早朝のご来客 #1

少し前の出来事です。

早朝6時半頃でしょうか、副代表が掃除のために塾教室のシャッターを開けると、少し離れたところに女性二人が困った顔をして立っていらっしゃる。明らかに普通の様子ではありません。お一人は犬を散歩させていらっしゃる女性、もうお一方は上品な感じのご高齢の女性。

副代表の顔を見ると、お二人が近づいておいでになる。犬を連れたご婦人が副代表に耳打ちした話を総合すると、大体こんな感じです。

「足元をフラフラさせたご高齢のご婦人が、道に迷っていらっしゃる風だったので、道案内をしていたが、どうも話のつじつまが合わない。おそらく認知症の方ではないか。ずいぶん歩いていらっしゃったようで、立っているのがやっとというご様子、少し座らせてもらえないだろうか。」

もちろん構いませんよ、ということで、とりあえず教室でご休憩いただくことに。この時点で、私も呼び出されたのでありました。

私事になりますが、長い間同居していた祖母は、世を去る前の数年間、認知症を患っておりました。毎日毎日同じ事を祖母と話す生活だったんですが、今となっては懐かしい気がします。

そんな訳で、認知症の方への対処はよく分かっているつもりです。最大のポイントは、「あなたは認知症で何も分かっていない等と指摘しないこと」だと思います。指摘したところで、ご本人は立腹されるだけで、何も事態は変わらない(いや、むしろ悪化する)。それなら、相手の話の流れに乗っていったほうがいい。ちょっと調子が良いぐらいでいいんじゃないかと思うのです。

私「いや~、大変でしたね。お疲れでしょう。お茶でも飲んでゆっくり休んで下さい。」

ご婦人「こんな朝早くから、ご面倒をおかけして済みませんね。」
(とても申し訳なさそうにしていらっしゃる)

私「いえいえ、いいんですよ。ごゆっくり休憩して下さい。ところで、どちらにお向かいですか?」

ご婦人「娘の家ですの。このあたりのはずなんですけどね……。」

私「失礼ですが、娘さんのお宅はどのあたりですか?分かる場所でしたら、後ほどご案内しますよ。」

ご婦人「○○スーパーの前のマンションですの。」
(頭の中の地図を繰ってみても、そこにマンションはない)

私「そうですか、ちょっと存じ上げないですね。この辺、最近マンションがいっぱい建っていますので、みなさんよく迷われるんですよ。お迷いになるのも無理ないと思いますね~。」

ご婦人「そうですの?」

私「そうです、そうです。ところで、どちらからおいでですか?大阪ですか?」

ご婦人「ええ、○○ですの。」
(私の知らない地名、おそらく他府県です。)

私「○○って、大阪のどの辺りでしたっけ?」

ご婦人「えーっと……えーっと……。」

私「いえいえ、いいんですよ。私もよく忘れちゃうんですよ!大阪と言っても広いですからね。」

もう少し世間話をしてみると、一つ一つのご返答は筋が通っているんですが、話全体として見たとき、大きな混乱が感じられます。行き先も二転三転していらっしゃる。これは間違いない、ということで、私からも警察に連絡することにしました。

犬を散歩させていらっしゃった方も、ご通報して下さっていたようなんですが、ご高齢な上に、足元もかなり不安。一刻も早くご家族の元に戻られた方がよいですし、念のためもう一度通報です。

さりげなく副代表と母に応対を交替してもらい、見えないところから110番通報。もう少し詳しく事情を説明しました。

長くなったので、続きは次回に。