烏(からす)を説得した話・烏にまつわる国語知識

ウソのような本当の話。

時々、我が家のベランダにカラスがやってきます。静かにしてくれるなら別に構いはしないんですが、ベランダの屋根の上をバタバタと走り回ってうるさいんですよね。

そっと窓を開け、忍び足でベランダに出て、カラスの下からバンバンと屋根を叩くと、さすがにびっくりするのか屋根から飛び立つんですが、すぐさま戻ってきて同じことを繰り返します。うるさいなあ。

以前、かなり激しく音を立てて追い払ってやったことがあったんですが、その日はカラスも腹に据えかねたのか、ほぼ一日中、ベランダのみならず、私の部屋の壁やら窓やらをコツコツ突きまくりました(笑)。執念深い鳥だなあ。イライラ。

さすがに夜になってその復讐も止んだんですが、次の朝のこと。久々にバイクに乗るべく、鼻歌混じりで準備をしていたんですが、グラブを忘れてしまいました。バイクから離れ、グラブを取りに行くこと数十秒。で、戻ってくると……やられたあああああ!

バイクの上に糞を落とされていました(涙)。それもものすごく掃除のしにくいテールランプとカウルの間に脱糞するという念の入れよう。隙間の部分は拭き掃除だけではキレイにしきれなかったので、結局後日テールランプのあたりを分解せざるをえなかったという。

もう完全に怨恨による犯行ですよね……。

で、そばの電信柱の上の方を見上げると、仇がしれっと止まってこちらを見ています。「おいこら!降りてこいや!焼き鳥にするぞ!」と言いたいところですが、早朝から上空に向かって叫ぶのは、事情を知らない人からすると、どう考えてもおかしい人。グヌヌヌ。黙って引き下がるしかありません。

私は食したことがありませんが、そもそもカラスってむちゃくちゃ不味いらしいんですよね。小泉武夫氏が『不味い!』という本の中で書いていました。絶対に食べたくないと思わせられるほどゾッとするような表現。ご興味のある方は是非ご一読の程を。


さて、そんなことがあって以来、「カラスは不倶戴天の敵なり」と思っていたんですが、Twitterのまとめなどを見ていると、「カラスは真剣に話しかけてやると、結構こちらの意図を把握してくれる」なんてことが書いてある。

いや、カラスが知能の高い鳥だというのは分かります。でもいくらなんでも、人語を解するなんてね……。まさかね。

Twitterに見る「カラスに話しかけると・・・」

で、ある日、カラスが久々にやってきて、ベランダでバタバタやり始めたので、ちょっと試してみることに。

私がベランダに出ると、相手もちょっと警戒して、我が家のお隣さんのベランダに移動します。気にせず話しかけてみます。

「なあなあ、いつもよくここで音を立ててるやろ。」

カラスはそれ以上逃げもせず、じっと私のことを見つめています。

「すごく困ってるんだよ。君がバタバタ音をたてるから仕事に集中できないよ。もう少し静かにしてくれたらとても助かるんだけどな。だめかな。」

やはりカラスは、じっと私のことを見つめています。

「あと、コツコツと俺の部屋の壁も叩かないで欲しいな。壁も傷むし、うるさいからね。お願いを聞いてくれたらうれしいな。」

そんな感じで、説得するように穏やかに話してみました。カラスはわめき立てるでもなく、賢げな目つきでじっと聞いてくれていました。本当に分かってくれるとは思いませんが、なんとなく意志疎通ができているような気も……。


そんな風に説得(?)したのが2年ほど前の話。

実はその日から今に至るまで、我が家のベランダでカラスが騒ぎ立てたことは一度もないんですよね。以前はひと月に一度ぐらいはやって来ていたんですが、不思議なほど来ない。

こちらの言い分をカラスが本当に理解してくれた?

そう考えるのはやや早計でしょう。ただ単に「ここに住んでいる人間、かなりやばそうな奴だから、もう近寄らんとこ」みたいに思われているだけかもしれないわけですから。

しかし、あの日のカラスの表情や雰囲気を鑑みるに、何となく「理解してくれた」という考えも捨てがたい気がしています。

私が話したカラスがたまたまこの周辺のリーダー格のやつで、「おい、みんな、あの『宮田塾』とかいうところで、あんまり騒ぎ立ててやるなよ。勉強する場所だし、あの塾長も忙しそうだからな。わかったな!」

一同「カアァァァァ〜」

みたいな(笑)。

この事件以来、結構カラスが好きになっているんですが、この鳥、色で損しているなと思います。白や茶色の鳥だったらもっと人気があったのでは。賢いし、形もよく見るとかっこいいですからね。


あ、そう言えば、このブログは国語塾のブログでした。ちょっと国語に関する話をば。「烏(からす)」にまつわる知識です。

中国古代の神話では「太陽には三本足の烏がいる」ということになっておりまして、「烏」という漢字には「太陽」という意味があります。

したがって、「烏兎(うと)」とは「太陽と月」のこと。

次に、「烏合の衆(うごうのしゅう)」は、「統制がとれておらず秩序のない人の群れ」を指しますが、これはちょっとカラスに対する名誉棄損になるかもしれません。

あと、漢文の世界では、カラスはとても親孝行な鳥ともされています(本当のところは知らないけれど)。幼い頃の養育の恩に報いるべく、食べ物を口移しにして年老いた親を養うという話から、「烏鳥私情(うちょうのしじょう)」「烏哺(うほ)」という言葉もあるぐらい。いずれも「親孝行・親の恩に報いること」をいいます。

そうそう、塾ブログとして最も大事なのはこの知識でしょうね。「烏」は「いずくんぞ」と読んで、反語を表す副詞になります。

「烏不通宮田塾」だったら、「いずくんぞ宮田塾に通はざらんや」と読んで、「どうして宮田塾に通わないことがあろうか、いや通う」という意味になります。ちょっと宣伝(笑)。

ここから「烏有(うゆう)」という言葉も理解できるようになります。これを書き下し文にすると、「いずくんぞ有らんや」つまり、「どうしてあろうか、いやない」ということになりますので、結局は「何もない」という意味になります。

「火事によって、営々と築き上げた財産は烏有に帰した」なんて文章も、もう理解できますよね。

今日はこれぐらいで。カァ〜。