日野皓正氏の中学生ビンタ事件 何が肯定派・否定派を分けているのか

まず念のためにお断りしておきたいんですが、当塾では生徒さんに体罰を振るうということは絶対にありません。今後も振るうつもりは一切ありません。下記は、あくまでもそうした立場からの一意見だとお考えくだされば幸いです。

日野皓正氏が中学生にビンタを喰らわせるまでの経緯

先日来、ジャズミュージシャンの日野皓正氏が中学生にビンタを喰らわせたという事件が報道されていますよね。マスコミの報道を総合すると、事実はこういうことらしい。

東京世田谷区立中学の生徒たちのバンドが、ジャズコンサートを開く。このコンサートは、一流のミュージシャンから指導を受けた成果を披露する大切な舞台。

ライブのチラシによると、「通常では体験することのできない先駆的・先進的な学習・活動に触れる機会を提供する、新・才能の芽を育てる体験学習「Dream Jazz Band Workshop」(世田谷区教育委員会主催)で結成された、区立中学生によるジャズバンド。日野皓正が校長を務める。」と記されています。

ここからは、普段から日野氏が中学生に対して指導・音楽監督をなさっているということが伺えます。おそらく、当日だけ顔を出すような売名行為的なものではなかったでしょう。

日野氏のような有名ミュージシャンは超多忙なはず。そんな中で音楽家ならぬ一般人(しかも中学生)を指導するのは並大抵のことではないように思えます。失礼ながら大して金にもならない仕事でしょうし、今更顔を売る必要もありません。音楽の芽を育てたいという真摯な思いがあればこそ受けていらっしゃる仕事であろうと思えます。

ライブ当日は、中学生一人一人がソロを回す部分があったらしいんですが、メンバーは皆、持ち時間を守って各自思い思いのソロ演奏を披露したとのこと(これって、本当に素晴らしい経験だと思います。ここから本格的にジャズ演奏にのめり込む若者がいても何もおかしくない)。

ただ、ドラムを担当した少年だけが、一人長時間にわたってソロ演奏を続ける。独善的な行為と言わざるを得ない。他者の演奏機会(それも非常に価値の高い機会)を奪っているわけですし、安からぬ料金を支払って観覧してくれている客に対しても申し訳が立たない。

監督たる日野氏はその役目を果たすべく、ステージ上でドラム少年からスティックを奪い取る。この段階で、「お前のソロは終わりだ、早く代われ」というメッセージは、ドラム少年にはもちろん、他のメンバー・観客全員に伝わったと思われます。

しかし、ドラム少年、依然として素手でソロ演奏を続ける。ここで日野氏が再登場、ビンタを喰らわせた。

こういう流れのようです。

私と副代表の感想

私と副代表がこの話を聞いた時、「日野氏はすごく真面目な人だな」という感想を持ちました。というか、副代表などは「ビンタで済ますなんて優しい人やなあ、跳び蹴りを入れればいいのに」などと申していたぐらいでして(笑)。

もちろん、体罰を賞賛しようというわけではないんです。でも、この場ではドラム少年に明らかな非がありますし、ライブの最中、自分の演奏でハイになっている少年に普通の言葉が通じるとも思えません。実際、スティックを奪ってもまだ彼の目は覚めていないわけですから。

最高責任者が出ていって、ビシッと場を収める。それだけの話なんじゃないでしょうか。いや、むしろ、観客の見守る中で「火中の栗を拾っている」と言えるかもしれません。有名人になればなるほどそんなことは難しいと思うんですよね。

大人のメンバーは我慢すればいいかもしれませんが、同じ中学生バンドのメンバーの演奏機会を奪い、お金を払って見に来ている人たちに不快な自慰的行為を延々と見せつける点において許されるべきではありません。このドラム少年の行為、周囲の大人たちが矯正してやらねばならない行為であることは、間違いないと思います。今矯正しないで何時するというのか。

ちなみに、報道によると、ドラム少年本人は反省しており、その保護者も日野氏に感謝しているとの由。そりゃそうだろうと思います。私が親なら日野氏に菓子折りでも持って謝罪・お礼に伺います。

否定派の意見と肯定派の意見と

さて、私たちは、この報道を聞いて以来、色々な人の意見を見聞きすることにしました。私は主にネット担当、副代表はテレビ担当。

思った通り、様々な意見が出ました。大きく分ければ、肯定派と否定派に分かれるんですが、否定派の中でも、全く説得力のない意見と、傾聴に値する意見がありました。

まず、音楽・ジャズの精神には「逸脱」があるのだから、それを体現したドラム少年は悪くないという意見。う〜ん(笑)。コンサートのチラシを見る限り、このコンサートが「学習・活動に触れる機会を提供する」ことを目的としていることは明白ですから、それは成り立たない意見でしょう。他人の学習機会を奪う権利はドラム少年にはありません。「逸脱」したければ、ライブハウスか何かを借り切って、自分の力で観客を集めて、好きなだけすればよいわけで。

