『思わず』揺れてくるよ」という意味なんですが、このダンサーの動きを見ていると、正にそんな感じになります。

このダンサーってどんな人なんだろうと思って調べてみましたが、日本語の情報はありませんでした。が、海外ではやっぱり「あの凄いダンサー誰やねん?」と話題になっている模様。

彼の名は、Will West 。インスタグラムが開設されていて、仕事のオファーもできるようです。

インスタグラムからたどってゆくと、YouTubeに上げられている自己プロモビデオが見つかります。

I Had A Vision – Masego

うむむ、やっぱり素晴らしい才能を持ったダンサーですね。時間軸を徹底的に細切れにして、その一つ一つに意味のある身体の動きを割り当てているような踊りというか。そうしたデジタル的な面があるのに、アナログ感も持ち合わせているという。凄い。Masego(マセーゴ)の曲というチョイスもいいんだよなあ。

今後、色々なプロモビデオに起用されそうな予感がしますね。

長くなりましたが、洋の東西を問わず、舞踊は何も考えず身体の動きに酔いしれるもの。浦島太郎のように、ぼんやりと舞い・踊りを楽しむ時間が欲しいものです。