塾運営のあれこれと小説『みかづき』

毎日毎日が飛ぶように過ぎてゆくこの時期。ふと気がつくと、ここ3日間、家・教室から出ていないんですよね……。十の事務をこなしたと思うと、新たに十五の事務が発生しているという様子で、いつまでたっても仕事が終わらない(笑)。

忙しいのは本当にありがたいことでして、塾に閑古鳥がカーカー(という鳴き声なのだろうか)鳴くより、はるかに喜ばしいことなんですけれども……。今の年齢だから何とかこなせていますが、これ、70代だったら確実に死んでるよな〜と副代表と話しています。この仕事っていつまでできるんでしょうね?

思い起こしてみると、塾を開業して16年以上が経過しておりまして、塾の新年度(2月開講)を迎えるのは、もう17回目ということになるらしい。「『らしい』って、自分達の話じゃないのか」と言われそうですが、何か実感が湧かないんですよね。とても信じられない。

どう考えても6〜7年ぐらいしかやってないような気がするんだけどな〜。そんなに長い間やってきたなんて嘘やろ〜。私達の正直な気持ちなんですが、計算してみると、やっぱり17年目に突入しています。とても不思議な気がします。

10年以上存続する塾は珍しいという話がありまして、その点を考えると、ある程度のご評価はいただけたのかもしれませんが、自分たちとしては、まだまだ道半ばという感覚です。というか、駆け出し気分満載(笑)。

もちろん、授業料を頂戴しているわけですから、素人気分でホイホイホイ、なんてことはしていませんが、「教えてやっている」というような尊大な気持ちには到底なれません。

何年経っても、「わざわざこんな小さい塾に来てくださって本当にありがとうございます」「教えさせていただいてありがとうございます」という気持ちは抜けません。もちろん、生徒さんに卑屈になって「へえへえ、肩でもお揉みしましょうか」なんてことはありませんが……。


私の祖父二人は生粋の商売人。父方の祖父も母方の祖父も、自分で独自の商売を立ち上げて、かなりの規模にまで成長させました。私はいずれの祖父とも縁が深かったので、幼い頃から祖父達の影響を強く受けてきたと思いますが、そこには「商売教育」という側面もあったのだろうと思います。

「仕事はこうすべし」「商売かくあるべし」と正面切って伝授されたわけではありません。が、何というのでしょうか、お客様との接し方、お金に対する考え方、時間に関する考え方、仕事とプライベートの切り分け方などなど、今になって考えてみると、そうした諸々の大部分は、学校や書籍からではなく、祖父達から自然に教わったことに気がつきます。

長じてから、経営学の書籍などを読むと、「これおじいちゃんが言ってたことを難しく言い換えてるだけやな」「そうそう、おじいちゃんも冗談交じりでこんなこと言ってたな」という部分が多いこと多いこと。

そうした祖父の恩が、今の塾の運営にも役立っているのかもしれず、今さらながら感謝することしきり。もちろん、塾という場ですから、経営手腕だけで成り立つなんてことはありません。当然ながら、科目の深い理解・生徒さんの理解・指導能力こそが主体です。

ただ、その上で、ご通塾下さる方々に対する深い感謝の念も、やはり大きな基本となるところだと思っています。商売人的ですけれど、それは捨てられない基本。というか、そうした感謝の気持ちを忘れるなんて、恐れ多すぎてできないんですけどね。


こんなことをあれこれ思うのは、森絵都の小説『みかづき』を読んだからでしょうね。親子三代にわたる塾運営史。

最初、この小説のことを知った時、個人的には、めちゃくちゃ面白い小説か、読んでいて辛すぎる小説かのいずれかになると感じました。副代表にこの小説の話をしたところ、「それ、どう考えても読んでて苦しくなる小説やんか」と言われ、それもそうだと購入せずに数年が経過。

ところが先々週、夜のスポーツジムで、「塾をやりましょう!」という言葉が流れてきて、思わずテレビ画面を見ると、永作博美が高橋一生にむりやりキスを迫るという意味不明な画が(笑)。

「私思うんです。学校教育が太陽だとしたら、塾って月みたいな存在だなって。」というセリフを聞くに至って、小説『みかづき』がドラマ化されたことに気づきました。

めったに見ないテレビの前にたまたまいて、そこでたまたまドラマ『みかづき』が放映されている。私はこういう流れというか、縁みたいなものを非常に重視しておりまして、これは「この小説を読め」ということだなと思いました。

早速Amazonで購入して、日曜日に読み始めたんですが、一時間ほどで止めておくはずが、一気に引き込まれて5時間ほど読みふける羽目に(仕事が……)。一気に読み切った600ページ強の小説は、素晴らしい出来であるだけでなく、自分の置かれた立場から、色々なことを考えさせられる意義深い読書体験をもたらしてくれました。

三代にわたる塾経営。いや、塾経営というよりファミリーヒストリー。

中国の貧しい農村に生きる王夫婦を初代として、三代にわたるファミリーヒストリーを描く、パール・バックの『大地』という長編小説がありますが、それに匹敵する重みのある小説だと感じました。

こういうファミリーヒストリー的な小説って好きなんですよね、小説『大地』は私の名前の由来であることも相まって。

またこの小説『みかづき』の話はいずれ。塾を運営していらっしゃる方は、絶対に楽しめると思います。