次に、「体罰は何があっても許されるべきではない」という意見。この人たちは、ドラム少年に非があることは認めているわけで、その点は私たちと同意見。彼ら曰く「あくまでも言葉で説得すべきだった」曰く「日野氏の指導力に欠けるところがあった」。

私たちからすると、これは全くあたらない批判だと思います。

終演時間が迫り、他の子達の演奏時間も確保してやりたいという急迫性がある。明らかに独善的なことをしている不正性もある。そして、上述のように、スティックを取り上げるという実力行使をしても演奏をやめてくれない以上、言葉に頼れる状況でもない。

だとすれば、言葉で説得できる状況では既になかっただろうと思います。そして、これは指導力の問題でもありません。いくら指導しても、誰が指導しても、子どもがルールに従わないなんてことは、いくらでもあります。

やっぱり私たちが共感を覚えたのは肯定派の人たちの意見。私も副代表も、体罰を是認したいわけではありませんが、どう考えても、今回のケース、日野氏の行動は妥当な行動にしか見えない。

何が肯定派・否定派を分けているのか

で、ようやく本題なんですが、何が肯定派・否定派の分水嶺になっているのか。

実は、副代表に指摘されて気付いたんですが、肯定派の人たちは日野氏自身を含めて、「子どもを実際に育てた経験のある人」なんですよね。より正確には「男の子を実際に育てた経験のある人」なんです。

子ども(特に男の子)を育ててみれば分かるんですが、大人の思うようにはいかないのが当たり前です。むしろ言うことを聞かないのがデフォルトみたいなところがある(笑)。それはそれで全然構わないんですが、大人から見て、「これだけはちゃんと教えておいてやらないといけない」とか「このままだと命の危険がある」とかいった場合には、やっぱりガツンと言ったり、場合によっては言葉以外で教え込まねばならない時もあるんですよね。

こうした現実が「男の子を実際に育てた経験のある人」には見えるんだろうというのが副代表の意見。なるほど。

確かに、今回の日野氏の行動を否定的に見ている人は、子どもがいない、または、家庭を持っていない人が多いように見えます。爆笑問題の太田氏は強く日野氏の行動を否定していましたが、やっぱり上記の条件に該当しています。彼の意見はいつも子どもじみた偏りを持っていて、私には何が面白いのか全くわからないんですが、今回も同じ感想。

指導者に子育て経験があるかないか

実は、私たちが自分の子どもを学校や指導機関に預ける際、一番気にしているのは「指導者に子育ての経験があるか否か」ということなんです。

お子さんをお持ちの方なら分かっていただけるかと思いますが、子どもを育てるって、理屈や理論が通じないところがありますよね。良くも悪くも、実際の経験しか通じないというリアリズムがある。育児って、本当に面白いけれど、きれいごとで済む話でもない。

とすれば、子どもを預けるなら、「子どもの実際を知っている人=実際に子どもを育てた経験のある人」に限る、というのが私たちの考え。もちろん、お子さんのいない人でも子どもの扱いをよく分かっていらっしゃる人もいるんですが、それを調べるのは至難の技。逆に、預ける指導者にお子さんがいるか否かは簡単に知りえます。そして、それは強力な判定基準として働くというのが、私たちの実体験からの感想です。

子どもの有無はデリケートな問題なので、これ以上の深入りはしませんが、お子さんのいらっしゃる方には、私たちの考えがご理解いただけるのではないかと思います。

当塾のスタンス

繰り返しになりますが、私たちが生徒さんに体罰や暴力を振るうことは決してありません。生徒さんに問題行動のある場合は、何度も言葉で説得を重ねるとともに、保護者様とのお話し合いの機会を持たせていただくことにしています。それでも、どうしても問題行動が直らないという場合は、残念ながら、退塾措置をとらせてもらうことにしています。

塾としては、それができることの最大限だと考えています。体罰を振るってでも言うことを聞かせて欲しいとご希望の方もいらっしゃいましたが、それはさすがに無理です。ちょっとドライかもしれませんが、法的リスクをそこまで取ることは難しいからです。

そうした意味でも、日野氏の行動は勇気ある行動だと思います。この件、色々な方の意見が分かれて、とても興味深い話でしたので、継続してウォッチングしたいと思います。